第16話

ごごごごごごと音がして、いつものようにガチャの門が現れた。


 完全に乗せられてしまっているのは分かるのだが、他に俺が取れる手段がない。


 ええいままよ、とヴェロニカ姫から貰った契約石を掲げる。



「むふふん、いやよいやよもガチャのうちってことだにゃ」



 どういう原理か分からないが、またしても異空間に飛んでいる。


 壮大な音楽が鳴り響く、異様な空間。


 目の前には猫耳を装着して、キャットテール三世の装いをしている姫が居た。



「……着替えるのが早いんだな」


「にゃははは、我輩は怪盗、こんな技は朝飯前にゃ。さて、今回は三回分しかないのにゃ。だからこそ、一個一個に期待にゃ」



 あぁ、ログインボーナスだからか、と何故か納得した。


 アプリの一週間初心者ボーナスって初日分はそこまで多くは貰えなかったよなぁ。


 七日目は限定ガチャチケットとか貰えるのかなぁと思いつつ、あまり深く考えないようにする。


 しかし、改めてだが疑問に思うことがあった。



「そもそもだが、契約石ってどういうものなんだ」


「契約石は魔術の触媒にゃ。マジックバッグの拡張や、戦争で疲れて動けない騎士団のスタミナ回復に使われるのにゃ」



 結構に貴重な物で、自生してるものをこつこつと王国主導でかき集めてるらしい。


 魔術行使の際に大幅な助けが期待できるとの事なので、宮廷魔術士や治癒術士が基本的には溜め込んでいる。


 ヴェロニカ姫は王族の一員ということで、比較的その辺は融通してもらっているらしい。



「まぁ、いっぱしの冒険者にはまず手に入らないものにゃ。……我輩のクエストでも受けない限りは」


「……なるほど、供給源はあくまで限られてるって訳か」


「報酬で、いくらか用意する気はあるにゃよ。でも、ヴェリ君がそもそも戦力増強してくれないと困りはするのにゃ」



 つまり、冒険者としてのバックアップはするから私の言う事を聞いてくれと。


 ヴェロニカ姫の意思で動く、自分自身の手駒となりうる戦力を作りたい、そういうことなのだろう。



「そんなこと言ってるうちに、一発目がきそうにゃ」



 激しい明滅が起こり、音楽が鳴り止む。


 それと同時に、ヴェロニカ姫が嬌声をあげる。



「おっと、これはいいものだにゃ!」



 その言葉に俺は少し興奮した。そう、これは確定演出だ。


 星四が最低でも保障されている時に出る言葉であり、流石に胸が躍った。



「これは……」


「これは?」


「なんと……! 星五つ、"竜滅姫 テオドラ"のアニマにゃ!」


「おぉ! かなりの当たりじゃないか!」



 キャラクター本人が召還されるわけではないが、それでも星五つが来るとは幸先が良い。


 そもそもブリオの件があったので、星三つが最低保障ではない可能性がある。


 それを考えるとかなり良い結果だろう。



「続いて、……お、なんと、星四つ、"剣聖 ダレス"のアニマにゃ!」



 これも、相当に良い結果と言える部類だろう。


 剣聖ダレスは星四でありながらリセマラを終えてもいいくらいの性能だ。


 キャラクター本人が召還されるのであればだが。


 まぁ、アニマが揃えばチャンスはあるということだ。



「最後には……お、これは!!!」



 ヴェロニカ姫は大げさにポーズを取って、俺の方を煽るような目で見てくる。


 あ、はい。



「これは……!!!」



 はい。



「なんと……?!!」



 はいはい。



「ブリオのアニマにゃ!」



 はい、碌な結果じゃないって知ってました。



「―――終わり、以上、閉廷にゃっ!」


「次も頑張ってれっつごー、なのにゃ!」


「終わりにゃ!」



 唐突にぷつんと景色が揺らぎ、姫の部屋へと戻ってきた。


 なんというか、何だろう。



「……あの、結局、仲間増えてないんだけど」



 手には立派に光り輝くテオドラのアニマ、それには劣るが眩いダレスのアニマ、あと生臭いブリオの何か。


 いや、ちょっと無理やりテンション上げてみたけれど結局何も解決していないんですけど。



「ちっちっちっ、甘いね、ヴェリ君。我輩は別に契約石を使う召還魔法を使えるだけじゃにゃい」



 ヴェロニカ姫はにゃはははと笑って、先ほどよりはみすぼらしいガチャの門を呼び出す。


 あぁ、もしかしてこの流れはあれか。



「ヴェリ君、別に契約石を使った神技じゃなくても奥義で呼び出せる程よい召還魔法もあるにゃ」


「……もしかして"奥義 フレンドポイントガチャ"とかじゃないのかそれ」


「お、良くわかったにゃ! 出るものは神技よりしょぼくはなるけどはそれはそれにゃ」



 射幸神の信徒のヴェリ君ならきっと使えるはず、ということらしい。


 うん、一日一回無料でポイントガチャは引けますね、はい。


 フレンドポイントがこの世界で何に当たるのかは分からないが、アプリのお陰で仕組みの理解は早かった。



「それじゃあ、レッツゴーにゃ。あ、ヴェリ君なんか適当にそれっぽいポーズ取ってみてくれにゃいか」



 なんか、おざなりだなぁと思いつつ、適当に契約石を掲げる時と同じ素振りを見せる。


 しゅんと一瞬で景色が変わった。あ、なんだかんだできちゃうんですね。


 ご都合主義だなぁと思いつつもそういうものとして理解するしかない。


 先ほどよりは若干しょぼくなった音楽を聴きつつ、俺は苦笑いをした。



「やっぱり、我輩が見込んだだけはあるにゃ。こんな簡単に奥義まで使えるとは」



 うんうん、とヴェロニカ姫は頷く。


 いやぁ、我輩は門を呼び出すしかできないからとの事。



「どうして姫は、こんな召還魔法を使えるようになったんだ?」


「いやぁ、経典を禁書庫で見つけなければ多分我輩も普通に姫様やってたと思うのにゃ」



 どうやら子供のときに、エッツラウプ王城内で他の王子達とかくれんぼをしてて見つけたらしい。


 興味本位で見てるうちに家庭教師から教わる陽光神第一の内容に疑問を持ってしまう。


 経典を読んでる内に、気付けば門の召還や他の魔法を覚えていた。


 そこから、隙を見ては城から抜け出して行動を起こしてきたとの事。



「……エステルをもっと労わってあげた方がいいんじゃないか」


「あの子に苦労をかけてるのは分かるのだけれど、でも、我輩、いや、私にしかできない事は多いのよ」



 その口調はいつものふざけた物ではなく、相当の真剣味を帯びていた。


 うっと、ついつい言葉に詰まってしまう。



「にゃんてね、結局のところ、我輩はわくわくしてないと生きられないのにゃ」



 先ほどの表情などまるで無かったかのように、ヴェロニカ姫はくるりと回った。


 「さ、そろそろ結果が出そうにゃ」と音楽が鳴り止むと同時に明滅が起こる。



「おっと、物語に新たな風を起こす人物の登場にゃ!」



 ヴェロニカ姫が柄にも無く興奮していた。


 これはキャラクターが出る確定演出。アニマ、武器、防具よりも希少価値が高い。


 無料ガチャで出るのはブリオと同レベルのレアリティが多いが、それでもありがたい。



「これは…!!!」



 例によって、ヴェロニカ姫が結果内容をじらす。



「"アタッカー"の姿が見えるにゃ、さぁ、その姿をここに現すにゃ」



 お、アタッカーか。俺と被るけど結構よさげじゃないか。


 攻撃ができる人物が増えるだけでも相当にありがたい。


 "魔術士 アデル"とか"狩人 エデッタ"が出るといいなぁと期待に胸を膨らます。


 比較的星が低くても彼らはスキルが扱いやすいのである。


 とにかく遠距離攻撃ができる人物が欲しい。



「さぁ、我が声に応じるのにゃ。ようこそ、"旅商人 リズ"。 さぁ、新しい冒険の幕開けにゃ!」



 ヴェロニカ姫が声をあげると、むくむくと光が人の形を作っていく。


 リズ、りず。


 あ、昨日、門の前で合った胡椒売りの女の子。成程。



「私の名前はリズ! 私は戦闘では役に立たないけど、お金の管理は任せといて!」



 お決まりの紹介ボイスが流れる。うん、自分で戦闘では役に立たないって言っちゃってるよね。


 というか、この紹介ボイスは何なのだろうと改めて突っ込みたいんだけど。


 そんな事を思っていると、不意にリズは「え、姫様?! って言うか、ここどこなのよ、何で私自己紹介してるのよ!?」と大声をあげた。



 うん、ポイントガチャなんだ、すまない。


 それと、自己紹介は意思関係なく勝手に喋るのか、怖いなぁ。


 リズの事を、ギラギラと目を輝かせながら見ているヴェロニカ姫の姿を見て、現実逃避にそんな事を考えるのだった。


 それはいいけど、決闘どうするんだよ、これ。

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