#9 バローティエ家と甘い香り
二人は客間で座って待っているようにと言われていた。
案内された客間はいかにも貴族趣味というような風景だった。ずっと街の暗部で生きてきた自分には触れたこともない絨毯や壁紙、調度品の数々には口を開けて見つめるほか無かった。軍需で儲けている成金などにしてみれば多分、「これは~風の~建築ですかな、奥様?」などと衒学な会話をするのだろうけどそんなことは無理だった。
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レシェールは鼻をこすりながら、壁にかけられていた肖像画を見ていた。下に書いてあるのは名前なのだろうが、筆記体で書かれていて自分には読めなかった。
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レシェールはうなりながら、窓の外へと視線をそらした。綺麗に整えられた庭園には季節の花々が咲き誇っている。
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レシェールが黄昏れながら不思議なことを言っている間にリカルティア嬢は使用人を侍らせて戻ってきていた。使用人が押しているセットの上には真鍮のポットとカップ、棒バネクリャンが載せられた皿が乗っていた。使用人はそそくさと自分たちの前に皿とカップが置いた。そして、皿にバネクリャンが切り落とされて、カップにリウスニータが注がれる。自分には人生で一度も味わったことのない厚遇にどう反応すれば良いのか分からなかった。
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固まっているとリカルティア嬢が勧めてくる。眼の前のリウスニータの入ったカップをおそるおそる持って匂いを嗅いでみる。
レシェールはといえばバネクリャンの方を一口食べたところだった。
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レシェールはリカルティア嬢の曖昧な答えを不思議に思ったのか、首を傾げた。私はその奇妙な間に何か聞き出せるような気がしていた。
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レシェールがいい感じに被せてくる。その言葉にリカルティア嬢は顔色を変えることは無かった。リウスニータを一口飲んで、彼女はため息を一つ付いた。
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どうやら、遠まわしには聞き出そうとすることは出来ないらしいかった。そもそも私にはこういったやり方は向いていない。直接訊いてしまったほうが速いと思ってテーブルに手を付いて、乗り出してリカルティア嬢の眼の前に来る。
訊くのは遺書代筆の依頼者、トゥフィア・ド・バローティエの話だ。
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レシェールが横に出てきて小声で止めようとするが手で押し返す。リカルティア嬢はどう答えたら良いのか分からないといった困惑の表情でしばらく返す言葉に困っていた。
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レシェールが咳払いをする。
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私もレシェールもシンクロしたように首を傾げる。何か条件を課されるのだろう――そう思っていたが、そんな考えもすぐに裏切られることになった。
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戦う詩人と人形の町、または賭博人 Fafs F. Sashimi @Fafs_falira
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