第2話 成り立ち

※あくまで空想上のものですが、宗教的な表現が含まれます。苦手とする方はご注意ください。





犬乙女とは、主によって『命』が与えられます。

この世界は主であるメア様がお作りになりました。

主は初めに大樹を植えるために、土を掘り大穴を掘られました。

その大樹と大穴を使い、世界を造りました。

その大樹が我らの聖なるシンボルともなっている『聖樹』であり、その大穴は我らが生まれ出でし『聖洞』となっています。

まず初めに主は天から・・・。


我ら乙女は最後に聖洞の泉より造られました。

しかしそれと同時に呪いも生まれてしまいました。

弱くて儚い乙女たちは、あっという間に呪いに侵されていってしまいます。

そのため主は、聖樹の根元より守犬を造り、我らに与えてくださったのです。

守犬は呪いを退け、私たちは主の守犬に安らぎを与える。


・・・

「そのようにして我々は生まれ、ここで生活をすることができているのです。」


幾度となく聞いたことのある話。

儀式や集会で、大乙女がいつも語る。


ポカポカと暖かい陽気の窓の景色を眺め、はっきりしない午後の頭で聞いていた。

教壇では教員の乙女が、教科書を見ながら教えを説いている。

それを真剣かそう見せているのか、真面目に聞く若乙女たちと守犬。

隣の床では、レヤが伏せて肩を緩やかに上下させている。

いいなぁ私も寝たい。

イサヤは大きくあくびをした。

耳飾りがチリチリと音を立てて揺れた。

『イサヤ』

急に頭に声が響く。聞き慣れた声だが少し不意を突かれ、出かけていたあくびが引っ込む。

『レヤ!急に呼ばないで。びっくりするでしょ。』

イサヤは、横目でレヤを睨んだ。

『退屈なのはわかるが、窓の外を凝視してると乙女に叱られる。聞いてるフリはしておくべきだ。』

レヤはチラリと片目を開けてすぐ閉じた。

『なによ。自分は寝てるじゃない。』

羨ましいと思っていただけあって、拗ねる気持ちが湧いてきてしまった。

『寝ているように見えるだけだ。イサヤが眠らないように監視してる。』

『調子いいんだから。』

イサヤはそう言いながら、また叱られるのは面倒だからと聞いてるフリをしはじめる。


つまらない・・・。

みんなよく聞いてられるなぁ。

私はどうしてもこの『世界の成り立ち』の話がしっくりこない。

この話はおとぎ話ではないと思う。

私はまだ若乙女だから立ち会ったことはないけれど、実際に乙女が聖洞から生まれたばかりの乙女を聖樹に連れていくところを見かけたことがある。

窓の外で強い風が吹いた。

でもどうしてこんなにしっくりこないんだろう?

どこかおかしい感じで、それだけじゃないような。

初めてこの話を聞いた時からどことなく違和感を覚えている。

理由はわからないけど、おそらく昔から見る変な夢のせいな気がする。


ほとんど真っ暗な中で暖かいものに包まれている。

ドロドロとした液体のようなものに包まれて、その中で唯一丸く白いものが語りかける。

『タスケ・・・テ。ヤメ・・・』

ほとんどなにを言っているのかわからないし、その白いものはすぐに離れて消えてしまう。

そんな夢・・・。

他の若乙女は見たことがないと言うし、なんなら気持ち悪がられた為もう言うことをやめた。

乙女にも話してみたが、「悪い夢でしょう。忘れなさい。」としか言われなかった。


「さあ!ではみんな最後に祈りましょう!」

乙女の呼びかける声でハッと我にかえる。

その掛け声で若乙女たちは立ち上がり、手を組んで祈りの言葉を唱えた。

「我らの光。呪いを退け、安寧をもたらす力を授けたまへ。我らが主、メアの名の下に。」


祈りを終えるとちょうど鐘がなった。

「では、本日の課題は儀式があるため来週に持ち越します。内容は儀式に参加した際のものにする予定です。必ず参加してくださいね。本日はここまで。」

そう言い残して、教員の乙女が退室していった。

教室に緩やかな空気が流れ始めた。

やっと終わった。

レヤがあくびと伸びをして立ち上がる。

『イサヤ、今夜から儀式だ。早く帰るぞ。』

『わかってるよ。』

早く帰って、儀式に備えよう。

せっせと身支度を始める。

「イサヤ!一緒に帰ろ!」

教室の入り口で友達の若乙女が呼んでいる。

「今行く!」


深く考えるのはやめよう。

気になるけど、いつか夢見なくなる日が来るよね?

そう思いながら、出口へ駆けた。

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