さばんなちほーでのトラブル①

 研究所の外、さばんなちほー。

 ラッキービーストが運転するジャパリバスに乗って、ミライ、カコ、そしてコブラが別のちほーへ向けて出発する。

 ゆったりとしたバスの旅という気分でコブラは鼻歌交じりにジャパリスティックを咥えていた。


「おい君、少しは行儀よくだな」


「いいじゃないですかカコ博士。コブちゃんの好きにさせてあげましょう」


 カコ達の後ろの席でだらけるようにくつろぐコブラに、カコは注意を促すがミライに制止される。

 カコは溜め息交じりに、ミライは楽しそうに微笑みながら前に向き直った。

 ミライはこうしてカコと一緒に出かけられることが嬉しいようだ。


(まぁ、たまにはいいか……)


 カコはポケットから酔い止めの薬を取り出して飲み込み、タブレットとメモを取り出して器用に両手でペンとタブレットを操る。

 こうしている間にも、コブラの細やかな仕草や様子等を記入し、それを分厚い報告書にしてまとめるのだ。


 カコは頭の中でこまめに整理しながら、手を忙しく動かしていると……。


「あれ? カコ博士、なんか一瞬焦げクサい臭いしませんでした?」


「え、そう? コブラ、なにか臭いとかはな……――――――」


 カコが振り向いた直後に、ありえない光景が。


「んぃ~♪ んぃ~んぃ~~~♪」


 なんとコブラは咥えたジャパリスティックを、どこで手に入れたのか、鼻歌交じりに

 ジャパリスティックから香ばしい匂いがほんのりと漂う。


「え、コブちゃん!?」


「ちょちょちょちょちょッ! コラ、なにをしてるんだ!?」


「ちょ、わー! わー! わー!! コラ運転中に後ろの席に乗り出すなってんだ。ちょやめなさいこの大胆さんうぉぼぼぼッ!?」


 カコがコブラの蛮行を止めようと勢いよく身を乗り出し、ガタンとバスが揺れた拍子にコブラとカコがもみくちゃの状態で席と席の間に挟まる状態に。


「あーあー。ふたりとも大丈夫ですか?」


「んへへ、カコ博士のふんわりクッション……。サービスにしちゃ強引だねまったく」


「へ、変にゃこというな! はやく離れて……ッ!」


 2人とも体を起こして座ると、カコは赤面しながらコブラからライターを取り上げる。

 本来動物である以上、火を恐れるものなのだが、このアニマルガールは恐れるどころか危ない意味で使いこなしているかのようだった。


 アニマルガールというにはあまりにもこれまでの常識からかけ離れている。

 そう思いながらもカコは、隣で申し訳なさそうに笑みながらジャパリスティックを咥えのんびり座るコブラを見ていた。


「君、どうしてライターなんかを?」


「バスに乗る前にね。研究員のお兄様方におねだりしちゃったん♪」


「研究い……ッ! まったく、コブラ。君という奴はどこでそんなの覚えたんだ」


 そう、まるで人間だ。

 ここまで特異な彼女に対し、カコは一種の不気味さを感じていた。

 呆れたとは別に複雑な感情が隠し切れなかった。

 騒がしくもどこか温かい。

 まだ出会って間もないというのに、この赤いキングコブラのフレンズがとても近しい存在に思えてならなかった。


(まるでミライや菜々……トワ園長と話してるみたい)


 コブラの存在は少なからず、カコの心を大きく揺れ動かしている。

 こうして誰かと触れ合う度に想起する思い出と輝き達。

 カコの気持ちの整理のつかぬままに、時間は過去を置き去りにしていく。

 虚無的な感情を抱きながら、メモ帳を再度開きボールペンを滑らそうとした直後、また香ばしい匂いがした。


「……ん?」


 隣りに視線を送ると、今度はマッチを取り出してジャパリスティックを焙っていた。

 これにはミライも苦笑い。

 

「こ、こ、こ……コブラーーーーーッ!!」


「どわー!?」


 





 しばらく進んでいる頃だった。

 突如としてバスが止まる。

 何事かと思い、カコはバスから身を乗り出し外を見てみると、こちらに誰かが走ってくるのがわかった。


 あれは、アニマルガール。

 ミライが女王事件で一緒に旅をした相棒。


 サーバルキャットのフレンズだ。


「ミライさーーーん!!」


 大きく手を振って、飛ぶようにして止まったバスの真ん前にやってくる。

 彼女は常に明るく、その性格から様々なフレンズと仲良しになれるという、カコからすれば実に羨ましい人格の持ち主だ。

 

 だが今日はいつもとは様子が違う。

 必死の形相で息せき切った状態をみるに、切迫した状況が彼女に振りかかているようだ。


「サーバルさん、どうしたんです!?」


「た、大変なの! セルリアンが!!」


 その言葉を聞いたとき、カコの身が震える。

 まるで心の中の闇の中から、なにかが這い出てきたかのような気持ち悪さと寒気がした。


 その理由としてかつて自分自身の輝きによって生まれた女王の存在がある。

 まるで自分の中にまだ女王が潜んで、こうしてセルリアンを操っているのではないかと、奇妙な妄想が生まれては消えて、生まれては消えてと繰り返していた。


 セルリアンの場所はここから2時の方角。

 大きめのセルリアンがフレンズ達の場所に現れ、悪さをしているという。

 人間達はいないが、フレンズが何人かおり、戦えるフレンズが何人かいるが、それでも攻めあぐねている状態とのこと。


「早くしないと皆が!!」


「わかりました。カコ博士、一旦コブちゃんの案内は中止してフレンズさん達の避難と救援を!」


「わかった。すぐに本部に……」


 その直後だった。


「そんなんじゃ間に合わんぜ」


 コブラが立ち上がり、軽い身のこなしでバスを降りる。


「コブちゃん?」


「コブラ、なにをする気?」


「決まってんだろ。助けに行くのさ」


「助けに行くって……」


 コブラの目に迷いはなかった。

 むしろ不敵な笑みを浮かべながら、闘志をその瞳に燃やしている。

 そんなコブラの登場になにかを感じ取ったのか、サーバルの先ほどの表情が嘘のように静まり、彼女に歩み寄って微笑みかけた。


「アナタ、もしかしてキングコブラのフレンズ? 私はサーバルキャットのサーバルだよ!」


「大当たり! 君みたいな可愛い子に知ってもらえてるなんて光栄だ。……だが、楽しいお喋りは後にした方がいいな」


 そう言うや、コブラはクラウチングスタートのように身を低くして、走る動作へと移る。

 それを見てカコもバスから降り、彼女を止めようと声を張った。

 

「待つんだコブラ! 今の君が戦闘にでるなんて危険すぎる! ここはセルリアン対策チームと戦闘に特化したアニマルガールを…」


「へっ、待ってる間にホットケーキが4枚焼けらぁ! その間にフレンズの何人かがセルリアンの腹ン中だ。美少女が食われるなんてグルメがあってたまるかい!」


 そういった直後、コブラの姿が強風と共に消えた。

 砂埃を上げて、本来のキングコブラのフレンズでは有り得ないほどの速度で走っていったのだ。


 ミライやカコ、サーバルも彼女の後を追いかける。

 如何に不思議な存在と言えど、危険な場所にひとりにしておくことは出来ない。


 そして、そこで目の当たりにしたのは……。

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フレンズ、それは君への歌 木場のみ @68nftgz

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