第2話 サルベーション

「どこに行ってたの。」

俺は今、進に問い詰められているというか、説教されているというか。

この何とも言えない空気の中で、俺は正座をさせらている。

場所は勿論、俺の家。リビング。

「え、えっと.....。」

「知ってるよ。面倒くさい出来事に巻き込まれて、おまけに美女だったんでしょ。僕も誘ってよ。」

「....は❓」

「いいなぁ......。本当に、面倒くさいっていう割には、恵まれてるよ。」

「何だよ.....怒るんじゃないのかよ。」

「僕は、S(サド)じゃないからね。それに、疲れる。」

どういう問題だよ。

というか、美女目的で普通、見に行くかよ。

それに、俺はただ単に面倒という訳でもない。

一昨日のように、あんな面倒な美女に付き合いたくないという結論に至る。

正座をさせられてるせいで、足がじわじわと痺れてきている。

「まぁ、美女はともかく、一昨日何が起きたの。」

「それは、第1話を見ればわかる。」

頭を思いっきり、叩かれて、俺は痺れてきていた足をようやく崩せた。

床に寝転んで、天井を見ていたら、進の顔が少し笑顔を浮かばせていた。

「純、面倒だからって、この話を掘りかえさなくていいんだよ。後、僕たちがそんな事言ったら、この小説の意味がないよ。」

確かに、この話に出ている俺たち本人が言ったら、NGである。

だが、第一話を読んでいない人に、忠告したのである。

というか、そもそも第1話もこの第2話も、カタカナなのが、気に食わない。

主人公の俺が口を出すと、やばいのは承知の上。

今の若い奴らだったら、「ググれカス」とか言ってきそうな勢い。

タイトルは、勿論英語であり、確か名詞だったはず。

もう、忘れたが。

花の名前みたいだが、訳せばわかる。

どっちも、マイナス思考のタイトルであるため、読みにきたリスナーさんは、「なんだこれ。」と1ページも読まずに去っていくだろう。

知ってた。

「おう、それは承知の上だ。そもそも、進、お前は分かっているだろ。俺が、どれだけ不器用な人間だという事を。」

「というか、僕たちって、人間普通に超えてると思うけど。」

「さみしい事言わないでくれ....」

「わかった。」


で、気をとり直して。

俺を説教しにきた訳じゃない。

何かを伝えにきたらしい。

「なんだっけ、俺に言いたいことって。」

「その一昨日の美女に関連していて、似たような事件が多発しているらしいんだけど。見覚えある❓」

あの美女は、鬼だった。

ならば、鬼のような牙を持っている持ち主といえば、吸血鬼。

そうだ。

この間、学校で不気味な空気を醸し出していた男がいたような。

それに、良子がそいつと話していた。

良子の鼻は敏感なはずだから、匂いでわかると思うんだが。

「良子と話していた奴だったりするか❓」

「僕は、その時図書室にいたから知らないけど。」

「そうか。俺、ちょっと、良子の家に行ってくる。」

「ぼ、僕は。」

「待ってろ。」

「わかった.....。」


とにかく走った。

意外と良子の家は、遠くはなく。

時間もそんなにかからない。

唐突に、お邪魔するのは失礼だから、流石な俺もそこだけは真面目にやる。

〈あ、純じゃんか。なんだよ、急に。〉

「今、お前の家に向かってる。」

〈・・・え❓なんで。〉

「確認したいことがあるんだよ。」

〈何、わざわざ来なくても良くない❓〉

「いや、行かなくちゃわからない。」

〈ま、いいけど。一旦切るよ。〉

「後もう少しでつくから。」

〈早いわ・・・・〉


そんなこんなで、走ってから20秒程度。

右の角を曲がって、二軒目が良子の家だ。

窓から、良子が手を振っている。

俺が近づくと、良子は窓を開けて『おーい。』と叫ぶ。

玄関の前。

窓から、良子が『ちょっと待ってて。』と言い、俺は息切れを整える。

深呼吸した後、良子が玄関を開けた。

「で、来た意味。」

「さっきも言ったけど、本当に知らねぇ❓」

「うん。匂いもわからないし、なんとも言えないけど・・・。」

「いや、それはいいんだ。俺が、一昨日、鬼に誘拐されたんだ。その事件後も似たようなのが続いてるっていうのを、進から訊いたんだ。」

「あ・・・。そういえば。」

「何か、わかったのか。」

「廊下ですれ違った時・・・・。」



それは、純がまだ誘拐される前の事だった。

3時限目、良子が移動教室で、2階のパソコン室に行こうとした際。

階段を下りている時は、良子はクラスメイトと一緒に会話していた。

「数学、本当にだるいよね。ていうか、本当、先生の話が長い。」

「それな。半分寝てた。」

「良子ってさ、授業中寝た事あるの。」

「んー、英語しか寝てないかなー。」

「英語も本当苦手ー。得意な人とか羨ましい。」

「良子って何が得意だっけ。」

「理科かな・・・。」

「え、凄い。」

上に向かってくる男子の集団が来た時だった。

良子が『あ、忘れ物した。先行ってて。』と友達に言って、下を向いたまま折り返した次の瞬間・・・・。

「っ・・・・。」

「あ、ごめん。」

「気をつけろよ。」

「・・・・。」

唖然として、男子の集団を先に行かせた時、良子は鼻に感じた匂いがあった。

鉄分の匂いに近く、少しツーンと来る匂いだった。

一瞬、良子は(怪我でもしているのだろうか)と心の中で感じたが、情報の授業で、ずっと思い続けていた。

【みんなとは違う匂いがする】と。



「そう。そういえば、そうだ。」

「違う匂いがしたんだよな。」

「うん。」

「そいつで間違いないな。」

「そうね・・・。」

「わかった。ていうことで、その服装から着替えて一緒に来い。」

「・・・は❓」

「いいから、数秒で着替えろよ。また同じような事件が繰り返される。」

「・・・・う、うん。わかった。」

もし、そいつならば、俺は必死で止める。

無差別な人殺し、残虐、噛まれた傷が残り重傷を負って入院するという三つが主だ。特に、血を吸わないのが多い。何故だろう。俺は、良子を着替えている間考える。普通、吸血鬼というのは、血を求めるのが多い、それに太陽が出る日は、日傘をしていたり、夜間部に入っていることが多いが、何故、あいつは普通に生活出来ているのか。

「ごめん、お待たせ。」

「急いで行くぞ。」

「うん。」

再び走る。

俺の家には、進、ただ一人を待たせたまま。

気づかなかったが、考えている間にメールが来ていた。

進からだ。

だが、俺は衝撃的事実を見てしまう。


【助けて・・・・・・純。】


「え・・・・。」

「どうしたの。」

「見ろ。」


動画が送られている。

俺と良子は、足を止める。


その動画には、手足を縛られて、顔は血だらけの進の様子があった。

〈・・・・純、助けて・・・・。ごめん。でなきゃ良かった。〉

一昨日と同じ手口。

誘拐されたに違いない。

犯人の声は加工されており、わかりづらかったが、きっとすれ違ったあの吸血鬼だろう。


「どうするの・・・。」

「この部屋、どこかで見たな・・・・。」

「なんで知ってるの。」

「・・・・、俺と同じ、誘拐された場所だ。」

「え・・・。」

一昨日の鬼と、何も関係ないはずだ。

なのに、なんでこの場所を知っているのか。

遠くから、良子が何かを言っているのが聞こえてくるが、俺は考え事しか頭にない。

危険だ。


「ね、聞いてる❓どうするの。」

「今はそんなことを考えている暇はない。行く道を変えよう。すぐに、この場所に向かう。」

「え、走って❓」

「あそこは何気に遠い。」

「電車❓」

「いや、タクシー。」

「え、高いよ❓」

「大丈夫だ。」




ー進なら、きっと助かる。そう信じて・・・。ー



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危険生物/Dangerous person【完全版】 咲乃華羽 @warau_39_87

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