第17話
ヴェロニカ姫はわけも分からず狼狽するリズに向かって、自分の猫耳をすぽっと被せた。
普段なら間近で見る事などできない高貴な人間。
さらに、起こされた行動の訳の分からなさに彼女は狼狽する。
「いいじゃない、結構さまになってるわよ、キャットテール」
「え、ええ?! ひ、姫様、お戯れはよしてください!」
「ええじゃないか、ええじゃないか」
流石にリズが好き放題されるのを見るわけにも行かず、後ろを向いて遠くを眺めた。
あー、本当自由だなこの姫。
「つまり、私はあなたをスカウトする訳よ」
「す、すい、申し訳ございません。僭越ながら私目にはこの状況が飲み込めません!」
「いいのよ。フィーリングで感じれば、あと語尾ににゃんって付けてちょうだい」
「ひっ! ……に、にゃん?」
「グッドよ。グッド。そうそう、その調子」
衣擦れの音や、わちゃわちゃと楽しそうにしている音が背後から聞こえる。
まぁ、おいおいガチャの事をリズにも説明もしないといけないよなぁと考えつつ、
手に持つテオドラとダレスのアニマをじっと見つめた。
光を発しながらも、ほのかに暖かい。
このままでは何にも使えないのだが、利用方法がないものだろうか。
失ってもそこまで痛くないブリオのアニマで、検証もした方が良さそうだ。
「もういいわよ、ヴェリ君」
どうも一段落ついたようなので、ヴェロニカ姫の方に向き直ると、
そこには綺麗に正装した姫と、髪色以外はキャットテール三世に見えるリズが居た。
「良くもまぁ、ここまで短時間で化けさせたな、正直リズとは絶対分からない」
「むふふん、私の変装技術を舐めちゃいけないわよ」
「うぇぇん、もうお嫁にいけません……にゃん」
さめざめと泣きまねをするリズに向けて、ヴェロニカ姫は不敵に笑う。
「そうね、あなたには様々な支援を約束するわ。だから協力してくださる?」
「僭越ながらその支援内容を具体的に教えていただければ非常にありがたいですにゃ」
「なるほど、根性は及第点ね」
いいわよ、あなたと姫が親指を立てると、「照れますにゃ」とリズは答えた。
流石商売人である、転んでもただでは起きない強さを感じさせた。
「まず、あなたが扱ってる商品の買い上げ、貴族への口利きくらいかしら」
「なるほどなるほど。それは確かにありがたいですにゃ」
「後は正直な所、働き次第ね。そもそも何を取り扱ってらっしゃるの」
「胡椒が中心ですが、何でも遠方から取り寄せて商っていますにゃ」
そう言えば、胡椒を売りに来たと最初に会った時に言ってたな。
ここいらの飯もまずいことだし、「出来たら、俺にも売ってくれないか」と言ってみた。
リズは口を挟まれて少し表情を変えたが、即座に切り替えし「是非是非にゃ」と愛想良く答える。
「胡椒を商っているということだけど、食用以外に使うって言ったら怒るかしら」
そこに、失礼と言えば失礼なヴェロニカ姫の発言。
だが「いえいえ、とんでもございませんにゃ」と媚びるようにリズは答えた。
「なるほど、それが戦闘用だと言ってもあなたは怒らないってことよね?」
「当然でございますにゃ! 無知なもので考えがいたりませんでしたが、自由に使えるのであれば!」
「リズ。胡椒を使ってそこに居るヴェリ君と一緒に、あなたには決闘に参加して欲しいの」
「なるほどなるほど、私が決闘に参加ですね、喜んで参加させていただく……にゃ?」
さーっと、リズの顔が青ざめた。
あぁ、こいつ阿諛追従に必死できちんと内容聞いてなかったんだな。
だが気丈にも「え、ええ! 当然ですにゃ! 私目でお役に立てるなら」と言った事は褒めるべきだろう。
「むふふん、勿論あなたには剣を持って戦えなんて言わないわ。だけど、堂々としてて欲しいわね」
「にゃるほど!」
「まぁ、"自由の旅人"とまで言われる彼ならきっとあなたを上手く導いてくれるわ」
ヴェロニカ姫は、俺の方にちらりと流し目を送った。
……つまり数合わせを上手く使って、さらにキャットテールの名声を損なわないように勝てとの事だ。
無茶振りにも程があると思うが、やるしかないのだろう。
「はい、仲間になったのだから握手をしましょう」
「"自由の旅人"と一緒に戦えるなんて本当に光栄だにゃ! よろしくにゃ!」
にこやかに握手を促すヴェロニカ姫と、手を差し出す新生キャットテールことリズ。
その手を取って握手を交わそうとしたら、いやに強く握られる。
ふと、リズの表情を見ると、笑顔を見せつつも立て筋が五本入っていた。
あ、こいつ、嫌々やってるんだろうなぁ。
「とりあえず、よろしく。力を合わせて一緒に勝とうぜ!」とわざとらしく返すと、うんうん、青春だわとヴェロニカ姫は喜色を浮かべたのであった。
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