赤いキングコブラ

 キングコブラのフレンズの色違いと言えばいいだろうか。

 しかし、彼女のような荘厳さや威厳は、このキングコブラには見られない。

 胸元を開けさせて着崩し、腰に手を当てながら艶やかな視線を送る様は、まさにグラマー。

 

 たまに同じフレンズが生まれることはあるとは聞くが、同じキングコブラであってもなぜこうも違うのか。

 これにはなにが原因となっているのか。

 彼女と出会ってから、カコの頭の中にそればかりがずっと反芻している。


 別の意味で忘れられない夜になってしまった。

 あんな現象を見てしまえば、研究テーマを増やさずにはいられない。

 カコ博士はこの赤いキングコブラを観察することに決めた。


 次の日の朝。

 カコ博士は計画書の束を右手に彼女を連れて、トワ園長のいる執務室へと向かった。

 ミライもこのことを聞いており、すでに執務室で待っているとのこと。

 

「随分と歩くねぇ。とびっきりの歓迎会を期待していいのかな?」

 

「歓迎会ではないが、今から園長の所へ行くんだ。アナタのことを紹介したくてね」


「ほー、園長。じゃあお近づきの記念に、一緒にサンバでも踊ってもらうとするか」


「生憎ダンスの時間は設けられてない。簡単な紹介だけだ」


「じゃあ、またの機会にしますかね」


 赤いキングコブラはどこから手に入れたかは知らないが、ジャパリスティックを1本口に加えていた。

 常に笑みを崩さず、カコ博士の後ろを歩いている。

 正直な話、カコ博士は彼女の存在に大きな違和感を抱いていた。


 生まれたばかりであるというのに彼女の知性は非常に高い。

 人間や動物の違いを瞬時に把握し、文字も読める。

 昨晩は研究室に積み重ねてあった書類等を自分から漁り目を通したほどだ。


 その影響なのか、よくもまぁ歓迎会だのサンバだのと言葉がポンポンと出てくるものだと、内心舌を巻くカコ博士。

 カコ博士はこのフレンズのことがどうしても気になった。

 あまりにも謎が多すぎる。

 昨晩は聞くことが出来なかったが彼女のあの言葉、『会いたかった』とは一体なにを意味するのか。

 このキングコブラを、トワ園長とミライに会わせ会話をさせれば、なにかヒントが得られるかもしれないと思った。

 

 実際の所、カコ博士は他愛のない会話というのがあまり得意ではない。

 仕事関係でしゃべるのなら、台本のようにスムーズにしゃべることが出来るが、プライベートとなるとどうも話が続かなかったり、どもったりする節がある。 

 

(フレンズと話すことは好きだ……だが、彼女はどうも他のフレンズより人間味が強い。もっと深く話せればいいんだが、どーも、こう……何気ない会話というのが苦手だな)


 カコ博士は自分の性格の難儀な部分に内心頭を悩ませながら廊下を歩く。

 そして園長の執務室まで来ると、ノックして自分がここへ来たことを知らせた。


「カコ博士ですね。どうぞ」


 中から若い男の声がした。

 ドアノブを回して入ると、奥の執務机には白衣を着た顔立ちの良い青年が座っており、その机の隣には探検服をまとったミライが立っていた。


「まぁ! その子が新しいアニマルガール? ……本当にキングコブラさんそっくりですね」


「そっくりさんじゃあない。正真正銘の本人さ。サインいる?」


 ミライが目を輝かせながら赤いキングコブラに一気に近寄る。

 凄まじい勢いだったにも関わらず余裕の態度を崩さない赤いキングコブラ。

 それを傍目にカコ博士は、ミライの興奮に微笑ましい顔をしているトワ園長に報告をする。


「園長。昨晩に私の研究室にて誕生したアニマルガールです」


「報告ありがとうございます博士。……へぇ、どうやら僕等が知っているキングコブラのフレンズとはまた違った魅力を持っているようだね」


「あぁ、特にバストとヒップは人間以上に自信がある」


「こ、コラッ! 園長になにを言っているんだ!」


「ハッハッハ! 中々面白い子じゃないか。あーそうだ。キングコブラのフレンズはすでにいるし、名前を別で呼ばないと後々混乱するな。君のことはなんて呼べばいいだろうか?」

 

「じゃあ、コブちゃん!」


「コブちゃん!?」


「え、昆布茶?」


「昆布茶!?」

 

 ミライのネーミングセンスとトワ園長の聞き間違い。

 驚いた拍子に口に加えたジャパリスティックが一気に口の中へ入り込む。

 むせ込まないように慎重に噛み砕きながら、徐々に観念したように笑った。


「他に良い案はないし。よし、じゃあコブちゃんにしようかね」


「フフフ、よろしくお願いしますねコブちゃん!」


「はっはっは、楽しくなりそうだ。ねぇカコ博士」


「そうですね」


「ん、じゃあ早速。アンタはミライ、アンタはトワ、そして……アンタはカコ。改めてよろしくな」


「あぁ、よろしく。えっと……こ、コブ……コブちゃ……」


 ようやく決まった命名。

 だが、どうにも恥ずかしくて言えず、赤面したまま中途半端に呼んだ。


「うひぃ!? アンタまで昆布茶って言うのか!?」


「いや待て! コブラ! そう、コブラと言おうとしたんだ!」


「え~、コブちゃんですよぉ」


「そうですよカコ博士。彼女の名前はコブちゃんですよ」


「か、からかわないで下さい。……こほん。話を変えるようで申し訳ありませんが、今日の予定として彼女を案内してあげたいのです。パーク内の環境に少しでも慣れてもらう為に、こちらが定めたルートを彼女に歩いてもらいます」


 カコ博士はトワ園長に計画書を手渡す。

 それにゆっくりと目を通しながらトワ園長はにっこりと微笑んで受理した。


「ほう、同伴者にはミライさんと、アナタの名前が記載されていますね。これは珍しい。いつものように研究室におられるかと思いましたが」


「……まぁ、私も考えることはありますので」


「フフフ、これは楽しい計画になるかもですね。では、おふたりともよろしくお願いします」


 こうして、ミライとカコ博士はコブちゃんこと、コブラにパークのことを知ってもらう為のガイドを開始した。

 

 

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