イート

 祝餐エウカリストの席に、家族が並ぶ。香ばしく焼けた匂いが食卓を包み、それぞれのグラスにワインや、サイダー、ジュースが注がれいく。ステーキ、ケバブ、包み焼き、ソーセージ、ホルモン焼き、サラダ……。

 今にもよだれが溢れ出しそうなほどかぐわしく華やかな謝肉料理を前に、皆、最年長者である父の言葉を待っていた。

「まあ……あんま注目されてもアレだがな」

 妙に照れくさそうに、父は口元を歪めて頭をかく。

「いちおう、俺が喋らにゃならんのだな、うん」

「頑張って、元教授」娘を抱いたままの義兄が口笛を吹いた。

「やかましいわ!」ハンっと笑う。「えっとな、もうずいぶん昔の話になるが……飢饉から立ち直った人類がそれでも人の肉を食い続けるべきかってのを、お偉い人たちがガイマン会議って場で語り合ったことがある」内容がまとまったようで、スイッチが入ったようにハキハキとした喋り方になる。「ずいぶん揉めたそうだが、結局昔のように牛や豚を殺して食うよりも、事前に了承を取れる人間の、しかも死後に亡くなった体を食べるほうがよっぽどまともだろうって結論づいたわけだ。その方がきっと感謝も忘れないだろうしな。だから肉には必ずその人の顔写真が添えられるし、祝餐のテーブルには必ず、これがある」

 喋りながら、おもむろに最後の席ターミナル・エッグの蓋を外した。

 香り高く焦げた匂いが部屋を包み、できの良い屍蝋のようにふっくらと焼けたマナの生首が食卓に現れる。

 はっと皆が息を呑むほど美しく、そして美味しそうな出来栄えだった。

 うまく焼けて、本当によかった。

「……いいか、俺たちが今から食うのはこの人だ」父は続ける。「93年の命をしっかり生きて、泣いたり笑ったり子どもを生んだりして、その果てに残ったこのマナさんの体を、俺たちは消費しようとしている。そうだな、マルク?」

「うん……」少年の瞳が、少女の顔を真っ直ぐに見つめている。10歳の誕生日の祝餐エウカリストの日に、誰かの全身をまるまる料理する意味が、ここにある。

「俺もそろそろ食い頃だ」すっかり禿げ上がった頭を叩いて、ニヤリと笑った。「きっと知らない誰かの家で、子供になった体を食べられるんだろう。俺も婆さんも、パパとママもアリーシャも……いつかは、マルクも」

「うん」

「……残すな、少しも」

 父は厳しく、だけどどこか和やかに、そう呟いた。

「精一杯生きた誰かの体を、精一杯ママが料理したんだ。みんなでとことん味わおうじゃないか! 以上、無駄話終わり!」

 ドシンと座り、ビールを掲げた。

 私と夫はワインを。

 他の大人たちはビールを。

 下戸の弟だけはアップルジュース。

 子どもたちは、今日しか飲めないスパークリング。

 背伸びした娘はノンアルワイン。

 皆で上座のマナの……マナさんの顔に向かって、杯を傾けた。


「みんなでマナさんに、乾杯!」


「乾杯!」

















「いただきます!」

 



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凍っていた彼女の体が君の食卓に並ぶまで 小村ユキチ @sitaukehokuro

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