かつての仲間と出会っても別に味方になるとは限らない

第15話



「あら、この紅茶はお口に合わなかったかしら? 聖国から取り寄せた最高級品なのだけれど」


「……」



 裁判が終わり、俺は詰め所内の来賓室に通されていた。


 中には高級そうな家具や調度品が置かれており、かと言って趣味の良さを感じさせる按配である。


 そんな中、俺はヴェロニカ姫と二人きりでテーブルを挟んだ対面をしていた。


 騎士団は断固として反対していたが、「私に、これ以上不義理をさせる気ですか」と一喝。


 部屋の前に騎士を複数人控えさせる事ということで無理やりに納得させていた。



 だが、先ほどの騎士団達の言動や、ヴェロニカ姫の発言。


 正直な所、何もかも信用がならない状況である。


 芳醇な香りな紅茶を差し出されたが、一口つけた後は警戒して残すようにした。


 俺がだんまりなのを見て取った後に、ヴェロニカ姫は不敵に笑う。



「むふふん、もはやあなたと私は共犯者なのよ? 悪いようにはしてないつもりだけれど」


「悪いぞ」


「だけど、あなたをあのまま返してしまうと私はエステルを処分をする事になったでしょうね」


「……そうだな」



 はぁ、と心の底から大きなため息をつく。


 決闘の話をヴェロニカ姫から言い渡された後に、にわかに騎士団は沸き立った。


 王国法には双方が十分まで納得しない場合は、決闘により決着を決めることもできるとある。


 勿論、一方的に決闘を申し込まれる側は拒否する事はできる。


 拒否したからと言って、本来の裁判としての結果は覆る事はない。



 しかしながら、裁判結果が覆らなくても「決闘から逃げた」との評判は被せられてしまう。


 商人や町人などであれば、それでも問題はない。本来、武が評価される基準ではないからだ。


 だが武力や戦闘力を持ってこの世に立つ人間においての意味合いは全くもって違う。


 特に、冒険者のような自由業において、悪評が流れると言う事は最悪だ。



 依頼を受けれない、仲間に断られる。いや、パーティは組めるのだが必然的に層は変わる。


 悪評が流れる者は悪評が流れる者としかパーテイを組めないのだ。


 命をかけれない、信頼できない者同士では、もはやまともな依頼はこなせない。 


 特に、ヴェリの今までの"自由の旅人"としての名声が反転して、全て悪評に変わる可能性があるのだ。


 俺自身というよりは、魔物であるハンプの為にも避けなければいけないことだった。



 決闘の勝者は相手に対しての罪を決めることが出来る。ようするに無理筋を取れる。


 このまま俺が無罪で街に残っても射幸神の信徒としての評判は残る。


 さらに、エステルが処罰されるということで騎士団からの恨みを買う。


 つまりは、俺は勝った上で、騎士団に対して一切を不問とすると言わなければならない。


 だが―――



 「決闘までに信頼できるパーティを作れるかが問題なんだよなぁ……」



 決闘というのが、一対一ではないのだ。


 ……つまり、ルールはアプリのノスタルディアストーリー内でのいわゆる対人戦と同じ。


 三対三、六対六のどちらかを選び時間を区切った上で、勝負を行う。


 何故か、冒険者は基本的に"タンク、アタッカー、ヒーラー"と役割が分かれている。


 ようするに一対一では、タンク対ヒーラー等勝負にならない場合が多いのだ。



 大概の場合、冒険者は駆け出しであったとしてもパーティを組んでいる。


 そのような場合は元々組んでいたパーティ同士で決闘を行うことが多い。


 だが、俺の場合、そのパーティを元々組んでいないのだ。



 商人であれば代理を立てたり、町人でも血気盛んな者であればギルドで傭兵を集う場合がある。


 大概の場合、拒否をして決闘自体が行われないのでこれはそこまで問題視されることはない。


 しかし、冒険者が傭兵を募ったり、代理を使った前例はほとんどない。


 勿論ルールとしては問題は無いのだが、何か理由があってパーティを組めない冒険者とのレッテルは確実に貼られてしまう。



 ―――ここに来てヴェリのぼっち設定がボディブローのように利いてきたなぁ。



 ようするに「おーい、お前らグループ作れー」と言われて、


 相手が仲の良いグループ作れてるのに、俺だけ先生連中とグループを作っているような感じだ。


 深い理解が無い相手同士では連携も取りにくいし、なによりなんか心が抉られる。



「……正直、冒険者ギルドに応援を頼むって線はないわよ。そもそも、頼んでも来てくれないと思うわ」



 そこにヴェロニカ姫が追い討ちをかけてくる。


 騎士団との決闘、しかも王族が決闘の音頭を取っている時点で実力ある冒険者としてはかなりの地雷物件だ。


 冒険者ギルドからの斡旋制度はあるのだが、実力不足や半端者が送られる事が多く機能はしないだろうと。



「むふふん、何を心配する事があるのかしら。あなたには私と言う救いの神がいるというのに」



 ヴェロニカ姫はその申し訳ないのだが、あまり立派とは言えない胸を大きく張った。


 どう考えても救いの神というか厄病神だと思うのだが、強くは言えない。


 ……まぁ、ヴェロニカ姫がいなかったとしても、エステルとアンクが洗礼!洗礼!と言ってたしな。


 こちらの世界に移転してから本当に碌な目にあっていない。



「そう悲観するものではないにゃ、ヴェリ君。君には射幸神様からのガチャという能力があるじゃにゃいか。


それに、我輩は君を毎日でもサポートする用意があると伝えた筈だったけど?」



 あえて、猫娘の時のおどけた口調で言うと、くすくすとヴェロニカ姫は嘲るように嗤った。



「これが今日の分の契約石にゃ、さぁ、元気にいってみましょう。だってこのまま負けるなんて"つまらない"でしょ?」

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