第2話 死神刑事、海堂順子
警視である田鎖は捜査に忙殺されていた。捜査本部を事件のあった八王子の所轄に立て、敷監や地取りなどに部下をあたらせた。公安とも連携し、加藤と関係していた暴力団員を片っ端から取り調べ、次のような事実が浮かびあがってきた。
加藤の手口は、東大のテニスサークル「ジョイ!」に、慶応や青山、立教大などの女子大生を、インカレサークルということで勧誘し、知り合いのホストクラブの男性を部員に仕立て上げ、うまいことたらしこんで、彼と関係のある暴力団の経営するボーイズバーに囲い、高額な料金をふっかけ、当然ながら徹底的に強姦し調教してからソープに流し込み、人生の奈落に落とし込むという、非常に卑劣で許しがたい手法だった。
そしてその中の一人だけ、自殺者が出たのだ。
望月蘭。青山学院大学文学部の二年生だった。
彼女には恋人がいたが、友人の強い誘いを断り切れず、仮入部をした。彼女は幼稚舎から青学にいたお嬢様だったので、男性に免疫はあまりなかった。だから恋人ができたとき、すごく嬉しかった。ところが仮入部し、彼女は積極的な男性たちにひどく怯え逃げたかったが、女性を扱うプロの彼らは、逃がさない。弱みに付け込み、彼女を強引に引きずり込み、ついにはレイプした。耐えられなくなった彼女だったが、ヤリサーに入った、さらには処女を奪われたと知れたら終わりだということで恋人には相談できず、一人で抱え込み、精神科を受診することになったことが契機となり、自殺した。非常に繊細な心の持ち主だったことが災いしたのであった。
「こんなクズの捜査なんざ、なんでしなきゃなんねーんだよ」
警視庁の喫煙室で、田鎖はひとりぼやいた。
「とはいえ、あの女の好きにさせたら、不幸になる奴が必ず出る。一刻も早く犯人を見つけなければ」
あの女とは、一体──
◆□◆
──新橋、牛丼チェーン店にて。
「ウヒヒヒヒエヘヘヘヘヘェ。田鎖の奴、あたくしがジケンに嗅ぎつけたとは思ってないかしら、ネェ? ネェ? 今井紀」
「……気持ち悪いですよ警部。なんなんですかそのキャラ。ぶっこわれ過ぎでしょ。読者がドン引きしますよ」
「クソ小説とはいえメタ発言は控えることヨォ」
「まぁ……今日も牛丼奢っていただいてありがとうございます。しかし……なんで牛丼ばっかりなんですか……イタ飯屋でもいいじゃないですか」
「アルルルァァァ? 牛肉に含まれるアラキドン酸は、脳をめちゃくちゃ活性化させるのヨォ?」
「知りませんよそんなこと……毎日牛肉食べてるんですか」
「牛肉には美容効果もあるのヨォ。ビタミンB2はいいことづくめなのヨォ。時代は牛肉ファーストなのヨォ。ウシだけに、ウシシシシシシシシ」
非常に気持ち悪いオーラを放つこの女性は、確かに非常に美しい。黒髪のストレートロングは艶やかで、肌は病人のように白く、指も長くて体はスレンダー。モデルの依頼もいくつか来ているらしいとか。
──警視庁刑事部の死神、海堂順子。
そしてそのペット、今井紀益夫(いまいきますお)。
海堂順子は、階級は警部。東京大学法学部を卒業している、とされているが、警察大学を卒業していないのではないか、と噂されているキャリア組である。
刑事部刑事課緊急捜査配備係という、警視庁に最近できた謎の部署に、この今井紀という巡査部長と二人で所属しているが、普段は警視庁にはおらず、どこにいるのかは職員誰もつゆ知らず。
今井紀は葵と同じ交通課に所属していた、今年で四二になるペーペーの巡査部長であったが、どういう由縁か海堂に引き抜かれることに。
京都大学卒の田鎖も敏腕刑事で、警視にまで昇進したのだが、海堂の検挙率はおぞましいもので、西の田鎖、東の海堂と並び称されていた。
「で、警部のお眼鏡にかなった事件と言うのはあれですよね、東大生変死事件?」
「オホホホホホ」
「返答はハイかイイエでお願いしますよ。僕も色々忙しかったんですから」
海堂がいない間、今井紀は刑事部の雑用を担当していた。海堂は割り箸を割り、七味を頭がおかしいくらいにかけて牛丼にがっつきながら、
「もぐもぐ、ウヘヘヘ、タノシソウナ捜査ヨォあれはァ。とりあえずネェ、恋人に会って事情を聞いたのヨネェ」
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