ペンは剣よりも強いけどそれ以外に弱い
文芸部部長は激怒した。必ずや、かの邪智暴虐な運動部を除かねばならぬと決意した。部長には運営がわからぬ。日々を適当に遊んで暮らしてきた。しかし邪悪に関しては人一倍に敏感であった。「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス」ぶつぶつとつぶやく様はもはやどちらが邪悪か分からぬが。
さて、普段は温厚で捨て猫を見たら放ってはおけぬ優しい女の子の部長がこのような状態に陥ったわけを話すには、一週間前の部長会議まで遡らなければならぬ。
*
一週間前。自主学習室で行われた文化祭に伴う部活連部長会談、通称B29にて、文芸部部長は柔和な顔に似合わない大声をはりあげた。
「おかしい!おかしいです!なして我々がこげな端っこをば使わねばならんとですか!」
説明するのを忘れていたが、部長はキレると謎の博多弁になる。本人いわく博多に親戚などいないどころか九州に行ったことすらないそうだ。ますますもって謎。
そげなことはどうでもよ……そんなことはどうでもいいのだ。とりあえず部長はキレた。
「そうは言ってもねぇ……君たちのような弱小部に貴重な出店スペースを大きく割く訳にはいかんのだよ」
ヒートアップする部長を嘲笑うように返事をしたのは、部活連理事長、兼生徒会長であるヒカミである。
「そげな事言っても、流石に畳1枚はひどかとたい!」
叫ぶ部長。言い忘れていたが部長の名はナカノだ。この機会に覚えておいても損は……多分あるから覚えなくていい。
その手に握られているのは、一週間後に迫った文化祭の各部出店スペースの表である。1番上、校門近くのいわゆるホットゾーンには、サッカー部、野球部を初めとする運動部がずらりと名を連ねる。対する文化部組は校門から遠い、歩くの面倒だよねゾーンに配置されている。文芸部に至っては最早これはスペースと呼べるのかすら怪しい。畳1枚分のスペースが右下の端っこ、暇人ぐらいしか行かねーよゾーンに配置されている。完全に権力の差が現れている形であった。
「ふん、本来なら君たちは出店スペースすら与えられるはずがないんだ。部ではなく文芸同好会だからな。それを可哀想に思ってこうしてスペースを割いてるんだ。むしろ感謝して欲しいね」
「なにね!同好会だろうと部だろうと与えられる権利は同じたい!違うのは補助金の有無だけね!」
「ふはっ、確かにそうだ。形式上はな。だが事実、今お前らはこういったことになっている。恨むのなら僕らじゃなくて部に昇格させられなかった不甲斐ない先輩方だろう。」
「なっ……な……!」
「とにかく!君たちのスペースはそこだ。異論は認めん。なにか文句があるならこの会議の場で叫んでみるといいよ。誰も君たちのことなんて気にしないだろうけどね!ハッハッハ!」
「ぐっ……こげなとこにいつまでもいられるかとね!わたしは退出させてもらうけんね!」
「ご自由に!ハッハッハ!」
部長はわざと大きな音を立てて椅子を引くと、ドアを半ば蹴破るようにして自主学習室を飛び出した。後ろからこれみよがしに「ざまあ味噌漬け〜!プギャー!」とかいう声が聞こえてきた。部長は怒りのあまり今にも気が狂いそうであった。
*
ということがあって一週間。案の定人は訪れず、文芸部の部誌は畳1枚のスペースのほぼ全てを埋めつくしたままで残っていた。部長はスペースの外で地面に座ってボーッとしており、部員達はスペースの近くで集まってスマホ(校則違反)を使って某モンスターをストライクさせるゲームをやっている。「あ、ガブリエル来たわ」「マジかよ」「うらやま」「ガブリエルはいいぞ可愛い」などと言う会話がなされている傍で「マジコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス…」などと部長がぶつぶつ言っている光景は明らかに異常であった。もし文芸部に興味がある人だったとしても、これでは寄り付かないだろう。と、部長がおもむろに立ち上がると
「革命じゃー!革命を起こすんじゃー!」
叫んだ。その勢いに押されてよく分からないが部員達も叫んだ。「おー!」「おー」「おー?」「やべガブリエル強化素材に使っちゃった」……約1名、モンスターをストライクするアレで大失敗を犯したらしい奴がいるが。
と、「は?もったいな!」「おまっ……それは草やわ」「乙www」部員達は瞬く間にそいつを煽り始めた。その後しばらくして、煽りが若干沈静化したあたりで、1番最初に煽り始めた部員(仮にAとする)が思い出したように部長に尋ねた。
「で、革命って言っても何するんすか部長」
部員達に空気のように扱われて若干涙目になっていた部長が息を吹き返して答える。
「お、おう!それはだね……ゴニョゴニョ」
「「「ええー!なんだって!運動部の店に文化部全体で奇襲をかけるだってーっ!」」」「あ、ガブリエル2体目出た」
「この期に及んでモンスターをストライクするやつをやってるのはほっといて、お前ら声が大きい!しずかにしろ!聞こえたらどうすんだ!」
(了解です部長、それでどうするんすか)
(いい質問だ。まずは我々と同じように配置が酷い場所のイラスト部、鉄道研究会、自衛隊同好会を引き入れる)
(はい。連合軍で急襲するのは分かりましたが、その後どうするつもりです)
(この文化祭で食べ物を売っているのは奴らだけだ。他の店は奴らに出店の権利を奪われたからな。考えろ、戦争で補給線が絶たれれば、そこに現れる光景はなんだ?そう、地獄絵図……!食料を求める腹ぺこの愚民どもは、通常なら足を踏み入れることの無いこの辺境の地に赴くこととなる!)
(((なっ……なるほど!)))
(そこでここで出店をやってみろ。もう飛ぶように売れるに違いない。加えて、自身の腹ぺこを救ってくれた文芸部が部誌を差し出してきたら?……受け取らざるを得ないっ……!)
「おー!」「そいつぁすげえ!」「行けます!部長天才っすよ!」
部員達はあまりの事の大きさ、そして完璧な計画に興奮を隠せずに飛び跳ね、口々に部長を褒めたたえた。部長の方も調子に乗ってきたようで、「だろぉ?」とか「やっぱし天才かなーwww」とか言っている。
そんな中、それまで会話に参加せずにいた部員(仮にDとする)がおもむろに口を開く。「あ、また強化素材にしちゃった」
「「「「お前もうモンストやめろやああああああ!」」」」
部長と3人の部員達の絶叫が響き渡った。
Coup d'etat. 下剋上。 NUKO @allwayskinnketsu
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