交差点

僕たちは旅に出た。


僕達の、最も青くて、瑞々しい頃。

あるいは、輝かしい時代。






夕暮れ時になると、サンライズは数人の静かな客を残して穏やかに時が過ぎていく。


扉の開く音がして、雨がコンクリートに跳ねる音が店内に響くと、音に反射するように白附 唯が頭を上げた。

前傾した頭をもたげて、全身が黒い柱の様なシルエットをした『鴉』が入ってくる。腕を小さく曲げて、革のジャケットのポケットに手を突っ込んだまま、店内の端のカウンターに腰掛ける。


「帰り?」と、聞くと、『鴉』が首を横に振る。

「旅に出るんだ」


「友達ができたのね」

『鴉』は、短く頷く。


煙草に火をつけて、豆の香りに混じる。

窓から射す光が5度ほど傾いた。


「……もう来ないのね?」


「足踏みしている気がしてね。そろそろ動いてみてもいい。そうだろう?」頭をもたげたまま、呟くように『鴉』の口が動いた。




雨は止んだ。

しかし依然として空は曇り、景色を灰色がけていた。

店内に『鴉』の姿はなかった。


白附 唯が窓に目を向けている。硝子に張り付いた水滴が外界にモザイクをかけていた。その中のいくつかが滴り落ちていく。それが、何度も繰り返された。


そうして陽が暮れた。床に落ちる明かりが寒くなり、そしてほとんどすべてが限りなく灰色に落ちていった。

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