ただ一つの人生にわたって

snowdrop

ひとつを越えて

 一度の人生を満足に生き抜いたのならいざ知らず、往々にして、生者は道半ばにありながら、偉そうに人生を語りたがる。

 今日という日は、沈黙の過去へと過ぎ去り、明日はまだ手付かずだというのに。

 人は誰しも成功を求めたがる。


 何故か?

 答えは至極簡単である。


 競技において挑戦者の誰もが、勝つためにその日を迎えるのと同じ。

 生まれたからには、一廉の人物、成功の人生を送りたいと願うからだ。

 何処に戦う前から負けるつもりの挑戦者がいるのだろう。


 欲しいもの、やりたいこと、手にしたいなにか。

 それらは奇特な誰かの慈悲で贈られてくるものではない。

 己が自ら、その手を伸ばし、足を運び、勝ち取らねば手にできないのだ。

 故に、挑戦者である我々は、はじめから負ける戦を望みはしない。

 己が爪を研ぎ、技を磨き、戦う相手に敬意を払い、全力を持って叩き潰す。


 戦いの最中、芽生える友情もあろう。

 助け合う仲間もできるかもしれない。


 傷つき倒れ、二度と羽ばたけなくなろうとも、一人孤独に迎える夜が訪れたとしても、この世に生まれたからには貴男も、そこの貴女も、己の命を賭して勝つために戦いに挑まねばならない。


 我々は、二度とは戻らない時間をくり返し生きながら未だ見ぬ明日を求めている。

 単調に思える日々のくり返しの先に立ち止まり、あの日を振り返って若さに焦がれ悔やんだとしても、二度とは戻らない。

 時間だけが平等に訪れるからだ。

 過ぎていく時間は誰にも止められない。

 だからこそ、限りある生を大事に生きねばならない。


 我々ができることは唯一つ。

 ただ夢中に走り続ける、それだけ。


 走り出す瞬間、我々はつねに成功するイメージを抱いている。

 上手くいく。

 絶対できる。

 必ずやれる。

 忘れてはならない、振り返っても後ろには夢はないから。


 走り出す瞬間、我々はつねに送り出してくれた縁に感謝する。

 友達がいた。

 仲間がいた。

 父母がいた。

 あの日の背中を押してくれた温もりを忘れてはならない。


 走り出す瞬間、我々はつねに明日を求めて自らが決断する。

 思い悩むのもいい。

 相談するのもいい。

 意見を聞くもいい。

 だが最後に選ぶのは誰でもない、己が自身だ。


 走り出したのなら、我々はつねに誰かに笑顔をみせている。

 嬉しいとき。

 悲しいとき。

 寂しいとき。

 苦しいときこそ笑みを忘れず、人を喜ばせねばならない。

 

 走り出したのなら、我々はつねに溜めずに受け流していく。

 流れていく川を見よ。

 流れていく雲を見よ。

 流れていく人を見よ。

 立ち止まればたちまち振り返り、淀んで沈んでしまう。


 走り出したのなら、我々はつねに運を手にしている。

 悪運も運なり。

 不運も運なり。

 幸運も運なり。

 生きている者は皆、運があり、ついていると信じている。


 走り続けるのなら、我々はつねに今を生きている。

 昨日は生きた。

 明日も生きる。

 今日を生きよ。

 藻屑の過去や訪れぬ明日より、この瞬間、ただ今を生きよ。


 走り続けるのなら、我々はつねに時流に乗っている。

 若さは最大の武器。

 時間は最大の味方。

 流行は最大の産物。

 ただ一人で走るのなら、新しい時流こそ最大の味方なり。 


 道すがら迷うのなら、我々はつねに自分をみつめる。

 正しい道はない。

 貴方の道がある。

 遥かに道が続く。

 優秀な自分も不甲斐ない自己も、認めた先に道が開く。


 道すがら迷うなら、我々はつねに悪態をついたりしない。

 愚痴は言わない。

 ボヤキもしない。

 悪口も言わない。

 失敗したのではなく、うまくいかない方法を発見しただけだ。

 

 先へ行くのなら、我々はつねに誓いあった約束を守る。

 他人との約束。

 仕事上の約束。

 自分との約束。

 約束を守るのは縁のつながりを大切にするためである。


 先へ行くのなら、我々はつねに責任逃れをしない。

 他人のせいにしない。

 モノのせいにしない。

 方法のせいにしない。

 うまくいかなかったのはすべて、己が責任にほかならない。


 行き急ぐのなら、我々はつねに身の回りを片付ける。

 部屋の乱れは心の乱れ。

 机上の乱れは頭の乱れ。

 服装の乱れは己の乱れ。

 整理整頓を心掛け、心を平穏に保たねばならない。


 行き急ぐのなら、我々はつねに期限を設けねばらない。

 長期的な展望は遠くに。

 中長期的目標は目印に。

 小ぶりな目的は気軽に。

 達成期限を決めて即行動するからこそ、夢に近づける。


 巡り会えたのなら、我々はつねに成功した者をまねる。

 あやかりたい。

 かこつけたい。

 手に入れたい。

 自分が目指す先へ向かう足がかりとして利用しようとする。


 巡り会えたのなら、我々はつねに笑顔でお礼をいう。

 ありがとう。

 ありがとう。

 ありがとう。

 受けた恩は返すのではなく、相手へ感謝するものなり。


 走り続けているのなら、我々はつねに成功するまで続ける。

 百回の苦悩。

 千回の挫折。

 万回の絶望。

 現実に叩きのめされても、自ら立ち上がらねばならない。


 走り続けているのなら、我々はつねにブレずに生きねばならない。

 生きなさい。

 進みなさい。

 歩きなさい。

 誰のためでもない、あなたにだけ許された道だから。

 

 どこまでいけば成功なのか。

 成功を掴んだと思った今日が過去になり、憧れが思い出に変わるその日まで、我々は走り続けなくてはならない。

 生き続ける限り。

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