短編:四月一日さんと嘘

夜道

四月一日さんと嘘

僕の彼女の四月一日わたぬきさんは、よく嘘をつく。

四月一日さんは見た目は清楚系だし、普段の性格もこれといって荒い訳では無い。でもイタズラ好きなのか、よく嘘をつく。

そう、彼女と付き合い始めた頃のこと…


♦︎


「ねえ、今度デートしない?」

ニッコリと笑う四月一日わたぬきさん。

「えっ…四月一日さん、いいの…?」

四月一日さんは僕をデートに誘ってくれた。

「もちろん。じゃあ今度の日曜日に駅集合で!10時ね!」

その日はそれだけ話して彼女と別れて、家に帰った。

自分の部屋に着くと、ふと約束を思い出す。

「そういえば、どこに行くか聞いてなかったな…」

僕は行き先を聞こうと思い、スマホを手に取りLINEを開く。すると…

『デートの話、本気だと思った?^_^うっそ〜!デートはまた今度ね!(笑)』

「…はぁぁぁ!?」

これはあまりにもふざけているだろう…。

僕はガックリと肩を落とし、ベットに寝転がった。


♦︎


四月一日わたぬきさんとはこの日から毎回こんな感じのやり取りで、結局一度もデートに行けたことがない。

学校では仲良くしもらってるけど、本当は…

本当は、僕は遊ばれてるだけで、彼氏だと思われてないんじゃ…。

ううん、不安になってきたし今日はもう寝よう。うん。


♦︎


翌日の事。僕はいつも通りに四月一日わたぬきさんと一緒に下校していた。

「ねえ、今度こそどっか出かけない?今回は嘘じゃないから!ね!」

「う〜、本当かなぁ…。」

またこのパターンか…。渋々その場では信じるフリをして、家に帰ってLINEをチェックする。

案の定LINEが来ているようだ。ハイハイ、また嘘ですよねー。

『デートの話なんだけど、時間とかどうしようか?』

やっぱり…ってええ!?嘘じゃない!?

こんなことは初めてだ。僕は心臓をバクバクさせながら返信を書く。

その途中だった。

『あ、ごめんごめん、やっぱ行けない〜(笑)』

……っっ!?

危うく返信を送るところだった。やっぱり嘘じゃないか…。こう何度も引っかかる自分が恥ずかしい。

そんな時、僕はふと疑問に思った。

「四月一日さんが僕に嘘をついて、結局その日はどこに行ってるんだろう…?もしかして家でダラダラしてるとか…?」

そこは彼氏として気になるところである。自分よりも家でダラダラする方が優先されてしまうのだろうか。なんか悲しいというか虚しいというか。


♦︎


日曜日。僕は四月一日わたぬきさんにも嘘をつかれたので、結局暇になってしまった。

「時間あるし、本屋にでも行こうかな…」

実は僕は本を読むのが趣味だったりする。

なんでも読むが、最近はラノベというやつにハマっている。マイブームだ。

そんなこんなで家を出ると、外は雨が降っていた。

「はぁ〜、なんでこういう時に雨かなぁ…。いや、雨なら四月一日さんに嘘つかれて正解だったかも…」

そんな事を考えながら、トボトボ歩いていると、公園のベンチに人影が見えた。

「こんな雨なのに傘もささないで…何をしているんだろう…?」

傘を貸すつもりで近づいてみると、その人影はひどく見覚えのあるものだった。

「四月一日さん!?こんな所で何を…!?」

随分と長い間ここにいたのだろう。本来ならば綺麗に整っているはずの服装も、雨でびしょ濡れになっていた。

「君こそ、なんでここに…。」

四月一日さんは驚いた顔でこちらを向く。

「僕のことはいいから!ほらはやく、傘貸すから家に帰りなよ!風邪ひいちゃうよ…?」

そう言うと、四月一日さんは一瞬だけうつむいたような気がした。

「私の家はここから遠いから…君の家にお邪魔してもいいかな…」

ドキッ。なんで、僕の家に…!?

「え………いや、全然大丈夫だよ。……じゃあ、いこっか。」


♦︎


「…お邪魔します。」

「どうぞ。体拭いて、シャワー浴びてきなよ。…着替えは僕のを貸すから。ほら、置いとくよ。」

「ありがとう…」

それにしても、なんで僕の家に…?

彼女の事だから、また僕をからかいたいのだろうか。

そもそも、なんで雨の中で公園に…?

なんで、なんでは深まるばかりでちっとも解決しない。どうしたものかな…。

その時、背後から声がした。

「シャワー貸してくれてありがとね。」

「あっ、四月一日わたぬきさん…どういたしまして。…それで…話したい事は山ほどあるんだけど…」

「…うん」

四月一日さんの表情が一瞬曇ったような気がしたけど、すぐにまたいつもの四月一日さんに戻った。

「まず、四月一日さんは何であんな所にいたの?」

四月一日さんは3秒くらい(でもずっと長く感じた)沈黙してから、口を開く。

「君には、いつか話しておかなきゃと思ってた。」

淡々とした口調で話し始める四月一日さん。

こんな彼女は、らしくない。

「…私ね、元々体が弱くて、小さい時からいろんな病気にかかってたの。今もそう。すぐ体調を崩しちゃう。」

衝撃の事実。僕は驚いた。

「でも…四月一日さんはいつもあんなに元気そうなのに…?」

「毎日薬を飲んでるから、学校に行っている間も平気でいられるようになったの。最近は体調を崩すことも少なくなって、外出も多くできるようになった。」

まさか四月一日さんにそんな秘密があったなんて。今まで知らずに接していた自分が、なんだか恥ずかしく感じる。

「最近、君を遊びに誘ったりしていたでしょ。実はね…。あれ、別に嘘をつきたかった訳じゃないんだ。」

「え…嘘がつきたかった訳じゃない、って…」

「私、毎週病院に通ってるんだけどね。たまに体調が良い時があって、もしかしたら君と遊べるかも!なんて思ったりしてた。」

「四月一日さん…。」

「でも、お母さんが『病気には行かなきゃダメだ』って言って話を聞いてくれなくて…。実は…今日もお母さんと喧嘩して飛び出して来ちゃったんだ…」

「そんな…」

ずっと嘘をついていた四月一日さん。

僕に「嘘だ」と言っていたそれさえも嘘だった。誰にも言えず、自分にも嘘をついて…。

「私、嘘つきだよね。君に病弱だって知られたら、きっと嫌われちゃうと思ってた。」

四月一日さんの瞳には、うっすらと涙が浮かぶ。

「そんなこと…ないのに。」

僕は否定しようとしたけど、声にならない。心がぎゅっと縛られるようで、声が出なかった。

「私、君が好き。君に嫌われたくなくて、君に会いたくて、でも、どうしたらいいかわからなくて…。」

四月一日さんはずっと、大きなものを抱えていたんだ。

外からじゃ分からない、ずっとずっと大きなものを。

四月一日さんは、僕の事を「好き」って思っていてくれたのに…。

それなのに、僕は……。

「四月一日さん、ごめん。僕はずっと、勘違いをしていた。君が嘘つきだと、そんなひどいことを思ってしまっていたんだ。」

僕は泣いていた。なんでだろうか。なぜか、泣いてしまった。もらい泣き?それとも、自分の気持ち…?

「ううん。君が悪い訳じゃないの。私は嘘つきで、実際に君に隠し事をしてた……。ごめんなさい。」

その彼女の言葉を境目にして、もう僕らが言葉を発することはなかった。

しばらくの間、僕の家のリビングは窓の外と同じ雨が、降っているみたいだった。


♦︎


「今日は取り乱しちゃってごめんね。色々ありがとう。お邪魔しました。」

四月一日さんは礼儀正しく礼をして、外に出ようとする。

「あっ…待って、四月一日さん。」

しまった。特に言いたいことがあったわけじゃないのに、呼び止めてしまった。

「あっ、えっと…その服、今度学校で返してね。あの、全然、洗濯とかしなくていいから!そのまま返してくれればこっちで洗うし!」

うーん、とっさにそれっぽいことを言えたし、なんとかなったかな…?

「ねえ、さっきの事なんだけどさ。」

なんだろう。まだ何かあるのかな。

「…うん?」


って言ったらどうする?」


…え?

ちょっと、待って…。今のが全部…嘘…?


四月一日さんは微笑む。

「ふふ、なんてね。流石にそれは冗談だよ〜!」

ああもう。心臓止まるかと思ったよ。ここまでしておいて全部演技だったとか言われたら……。いや待てよ、確か四月一日さんは演劇部…?もしかして、もしかすると…?

もう、どっちか分かんない〜!!!!!

「あーもう!!そういうところ引っくるめて四月一日さんのことは好きだよ!大好き!またね!!」

ガシャン!!と威勢良く玄関のドアを閉める。…はあ。天災か、本当に。


♦︎


雨がしとしとと降り注ぐ。

閉まったばかりの冷たいドアに寄りかかり、私…四月一日 千尋わたぬき ちひろはついさっきの出来事に想いを馳せる。

「『大好き』…ふふふ、嬉しいなぁ。ありがと、君のおかげで今日はちょっと楽しくなったかも。」


「四月一日」おわり

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短編:四月一日さんと嘘 夜道 @kuro_melt

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