第3話 雑技団結成

「仲間探しって、まずどこに行くんですか?」 

「あ…、」

私に問いかけられ、目を逸らそうとする椎名様。 

「大丈夫です。安心して下さい」

と横から伊吹さんが話す。

「6人の仲間にはそれぞれ僕のようにこの紙を持っていると思いますよ。それにこの森はよく救世主達が集まりやすいと言われていますし」

「そうなんだ…」

伊吹さんの話を聞き、納得する。

「そ、そうそう。それそレー、ははは」

椎名様も納得しているご様子。というか、分かっていなかったな…。


「ねぇー、どちらにせよ。その紙があっても意味ないんじゃない?」

椿さんが伊吹さんに尋ねる。

「いえいえ、この紙があれば…」

と伊吹さんも対抗する。伊吹さんは、こう思っているらしい。



伊吹さん「いませんねぇー」

他「「「ですねー」」」

てくてく(歩いています)

ドスッ(人と人がぶつかりました)

伊吹さん「痛っ」

???「痛てぇー」

伊吹さん「ん?むむむ」

???「は!な、それは!」

伊吹さん&???

  「紙ーーー!!!」


というような感じになるらしい。

「「「いや、絶対ならない」」」

「ちょっ!ひどいですよ…」

でも、伊吹さんが頑張っているのはよく伝わってくる。

「初めから詰んだネー」

「そんな事言ってる場合じゃないですよ、椎名様」

伊吹さんが必死で考え込んでいる。その時、空から一枚の紙切れが落ちてきた。

「はっ!まさか…、僕が思ってた通りに…」

「ならない、ならない。伊吹、落ちつコー。って、おや…」 

紙切れをとった椎名様の顔から笑顔が消える。

「どうかしました?」

私は椎名様に駆け寄る。椎名様は冷ややかな目で駆け寄る私を見つめていた。走るのを止め、椎名様の正面で止まる。私にニコッと笑いかけ、椎名様は伊吹さんの方を振り向く。

「伊吹、ちょっと仕事が入っちゃったよ…。行ってくるから、後はヨロシクねぇー」

「……。ちょっ!は!?何です、その仕事?」

伊吹さんらしくない声が出たので、思わず私もビックリする。


「とりあえずー、後は頼んだよ〜。じゃぁ!行ってクルー」

と宙を舞いながら手を振る椎名様。

(なんて、呑気な方なんだ…)


なんやかんだで、3人になってしまった私達。

「これから、どうするー?」

椿さんが私達に問いかける。

「どうしようもありません。仕方ないので、手分けして探しましょう。僕は、この森の奥にある洞窟を探してきます」

「そんな所、いるの?」

椿さんが疑問になりながら、ここら周辺を探している。

(なら、私は…)

と思い、今まで来た道をもう一度見てくることに…。

(そう言えば、さっきの椎名様の目…。

冷たかったな…。べ、別に暖かく見守って欲しいわけではないけど…。はぁ

、考えても仕方ない…か…)

そう思い、後ろにいる椿さんを見る。(椿さんは…ってあれ?いない…)


* * * * *


「あれ、伊吹じゃん。何してるの?」

ふと前を見るとそこには洞窟に行っているはずの伊吹の姿があった。

「あれ?椿さん?どうしました?」

「それは、こっちのセリフよ。洞窟に行くんじゃなかったの?」 

不思議に思っていると伊吹が困り顔でこちらを見てくる。

「実は、無かったんですよ。洞窟」

「は?ない…?」

「えぇ、それで分かったんですけど…

この森、迷子になりやすい…“知られずの森”でして」

伊吹の発言に固まる私。

(とりあえず、一人じゃなくてよかったー)

安堵していると伊吹さんが私の後ろをジーと見ている。

「どうしたの?伊吹」

「いや、その。…千冬さんは?」

「いないの?私の後ろに?」

ふと後ろを振り向く。そこには、ボーと佇んでいた千冬ちゃんが…いない。



「きゃぁーーー!!!千冬ちゃん、どこ行っちゃったの?」

「こっちのセリフですよ。どうしよう、椎名様が……。いや、僕が忘れていた事が悪い……。あぁー、忘れていたーー!」

「どうして、そんな大事な事忘れているのよ!」

「どうしよう…。ひとまず、椎名様に報告…の前に僕たちでも探しましょう!」

「は?嘘でしょ」

「いえ、本気です!」

「そこだけ元気に言わなくていいわよ!あのバカ神め、なんでこんな時にいなくなるのよー〜!!」

私達の平穏な日々がこの事件から崩れかけていった。


「あ、手つなぎましょ」

「嫌ですよ」


* * * * *

(遠くまで来てすぎてしまった…。

伊吹さんと椿さん、今頃何してるのかな?本気で逸れてしまうなんて思いもしなかった…)

「あー、どうしよー」

つい声を出してしまう。



「おや、泣いているのですか?」


急に声がしたのでビクッとしながら後ろを振り返る。そこには、黒と紫の蝶々柄が入った着物を着ている仮面を被った人が一人。

(声からして男かな…というか、泣いてないですけどでも丁度いい)

「あの!ここで迷子になってしまったんです。どうしたら、元に戻れるか知っていますか?」

仮面の男に聞く。男は、首を傾げたまま私を見つめている。

(なんだろう…不気味だ。でも、この男の仮面の奥から見える緑色の目…どこかで)

黙っていた男が喋りだしたかと思ったが意味の分からないことを言ってくる。

「あぁ、貴方が彼女の。なるほど、これは奇跡でしょうか?」 

「え?」

その男は、私にゆっくりと近づいてくる。私は一歩ずつ後退りする。

「あ、逃げないで下さい。変質者ではありませんから」

「じゃぁ、誰ですか?」

「……。貴方には何もしませんので、さぁ、こちらへ」

(答えないのは怪しすぎる。どうしよう)

考えながらふと前を見るとそこには仮面の男が立っていた。

(い、いつの間に…)

「実は私、待てない派なんですよ。ま、何言ってるか分からないと思いますけど…。それより、この手を取ってくださいな、邪鬼の末裔の少女よ。あの人殺しの神は放っておいて…ね」

(邪鬼?末裔?人殺しの神?どう言うこと…)

私はいつの間にかその男に強く手を握られていた。

その時だった。草の茂みから、苦内が投げられた。

「危ないですね…」

その男は華麗によけ、私に背中を向けた。

(は!今だ!)

その隙を狙って、ジャーマンスープレックスをその男に決めつける。

(決まった!!伊吹さんと対椎名様用の技を練習しといてよかった。にしても、どうして避けなかったんだろう)


「うわぁ!!凄ーーい!パチパチ」


茂みから出てきたのは小さな男の子だった。その見た目はまるで忍者で、薄紫の短髪に夕焼け色の瞳をしていた。

そして、その横から真っ白な長髪の女性が共にでてきた。その女性は雪模様の袴を着ており、濃い紫色の瞳がとても綺麗に輝いていた。 

「貴方達は…?」

私はその二人に首を傾げながら言う。

彼らは、クスッと笑って答える。

「もちろん、僕らは君と同じ選ばれた神使だよ」

と忍者の男の子君。

「えぇ」

と袴の女性。


「え、えぇ!!お二人とも?」

「「うん!」

  うむ、」」

(す、凄い展開になってきた…)

少し安心し、彼らの元に近寄る。それと同時に私がジャーマンスープレックスを決めてしまった相手、仮面の男が立ち上がった。

「痛いじゃないですか。でも、貴方を傷つけたら痛い目に遭いますから。それに、利用価値はまだありますし…。あ、もうすぐそちらのギャラリーが揃いそうなので今日はこれにて」

と言い、一瞬で消える仮面の男。

(一体、誰だったんだろう)


その瞬間、誰かが私を呼ぶ声が響く。聞き覚えのある声だ。

「千冬ちゃんーーー!!」

「椿さん!そして、伊吹さんまで!」

そこには、椿さんと後ろから伊吹さんが来ていた。

「よかった。ご無事だったのですね」

「なんか、心配かけちゃいましたね」

と椿さんと伊吹さんに謝る。 

「謝らないで、千冬ちゃん!全部、この伊吹のせいだから」

と伊吹さんに向かって指を突き立てる椿さん。

「酷いですよ!椿さん」

と伊吹さんも負けていない。その横から大きな笑い声が聞こえた。笑っていたのは、私を助けてくれた方達だった。

「この方達は?」

伊吹さんが疑問に思う。

「私を助けてくれた人達です」

「助けた?何かありましたか?」

伊吹さんが心配そうな顔をするのでとりあえず、事情を話すことに。



「な、なるほど。そんなことが…。仮面の男ねぇ…」

伊吹さんが下を見ながらブツブツ何かを言っている。そんな伊吹さんを放っておいて椿さんがそのお二人に挨拶をしている。

「わたしは、椿。選ばれた神使ではないけど…神使同士としてどうぞよろしく!」


「僕の名前は、楓。よろしく」

「こちらこそ。こんなに小さな神使がいるだなんて…」

椿さんのその発言が気が触ったのかその少年が急に怒りだした。

「ち、違ぇーし!僕は!こんな体でもご主人様を守り続けてきたんだ!」

“え…”と椿さん。当然、急に声を上げられたら誰だって驚くだろう。その横から袴の女性が割り込んできた。

「すまない。こいつは、こういう奴なんだ。許してやってくれ」

と急に謝ってくる。

「貴方は…?」

と私が聞く。

「あ、私か。私の名は、玲奈。風を使いわけることができる神使だ」

と詳しく説明してくれる。


「ちょっと、伊吹。挨拶でもしたら?」

と椿さんに言われ、しぶしぶ挨拶する伊吹さん。

「ど、どうも。伊吹です」 


「元気なさすぎー」

確かに楓君の言う通り。

仮面の男がそれほど出会ってはいけなかったのだろうか?


「とりあえず、椎名様への報告と仲間探し中断ということで帰りますか」

伊吹さんの提案に賛成する私達。

「あ、僕たちは?一緒に行った方がいい?」

と楓君。

「そうですね、えーと。はい、では付いてきてください」


そして、今私たちは椎名様の屋敷に向かっている。

「仲間探し、長くなりそうと思いましたけど、まさか今日1日で終わるとは思いませんでしたよ」

伊吹さんが後ろを振り返り、残り2人を眺めている。

「右に同じー」

と椿さんも振り返る。 

(これからやっと神使らしいことができるのか…。報われなかった人生、みんな大変だったんだろうな…その人達をどうやって納得させるんだろう…)


「伊吹さん、どうして椎名様の元へこの残りの2人を連れていかなければならないのですか?」

ふと疑問に思い、伊吹さんに聞く。

「あぁ、言っていませんでしたね。この6人組に仕事を任せた神様がいたとお話しましたね」

「あ、はい」

「実はその神様、椎名様のことなんです。実は椎名様、かなり有名なんですよ。だから、神使は選抜で決まる。まだ僕一人しかいませんけどね」


        *


「ん?」

「だから、全員揃いましたよ。椎名様」

「え、あ、そう。はやくなイー?」 

「そうですかね」

椎名神殿に戻ってきた私達。そこでは、椎名様と伊吹さんの会話が耳に入ってくる。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

雑技団が世界を救います!! 西条 吹雪 @kotomaro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る