第2話 仲間集め
「はぁぁー!?何ここ、汚っ」
今、私は椎名様の部屋の中にいる。
昨日、色々あって学校を一ヶ月だけ休むことになった。祖父も理解してくれたらしく、家賃だけ払ってくれているらしい。
(いや、老人を使うな…)
「あァ!きたのォ?おはようー」
相変わらず、陽気すぎる椎名様。その横から伊吹さんが軽くお辞儀をする。
(とりあえず、私もしとこ)
そう軽くお辞儀をし、椎名様に向き直る。
「今日は何故私を呼んだのですか?」
私が神使になり、数日が経っていた。
私は神使らしい仕事はまだできていなかった。というか、していなかった。したくないしね。
「とりあえず、これを見て下さい。いつ話そうか迷っていましたが…」
伊吹さんが懐から一枚の紙を取り出し、私の前に置いた。私は、その紙を覗き込んむように見る。それを見て椎名様が「キリンみたいィー」とケラケラ笑っているので顎を狙ってアッパーカットをうちこむ。
「これ、なんですか?4人の名前が書かれていますけど。それもそのうちの二人は私と伊吹さんの名前が載ってる」
私は疑問に思い、伊吹さんの方を見る。伊吹さんはこくりと頷き、喋りだす。
「混乱するかもしれませんが最後まで話を聞いて下さい」
ごくんと唾を飲み込む私。
「実はこの世界には七つの秘密があります。まずはその一つ目を説明します。残りの六つは後日お話しします」
「は、はい…」
「その一つ目、この世界は報われなかった人生を送った昔の人間達が生まれ変われる場所(世界)なんです」
「報われなかった人生……」
「はい。例で言いますと、何も成し遂げられずに10歳して事故で亡くなったなど人それぞれです」
さっきまでののんびりした雰囲気がなくなり緊張感が漂う。一人を除いては…
(椎名様、暇そー。てか、なんの踊りをしているの?)
不思議なダンスを踊っている椎名様を放っておき、話を進める伊吹さん。
「もちろん、生まれ変わるには条件が必要ですけどね。ですが、無理矢理こちらの世界に来ようとしている人達もいるんです。気持ちは分かるんですけどね…」
「な、なるほど…。それで、無理矢理こちらの世界に来ている人達は…」
「あぁ、もちろん最終的にはこの世界から追い出します。でも、それには相手を納得させるしか方法がないんです。あまりにも面倒くさいのでこの仕事はとある神様が直々に4人の神使に任命させたんです」
「へ、へぇー」
あまりにも話が難しくなってくるので適当に合図する。
それに気づいたのか踊り終わって満足している神様がこちらを見つめて微笑みかけている。
(あれ…、なんか椎名様、少し落ち着いてる?)
「ねぇーねェー、伊吹」
「はい、なんでしょう?」
椎名様に話しかけられ、伊吹さんが振り向く。それと同時に甲高い声が屋敷内に響き渡る。
「あの〜、聞いてますー?さっさとあのバカ神を連れてきなさいと言っているのです!」
3人で屋敷から出るとそこには薄黄色の着物に身を包んだ若い女性が一人立っていた。
「うわー、うるさいのきたー」
あからさまに面倒くさそうな態度を見せる椎名様。それを見た女性がスタスタと椎名様の前にたたずむ。
「な、なんだヨ。急に近づかれたら怖いじゃン…」
ビビる椎名様。でも、その女性は椎名様をずっと睨みつけている。
「あなたね、私が呼んでいるのだからはやく出てきなさいよね!」
その女性は椎名様にそうきつく言い、次は伊吹さんの方を向く。
「な、なんでしょう」
ビビる伊吹さん。なんか、椎名様と伊吹さん、案外似てるかも…と思ったり思わなかったりしていた私であった。
「あなたもね、このバカ神の神使して大変だと思いますけどぉ、私も何回も声を張り上げて呼ぶのが面倒くさいんです。これで、何回目だと思っているんですか?」
「……。43回目ぐらいでしょうか?」
「あら、自覚しているじゃない」
流石、伊吹さんと思い、静かに拍手する。
「どこぞの神使ちゃんがうちの神使をいじめてまぁーす。どこの神使でしょうか?」
とその女性を馬鹿にするように空に向かって声を上げる椎名様。もちろん、腹筋を思い切り蹴られる。
「ぐぅはぁ!だ、だから……痛いんだっ…て…」
バタッと床に倒れ、カスカスな声で何かを訴えている椎名様。とりあえず、駆け寄ってあげる私。
(あぁ、なんて優しいんだろう、)
自分でも自覚する。
それを見て不思議に思ったのかその着物の女性は私をずっと見つめていた。
「貴方、もしかして…」
口を開けたと思ったら、急に私に抱きついてきた。当然、そこにいた伊吹さんもビビる。
「い、一体、どうしました?椿さん」
椿さん…?この女性の名前かな…。
「どうもこうも無いわよ。私、あの屋敷から追い出されたの」
と私の顔に肌をすりすりさせながら言う椿さん。
「お、追い出された?あの温厚な神様に!?椿さんのご主人様なのに!?」
伊吹さんもまたビックリしている。
「と、とりあえず。話は聞きます。ど、どうぞ」
と部屋を椿さんに案内する伊吹さん。なんか、凄い事になってきているのかも…。
「っと、あ、椎名様を置いて行くところだった」
と急いで椎名様に駆け寄る。
「みん…な、ひど…い…ヨー」
相変わらずのかすれ声。
「大丈夫ですか?」
優しく声をかけてあげる。
「あ…ぁ、お腹…痛い…」
ーーー1時間後ーーー
「な、なるほど。そんな事が…」
「えぇ、そうです。なので、今日からここに泊めさせてもらいますね」
椿さんの話を聞いた私達。無理もない。椿さんのご主人様は、この頃お気に入りの神使だけ可愛がっていたらしい。
「まぁ、もちろん!僕は、伊吹と千冬ちゃんには同じように可愛がってあげて…」
たまに話に割り込んでくる椎名様。一体、どれだけかまって欲しいんだろう。
「とりあえず、貴方はあちらにとっては必要不可欠な存在。すぐに迎えが来ますよ。それまでの部屋は…」
「なら!この子と一緒がいいな!」
私の方を向く椿さん。あまりにも可愛そうなので、こくっと頷き、伊吹さんの方を見る。しぶしぶ、伊吹さんも認めてくれた。
そして、私達は一番奥にある部屋に入っていく。
「ほんと、嫌になっちゃう。そのお気に入りの子が陶器を割ったから少し注意しただけなのにその子、泣くんですもの」
「なるほど、それで」
こくりと頷く椿さん。私、人見知りだから…話すのが辛い。
「えっと……。もう、遅いので寝ますか」
私は椿さんに尋ねた。
「そうね」
そして、私達は眠りについた。なんか早いな…
* * * * *
「どんどん、面白くなってきたネー」
椎名様が僕に向かって話しかけてきた。
「そうですね。千冬さんと椿さんはもう寝たので貴方も寝ては?」
椎名様の方を向くと嫌そうな顔がくっきりと見える。
(一応、美形なんだからもっとマシな顔すればいいのに…)
椎名様は金髪に黄金の瞳を持っている。僕を拾った時もいつも綺麗だった。性格はいまいちだけど優しいことには変わりない。みんなを笑顔にさせていた、本物の神様だ。
「伊吹ィー、どしたの?」
「いえ、なんでも…」
ふと思い出し、懐から一枚の紙を取り出す。
「椎名様、この6人を集めないと…。
そして、はやくこの世界を…」
「焦りすぎ焦りすぎぃー、もうちょっと落ち着いてもいいんじゃない?」
淡々とした口調で僕に言いかける。
「さぁー!これからは、仲間集めかなー?ふふふ。あ!そう思えば、椿が僕の腹筋に蹴りを入れたあと、千冬ちゃん、駆け寄ってたよね?あれは…恋かな…も、もしかして、ほ、惚れた?」
「絶対に違いますよ」
嬉しそうに喋っている椎名様。
(嬉しそうだったらいいか…)
「そろそろ寝ますよ、椎名様」
「僕は寝ないよ」
「あぁー、そうでしたね。では、お先に」
「うん、じゃぁね♪」
椎名様の部屋を出て、もう一度4人の名前が書いてある紙に目を落とす。
(このメンバー、世界を救う救世主のような存在にはなれなさそう…特にこの人)
奥の部屋を抜け、自分の部屋に入る。
* * * * *
ーー翌朝ーー
目が覚めるとそこには椎名様がいた。
私の額を優しく撫でている。
「何しているんです?椎名様」
ぼやっとしか見えなかったが優しく微笑んでいる。そしてそっと呟く。
「君はあの子に似ている。末裔…なのかな?」
「え…?」
かすれ声になりながら疑問に思う。
「はは、今度は君がかすれ声になってる。ダメだよ。君にはまだ大事な役目が残ってるからね…じゃぁね。
………アイン…」
「ふわぁーー、眠い眠い」
椿さんが大きなあくびをする。ついでに私も。
(そう思えば今日の朝、椎名様私の布団の隣に居たような…。ま、気のせいか…)
私と椿さんは、朝から伊吹さんに呼ばれた。一体、何の話やら。
「よく来てくれたネ、諸君!!」
「椎名様、黙って。実は、お二人にお話しがあって」
よく見る光景がそこにはあった。椎名様がボケて、伊吹さんがツッコむ。楽しそうなお二人だ。
「で、話って?」
椿さんが聞く。
「はい、急ですが仲間を探しに行きます」
「……仲間?」
伊吹さんの発言に不思議に思う私達。
「だーかーらー、昨日、紙見せたでしョ?その紙に載ってる名前の神使を集めにいくノ。仲間集めだよーん!」
「はい、たまに役に立ちますね、椎名様。説明は下手くそですけどね」
と苦笑いする伊吹さん。
それでも、椎名様の下手くそな説明をフォローしてるし、仲が良すぎる…
「ん?仲間って、あのグループ?いわば、救世主のような役割を任された神使達のこと?」
椿さんが疑問に思う。そして、即応答する伊吹さん。
「はい、それです。それに、僕と千冬さんが選ばれたんです。あとは仲間集めだけです」
「うわー、大変大変」
私の肩をポンポンする椿さん。
「でも、伝説モノだョー」
と付け足す椎名様。
「伝説モノ?そんなに有名なんですか?」
と伊吹さんに聞く。“はい”と頷く伊吹さん。
「そりゃ、世界救うからネー」
と椎名様が言う。横から伊吹さんが
「貴方はどうします?椿さん」
と尋ねる。椿さんはと言うと。
「当然行くわよ。どうせここに居ても迎えは来ないし、暇だしね。さっさと終わらせて帰ってくるわよ!」
「「おぉーー!!!」」
「それじゃぁ!仲間探しへレッツラゴー!!」
「「「………」」」
「ちょっ!何か喋ってよォー!」
椎名様が喋るとよく静かになるよねーと思いつつも自分の部屋に戻り、隅に置いてある綺麗な着物を着る。
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