第18話



「それでは、ここでとりあえずはお開きにしましょう」



 ぱん、と手を叩いてヴェロニカ姫は話を打ち切った。


 そのまま部屋から退出するようにと促したのだったが、リズはどうするのか。


「彼女には堂々とこの部屋から出て行ってもらうわ」との事。



「つまりキャットテールと私は別人であるとこの場でアピールしてもらいたいのよ」


「なるほど」


「頑張りますにゃ」



 決闘の際に、ヴェロニカ姫は発起人として立ち会わなければいけない。


 なのでキャットテールとしては参戦できないのだ。


 つまり、騎士団にこの場で見せ付ける必要があるとのことだ。



「お待たせしましたわ、騎士団の皆様。ご苦労様でした、扉を開けて頂戴。」



 ヴェロニカ姫が手に持つベルを鳴らすと、即座に扉が開く。


 なだれ込むように入ってきた騎士団連中は、キャットテールの姿を見てぎょっとしていた。



「なっ?! なんでにゃんこがここに紛れ込んでいるんだ!」



 特にエステルが狼狽していたが、ヴェロニカ姫は気にせずに「侵入してきたのよ」と言い放った。



「どうやら、決闘にはこの子猫ちゃんも参加したいみたいね」


「そうですにゃ」



 あの短いやり取りでどうやってそこまで心を掴んだのか、リズとの掛け合いはバッチリだ。


 ざわざわと騎士団が騒いでる中で、「それに、あの農民も解放してくださらない?」と姫は言った。



「なんと、ヴェリだけならまだしも農民にまでご慈悲を与えると?」


「そもそもこのまま行くとあなた達だけに非がある事になるのよ?」


「ですが、王国法では問題なかろうが治安維持としては大いに問題があります!」



 何とも不服な感情を隠せない騎士団連中に姫はパンパンと手を叩きあわせた。



「私が発案した決闘という決着に問題があるということですか? それこそ不敬ですわよ」



 その言葉にヒートアップした騎士達の感情がすーっと冷めたようだ。



「おい、あいつを牢屋から出せ。くれぐれも丁重に扱うんだぞ」


「は、はいっ! 分かりました」



 レイクとエステルから呼ばれた若手騎士が指示を出し、衛兵達がばたばたと足早に去っていった。 


 すぐに、ブリオは衛兵に連れられてきたがヴェロニカ姫の姿を見て、顔が青ざめているようだ。



「ひ、ひえええ、もしやあんた、姫様だべ? ありがたや、ありがたや」



 ははーっと土下座しだした事にヴェロニカ姫は苦笑する。



「あなた方が農作物を育ててくれているから国は成り立っているのです、面を上げてください」



 にこやかに返すヴェロニカ姫の言葉にブリオは感じ入ったように、さらに頭を下げた。



「はー、なんともなんとも。おらぁ、今まで一生懸命に生きてきて良かったべ。牢屋に入れられた時は乱暴されると思ってぶるぶる震えてたんだべ」


「なんと失礼な。確かに貴様の身元は預かったが、理由無く我らは暴行を振るいはせん!」



 レイクが憮然とした表情でブリオに向き合った。



「ひっ、やめてくれ……おらに乱暴する気だべ? 卑わ……」


「多分しないぞ」



 何故か手をクロスさせて体を守るブリオ。


 流石に色々アウトな言葉を言われたら嫌なので、俺は急いで発言を止める。


 いやいや、やめようね。うん。



「それで、結局のところ私としては三対三で戦うのがいいと思うのよね」



 流れを打ち切るように、ヴェロニカ姫は発言した。


 騎士団は少しざわついたが「姫様がおっしゃるのであれば」と納得をする。



「それでは当事者である私が出させていただこう」


「エ、エステル様が出るのであれば、俺も参加させていただきます」



 エステルとレイクがいの一番に手を上げた。


 そこに裁判時から残っていたアンクが「陽光神を汚す者は許せません。参加させていただきます」と発言。


 どうやら、ブリオの方を睨み付けている事から相当に彼を憎んでいるようだ。


 騎士団は「いや、シスターに危険な事をさせる訳には」と参加を否定しているようだが、聞き入れないみたいだ。



「いいじゃないの、当事者同士で決着をつける事を私も望むわ」



 そう言って、ヴェロニカ姫はにやりと不適に笑う。


 騎士団はまたしても黙り込んだ。



「は、なんのことだべ? おらぁ、そこのめんこいしすたあさんに何かしただ?」



 どうやら、ブリオは状況を飲み込めてないみたいだ。


 きょろきょろと伺うように当たりを見回している。


 そこで、「あなたは自由の旅人の味方として決闘に参加するのよ」とヴェロニカ姫が言ったのだが、


 ブリオはそれを言われても事態が飲みこめてないようだ。



「おらが決闘? ……と言っても、とりあえず、おらぁ、この大根踊りしかできないべ」



 すっと、どこに忍ばせていたのか、大根を取り出すブリオ。


 こんな踊りしか出来ないんだがいいのか?とどうもデモンストレーションしたいようだ。


 アンクは「即刻やめなさい!」と踊りだしそうなブリオに向けて警告する。



「ほほっほ」


「やめなさい!」


「ほほい!」


「やめなさい、神への、いえ、生きとし生けるもの全てへの侮辱ですよ!!」


「ほほっほい! ほほっほい!」



 軽快なステップを刻みだしたブリオを俺はすっと羽交い絞めにする。


 ぶるぶると筋肉の躍動が直に伝わって凄い気持ち悪かったが仕方ない。



「それで、決闘をいつやることにするんだ」


「そうね。私と騎士達は王都に帰らないといけないし、明後日の朝一番なんてどうかしら」


「ふん、今すぐにでも貴様に剣を向けることはできるんだぞ」



 レイクは鼻を鳴らすが、姫様のご意思に従うべきだとエステルから注意をされた。


 俺もそれについては構わないと答えた。



「それではこの騒動はとりあえず―――終わり、以上、閉廷です! では、皆様、解散いたしましょう」



 そう言ってヴェロニカ姫は騎士団と俺達に散るように告げて、優雅な所作で手をふるのだった。

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RE:銭と課金のノスタルディア  ~異世界行ったのに、仲間増やすにはガチャしか手がないんですが~ 黎明素 @ramesoso

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