危険生物/Dangerous person【完全版】
咲乃華羽
第1話 アンプロテクド
相変わらず。この部屋は魚臭くて、リビングに芳香剤を何個か置いて、窓を開けて換気をしているのに。料理が苦手な俺にとっては、最悪な事態。12階建てのマンションの5階に住む俺は、高校3年生に成り立てで、訳あって一人暮らし。季節は、春で、まだ本格的じゃなくて、春の嵐が吹き荒れたりして、三寒四温が続いている。おかげで、換気しているせいか、冷たい風が部屋に入り込んできて、風邪をひきそうだ。毛布にくるまったまま、俺はあちこち部屋を歩き回っていた。そういえば、スマホの充電をするの忘れていたが、手元に充電器が無くて困っている。どこへしまったのか。自己管理も出来ない俺が、一人暮らしなんてするんじゃ無かったと、改めて後悔をする。もしかしたら、ラインの通知が100を超えているのかも知れないのに、全く。こういう状況は、一切御免だ。面倒くさいのには、興味がないし、やる気が出ない。それに、まだ課題は終わっていない。まぁ、言い訳は言わない方が利口だろうか。そろそろ、窓を閉めないと、俺が死んでしまう。そうだ。マスクをつければ、効果的か。いや、そもそも部屋を綺麗な空気に、清潔にしなければ、明日約束している親友を家に入れられない。困った。どういう手段を使うか。一度、毛布から出て、鼻を無防備にしてみよう。さぁ、どうだ.....。
「く...臭い。」
いや、そもそも芳香剤が間違っている。これは、消臭剤を使うべきだった。最初からそうすればいいものの。俺は、いつからこんな頭が悪くなったのだろう。人間の恥じゃないか。はぁ。ため息しかつけない人生は、御免だ。むしろ、マイナス思考に陥る。おいおい、話がずれている。もうお昼近くになるというのに、こんな状況のまま午前を終わらせるのか。話がずれるが、いやもうずれているが、この部屋が狭くて逆に良かった。広ければ広いほど、後始末が大変そうだ。掃除も、この状況も。それにしても、ご飯とお味噌汁は、どうやったら上手く作れるんだろうか。良子が言っていたのは、『旨みを引き立てるには、煮干しとかで下拵(したごしら)えすると、いいかもよ。私は、暇があればやってるけど。』とは言っていたが。無理だろ。調べても、理解力がない俺にはさっぱりだ。今の世の中は、ほとんどが男性が中心に家事をやるというが、俺には絶対無理だ。そもそも、家族を作るとか、彼女を作るとか俺には皆無の話だ。ということは、良子は彼氏でも作って、子供を産んで、家族に.....。あぁ、ダメだ。また考え事が....。
12時。俺は、コンビニでカップラーメンを買ってきた。もう、二度と作りたくない。とてもじゃないけど、俺には向いていないと思う。え、料理教室に行けだって❓冗談じゃない。包丁の持ち方とか、まるで幼稚園児が通うみたいだ。恥ずかしくて、無理だ。全部が全部無理とは限らない。けど、やはり料理に関しては、無理だ。3分待っている間に、充電器を見つけ出すというゲームについて考えよう。みんなだったら、どういうゲームにするのか。そして、どういうルールにするのか。俺だったら、一つ一つの試練を達成させる。同じ意見を持った人は、仲間だ。どうせなら、ラインを交換したいくらい仲間だと思う。まぁ、違う意見を持ってでも、このくだらない話に参加してくれたやつも、仲間だと思う。さて、現実逃避はこれまでにしておいて、本当に充電器はどこにいったんだ。保管場所にもない。いや、まさか進が間違えて持っているはずはない。それに、機種も色もわかりやすい。なんだ。他に、思い当たる節が.....。
〈ピーンポーン〉
なんだ。この忙しい昼間に。誰だ....。
いや、忙しいのは、俺の脳内であって、自分じゃない。
「なんだ。」
宅急便❓頼んだ記憶は無いが、一応出てみるか。なんか、ストレートの長い髪。ということは、女性か。それに、馨に似ているような。いや、良子かも知れない。
「赤咲さんのお宅でよろしいですか。」
「あ、はい。そうですが....。」
「あなたをお待ちの方がいらっしゃいます。」
「あの、その方っていうのは。」
彼女は、被っている帽子をあげたその時。
俺の目に映ったのは、彼女の顔。
彼女の顔は、とてもいやらしい顔をしていた。
目は、恐怖を感じるような鋭い目。
口は、引き攣(つ)っている。
俺は、嫌な予感がして、玄関を閉めようとしたその時だった。
〈ビリビリ〉
「っ.......。」
電気が、体内に流れていくのがわかる。
そうか。俺は、彼女に騙されたのだ。
だとしたら、出なければ良かった。
まだやることがあるというのに。
それに、お昼ご飯を食べていないのに。
なんてついていない日なんだと、俺は倒れるまでの数秒間、目を瞑りながら考える。
さよなら、俺の家。
さよなら、俺の友。
「あの時の、復讐だ。まんまと引っかかってやがる。待ち人なんて誰もいない。待っているのは、お前の心臓だ。」
彼女は、甲高く嗤いながら、気絶した純を連れ去った。
あれから、俺は全く記憶が無いんだ。
それに、家から程遠い場所に連れ去られてしまったから。
赤咲純。
それが、俺の人生最悪な物語の始まりだった。
明日、進はどういう行動に出るんだろうか。
家にもいない、この街にもいない。所在不明。
少しだけ、彼女の憎しみを描いた言葉が聞こえたような気がした。
こんな時に、美人に騙される俺は、男としてどうなのだろう。
あぁ、でも刀を所持しておいて良かった。
それだけは、俺の救いだった。
※
随分長く夢の中にいたらしい。
刑務所みたいなコンクリートの壁。
それが目に映るということは、俺は目を覚ましたということだ。
「い....いたた.....。」
体に、痛みが走る。鏡ってあるのだろうか、そう思って立ち上がろうとした。
が....。
「っ⁉️」
両足は、手錠で固定されていて、ベッドと一緒になっている。
自由が利かない。
「クソ......こうなったら、刀で。」
ポケットを手探りで探したが、見当たらない。
「は、なんで無いんだよ。しまっておいたはずだろ....。」
俺は絶望に落ちた。
逃げられないという屈辱。
束縛をされているという現状。
刀が盗まれているという悔い。
「ようやく目を覚ましたのですね。」
「......お前は、あの時の......。」
「異能者が、こんな私に騙されるなんて。あなたみたいな単純な男、数人いましたよ。ですが、あなたみたいな人はいませんでしたよ。能力・異能なんて、誰一人いないので、全員あの世逝きです。さて、あなたはあの世逝きなのか、それとも私があの世なのか。いずれにせよ、あなたにはこの試練に勝てるのか。」
「くだらない...。俺は、暇じゃ無い。何日経ってるんだ。親友と約束していた日があったんだよ。」
「黙れ。黙らなければ、その手錠は外さない。」
「さっきまでの丁寧な口調はどこへ❓」
「.........。Come on.」
「.....は❓」
体格が大きい、ヤクザのような不良のような奴らが数体向こうから現れてきた。
これらをやっつけたら何の得があるのか。
真っ先に、彼女を殺したい。
「そうか........。その手があったか。」
「....何❓」
刀がないならば、このベッドの部分をへし折ればいいんだ。
という考えが生まれた。
俺はすぐに、怪力で、手錠を壊す。
「すみませーん、俺、素人の獲物じゃないんですよぉ.....おじさん方〜。」
「くっ.....気分が済むまでやりな。」
襲いかかっても無駄。
こいつらをどう倒すかではなく、どうやったら数秒であの世に逝かせられるか。
刀がないのなら、仕方がない。
独り言している間もなく、俺は即座に....。
「じゃあね〜、美人のお兄さん方〜。」
俺流の技法。
その名は、【荒】だ。
一気に振りかざし、みんながすっ飛ぶというのが、この特徴。
その通りに、おじさん等は、壁を貫通して、向こう側の道で車に轢かれた。
その光景を見ていた美人の彼女は、泣いた。
「....るさない.........許さない.........。」
「許さないなら、さっさとかかってこいよ。お前ら、全員序の口。やり直してこい。」
「........ね。」
「あ、なんつった❓」
「.....死んでしまえ。」
彼女の目つきとやらは変わった。
か弱い心を捨てたのか、彼女は鬼になった。
というか元から、こいつは鬼らしい。
角が生え、牙は鋭くなる。
美人っていうのは、時には恐ろしい行動をするもので。
「人間じゃなかったのかよ。まぁ、知ってはいたが。」
「うるさい。お前みたいな奴がいなければ、私のお母さんはあんなことにならなかった。」
「多分、人違いだと思うけどな。俺は絶対それには関連してない。むしろ、無差別に殺していくお前らが、存在してはいけない。」
「覚悟しな。」
「結局、俺の言葉無視かよ。まぁ、許すけどな。」
ボロボロになったこの建物は、普通の人には見えないようにできている。
人物だけが見えていたのなら、周りにはすごく迷惑かけている。
周りからは、路地裏からヤクザたちが吹っ飛んだところを目撃してしまったわけだ。あんな狭い場所で、俺は、大胆に振りかざした。全ては、俺の責任。
でも、逮捕されるのは、この彼女。
俺は、事情を説明させられるだけ。
今、周りがとても騒がしく、警察を呼んだりしている人々が、目に映る。
あぁ、やってしまった。
「ここではあれだ。また迷惑がかかる。俺の作った空間で遊ぶか❓それとも、もう諦めるか。というか、俺はお前を成仏したい。」
「........私の負けだ。」
「もう発言しちゃう系❓まだ復活できるチャンスはいくらでも.....」
「いいの。」
「・・・」
「もういいの。私は、これで人間に戻って、罪を償うわ。無差別に人を殺してきた私が生きていいはずないじゃない。本当に天罰が降ったのね。」
「はぁ......、お前みたいなやつって、気づくの遅いよな。まぁ、せいぜい償って、また出直してこい。いくらでも相手してやるよ。じゃあな。」
「待って......。」
半泣きしながら、彼女は俺を止める。
まるで、恋愛物語のような感覚。
「なんだ。」
「盗んだのは、私。返すの忘れてたわね。この刀、いつから使っているの。」
「知ってるよ。お前が持っていたことくらい。あぁ、それは秘密。返してくれたことには変わりはない。ありがとうな。」
「あ、あと。」
「まだ、何かあるのか。」
「生きているかわからないけど、いつかあなたの大事な友達に会ってみたいわ。」
「今時、死刑なんて、あんまり流行ってないし。まぁ、お前は鬼だから、死刑になっても、生きてるだろ。いつでも会いに来いよ。」
「ありがとう。さよならなんて嫌だから、またね。」
「おう。」
まさか、ハッピーエンドで終わるとは思ってもいなかったが。
ただ、この後、俺はまた最悪な出来事に巻き込まれる。
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