第4話 明かされた犯人
──交通課。
「え? マジで? 京子ちゃんと圭くんって付き合ってたの?」
乙部課長が声を張り上げる。
「はい~。ガチ恋勢なんです~」
京子は揉み手をしながらうっとりしてみせた。
「はぁ……意外だね。まあ、わしも女房のどこに惚れたんだか、今は思い出せんがね」
「うるさいわよ、恋愛話は禁止禁止!」
「出た出た、葵くんの照れ隠し」
「か・ちょ・お~?」
葵は顔を般若のようにし、課長は逃げて行った。
「え? うそ? 葵さんって四二なのに! いるんですか! 化石発掘ですか!」
「人の年齢を大声で言うな~!」
葵は京子をヘッドロックし、それから数分にわたってそれが続いて京子は医務室に連れていかれた。
◆□◆
──警視庁刑事部部長室。
海堂はそこに呼びつけられた。
他でもない、上司であり、ライバルである田鎖にだ。
田鎖はマルボロに火を付けふかし、灰皿に灰を落とし、っまたふかした。
「わかっているだろうな海堂。捜査には《令状》というものが必要なんだ」
「別にあたくし、家宅捜索をしているわけではありませんのヨォ。梅沢さんともっと仲良くなろうとしているだけなのよネェ」
「警察手帳はどこにでも遊びに行けるパスポートじゃねぇ!」
田鎖は思いっきり机を叩いた。
「お~コワァ。じゃあ警察手帳置いていきますけドォ?」
「そうしてくれるのが一番有り難いね。ついでに辞表もな」
「それは困るナァ。ネェ、取引しません?」
「俺ぁてめえの身体には興味はネェ」
「セクハラしたければどうぞ。あなたの亡くなった女房さんがどう思うかしらネェ?」
「貴様!」
田鎖は椅子から立ち上がり、海堂に額がぶつかるところまで迫ってきた。
しかしそこで、海堂はメモを彼の目の前に突き付けた。
「なんだこれは」
「あたくしのポーンですワ。でもプロモーションしてクイーンになり、アナタを殺す」
「そこの住所に行けと言うのか」
すると海堂は腹を抱えて笑った。
「敏腕刑事が笑わせるワ。捜査をなめるんじゃないワヨ。とにかく、これをあなたに渡すなら、あたくしに正式な令状を与えてくださいまし。嫌ならあたくしのやり方に口を出さないでネ☆」
田鎖は腕組みをし、ふん、と鼻で笑ったら、
「そんなものいらん。貴様に服従するくらいなら捜査から手を引いてもいいくらいだ。もういい、帰りたまえ」
「ふふ。バイバ~イ」
海堂は去っていき、田鎖は煙草を咥えた。
が。
煙草をぽろりと落とし。
「そうか……しまった……ちぃっ!」
思いっきり机を蹴り、くそぉ! と大声で叫んだ。
◆□◆
二月二十五日。この日は、海堂は普通のスーツ姿で、今井紀も同行した。二人は梅沢家のマンションのエレベーターに乗っていた。
「ねぇ今井紀。お昼のアンパン賭けないィ?」
「何言い出すんですか急に」
海堂は得意げに、
「もし今日梅沢の部屋に加藤を殺した女がいたら、あんた奢ってネ。いなきゃあたくしが奢るワ☆」
今井紀は少し目を見開いた。が、
「勝手にしてくださいよ。どうせいるわけないし……」
そしてエレベーターが最上階に着き、開いた。
梅沢家のある1502室のインターホンを押す。
『はい』
「警察の者です」
今井紀が警察手帳を出した。
ドアが開き、二人は中に迎え入れられた。
その刹那、今井紀は目を疑った。
ゴスロリ姿の女、時田光が、いた。
「え……あれが加藤を殺した……?」
海堂は今井紀を無視して、
「お邪魔シマス。お構いなく☆」
そこには義治と静子もいた。
「いやどうも、この節は弟がお世話になりました」
「こちらこそ、あなたのようなスターに会えて光栄デス☆」
義治は苦笑し、ソファに腰かけた。静子に促され、海堂たちも座った。
「大きなソファですネ」
「ええ……まぁ、うちは父が援助してくれるものですから」
「話しに聞くと、お父様は県立医療センターの副院長だそうですネ」
「お恥ずかしながら……」
静子はそう言いながら、紅茶を出した。
「そちらの女性は?」
今井紀がすかさず尋ねる。
「私の友だちです」
静子がにっこり笑って光に抱き付いた。
「友だちですか。素敵ですネ☆」
海堂が手を差し伸べると、光は手を握った。
「お名前はなんですか?」
今井紀が尋ねる。しかし光は応答がない。
そこですかさず、
「この人、耳が聴こえないんです」
そう言って、手話で光にその旨を伝えた。
すると光は義治に手話で伝える。義治は把握し、
「時田光と言います。名前はこうです」
と言って、彼女のサマンサタバサのバッグからノートとペンを取り出して書いてみせた。
「ほう……いつもこのノートを持ってらっしゃるんですネェ?」
「最近手話を覚え始めたんです。で、困ったときはノートに書くんです。でも大分覚えたよね、ね?」
また手話で伝える。光は手話で返す。
「大分覚えました、って。義治さんも相当勉強したんです、って」
「そうですか、では私も手話でお話しよっと☆」
そして海堂も手話でいきなり自然に語りだしたので、今井紀は腰をぬかした。
『あなたはいつから耳が聴こえなくなったのですか』
『二か月前です』
『では手話を知らない人とは筆談で会話しているのですか』
『そうです』
『あなた』
『利き手、変えましたよね』
その途端、義治は顔を真っ青にした。
しかし光は、
『どうしてそう思ったんですか、会ったことないでしょう』
『いや、なんとなく、冗談です☆』
そして義治は胸を撫でおろした。
『ところで、今年の年号、令和になりましたね』
そう言って、『令和』というところで、海堂は五本の指を広げる仕草をした。すると光は首をかしげた。
『あれ、わからないのですか? おかしいですねぇ。紙に書けばいいんじゃないですか』
「駄目だ!」
義治が叫んだ。そして、彼はいっそう顔を真っ青にした。
光も、突然取り乱した様子をした。
『どうしたの光ちゃん、ほら、書いてごらんなさい、れいわ、れ、い、わ、よ』
『いや、書きたくない』
『難しい? いや、そうよね、新しいからまだ教えてあげてないものね。海堂さん、ごめんなさい、この人、まだ……』
「筆跡がばれるからでしょう。梅沢孝弘さん」
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