フレンズ、それは君への歌

木場のみ

それは、まぐれもなく……?

 夜空を駆ける巨大な彗星。

 ジャパリパークの夜に人間やフレンズ問わず、感動の嵐が巻き起こっている。

 

 だがそんな中、夜空を濁った瞳で見上げる女性が一人、その名も『カコ』

 彼女はこのジャパリパークのスタッフであり、研究所副所長を務める若き天才。

 その瞳には色鮮やかな光の尾を伸ばしている彗星が映っていた。

 だがそれに喜ぶでもなく、涙するでもなく、ただじっと見つめているだけ。  


 それは現在観測している宇宙的事象であると同時に、すでに冷えてしまった過去の思い出と同一の物だ。


「……いけないな。また思い出しちゃった」


 流れるような髪を揺らしながら、研究所の屋上を後にする。

 あの彗星はかつて、今は亡き両親と共に見た光景だったのだ。

 それが今年再び現れ、多くの人やフレンズの心を揺さぶっている。

 自分も再び見れば、あのときのように心の底から笑えるんじゃないかと思って、遅くまで続いている仕事の休憩がてらに見に来てみたが……。


「……仕事をしよう。そうだ。もっともっと研究しなくちゃ」


 頭の中は研究の事、そして、大好きな動物達のことでいっぱいだ。

 仕事に打ち込み、動物そしてフレンズのことを考えているときだけは、自分自身が輝いているだろうと実感出来る。

 セルリアンの女王事件の後、『輝き』を取り戻し目を覚ましたカコは、これまで以上に働いた。

 

 ――――恐怖だ。

 セルリアンに輝きを奪われたと考えるだけでも、今でも怖気が走る。

 パークガイドであり、同僚であり、友である存在ミライとフレンズ達の手によって終息はしたが、そのことについてカコは彼女等に負い目を感じていた。

 本人達は気にしていないようではあったが、彼女に付きまとう悔恨の念が取り払われることはない。


 ――――両親に会いたい。

 

 自室へと向かうべく、研究所の廊下を歩いていると、ふと、そんなことがよぎった。

 それは彼女の願いにして輝きの原点。

 セルリアンはその輝きを歪に捉えて利用し、『女王』として君臨した。

 彗星の光で鮮やかに照らされる廊下の影の部分を進むカコは、もう一度彗星を見てみる。


 すると、奇妙なものがこちらへと飛んできた。

 よく見ればそれはサンドスターによく似た輝きを持つ、蛍のように漂う光。


「え……なに、あれは? って、あの方向は私の研究室ッ! あそこには動物がッ!」


 カコは急いで走る。

 奇妙な光はまるで窓から彼女を誘っているように、フワフワと飛んで、研究室の窓をすり抜け入っていった。

 

 突如、眩いばかりの光が研究室から放たれたのがわかった。

 ほんの数秒で光は消えたが、カコはこの未知の現象に不安と期待が合わさったような興奮が収まらない。

 そして自らの研究室前に立ち、呼吸を整えてからドアノブを回す。


 ……キィィィ。


 蝶番の音が響くと、薄暗い空間が彼女を出迎える。

 外の光が窓の外から流れ込み、デスクや機械等の輪郭を闇に映し出していた。


「……ッ! だ、だ、だ、……誰?」


 部屋の隅に誰かが立っていた。

 隅っこは暗く、その人物のsilhouetteは後姿のようだ。

 カコが声を掛けると、それはゆっくりと振り向いた。

 爛々と光る眼を彼女に向けながら、どこか満足気に笑っているのが見て取れる。


「――――ッ!」


 カコは堪らず研究室の電気をつける。

 パチリと明るくなると、それはゆっくりとこちらに身体を向けた。


「――――会いたかったよ。アンタに」


 カコを真っ直ぐにとらえて、自信たっぷりの笑顔を見せる。

 キングコブラのフレンズ、だが、服の色が違った。

 コブラとは思えないほどに真っ赤な色合いの服が、目の奥に焼き付く。


「……フレ、ンズ? でも、アナタは……」


「おぉっと、まずは初めまして。私は、キングコブラだ」


 

 

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