第3話 黄昏時

「ふぁ〜ぁ・・・。疲れたぁ。」

隣を歩く同じ若乙女が、欠伸をしながらつぶやく。

「カリナはいつも眠いじゃん。」

少し呆れながらも、私は微笑を浮かべて言った。

「そうかなぁ」

そう言うと後頭部を撫でながら気だるそうに返事をする。

この子はカリナ。

同じ若乙女で、近くに住んでいる。

夕日に似た明るい髪色がキラキラと輝いていた。

少しおっとりなマイペースで、たまに心配になる。

先日も教師乙女のナリル先生に宿題を忘れたことで叱られていた。

「カリナ、ウワギヲヒキズッテイル」

カリナの守犬であるシンが急に話し出す。

優しそうだが利口な守犬で、茶色と白の毛並みがはっきりしている。

「え!?」

カリナが慌てて、上着を手繰り寄せた。

「えへへ。」

カリナがこちらをみてお茶目に笑った。

「キヲツケロ、マタナクスゾ」

丸まった尻尾を振りながら、カリナを見て忠告した。

「へへ。ありがとうシン。後でおやつあげる。」

「ベツニイイ。」

シンは興味なさそうに向き直ったが、ドーナツのような尻尾はブンブン振っていた。

そんな様子に私もカリナも微笑んだ。レヤは少し耳が反応していた気がする。


「それにしても、シンの言うとおりだよ。カリナはもう少し気をつけないと、この間もナリル先生に怒られてたでしょ。」

帰路に着きながら、他愛のない会話をする。

「ナリル先生はきびしすぎるよぉ。私はトア先生がいいなぁ。優しいし、みんなに好かれてるし。」

確かにトア先生は優しい。みんなに好かれている。宿題を忘れた子やちょっと悪さしてしまった乙女にも優しく諭して、怒られている乙女がいたら庇ってくれるほどだ。

それにトア先生は信仰心が強く、本来大乙女以上にならないと任せられない儀式にも、重要な役割をしてみんなの憧れの的であるほどだ。

ナリル先生は、厳しくて評判だった。居眠りしている乙女がいれば、躊躇なく叱りつけ、宿題を忘れようものなら烈火の如く叱る。

しかしとてもしっかりしていて頼り甲斐があり、授業も面白くて私は好きなのだが。

「イサヤはいいなぁ。叱られなくて。レヤも優秀だし。」

カリナはちょっとうなだれながら言う。

「ちょっと!宿題普段からしっかりやらない人に言われたくないっての!」

少しカリナの肩を小突いた。

「だってぇ。信仰の授業は面白いけど、計算とか錬金とか苦手で・・・。」

カリナは退屈そうに伸びをする。

「まぁわかるかも・・・。私も信仰の授業苦手だし。」

カリナが少し驚いたように見てくる。

「ええ!?なんで?あんなに面白いのに!もしかして覚えられないとか?」

「いや、そんなんじゃないんだけど・・・。」

言葉に詰まっていると、カリナが心配そうに顔を覗き込んでくる。

「だって・・・。なんか気持ち悪くなっちゃうっていうか・・・。」

「例の夢?」

私は無言で頷く。

カリナには例の夢を話していた。

カリナは少乙女の頃からの親友だから、私が昔から見る夢のことで悩み続けているのが気掛かりだったようだ。

『大丈夫か?』

レヤが心配そうに見てきた。

『うん、平気。』


「そっかぁ。でもさ!それなら2人で苦手なところ補い合えばいいよ!そのために私たち仲良くなったのかも!運命だね!」

少し沈んでいた私の気持ちが、カリナの笑顔で少し和らいだ。

「うん。ありがとうカリナ。」

にっこり笑ったカリナが帰路に向き直る。

「それより、明後日は儀式だね!今回はどんなご馳走かな〜。」

カリナは宙を仰ぐ。

儀式にはあまり参加したくないけど、そうも言ってられない。必ず全員の参加が義務だからだ。

それにカリナが楽しみにしてる。

親友が嬉しそうにしているのは決して悪くない。


夕日を背に浴びながら、帰路を急いだ。

「楽しみだね。」

「うん!」

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犬乙女 柳 和久 @Mark-Yamato

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