転生したら、オタ芸っぽい剣術の天才になった!

山本正純

第1話 何の取り柄もないオレでも無双できる世界があるんですか?

「ああ、もう終わりか。アイちゃん一筋って決めたのに、文夏の野郎。オレからアイちゃん奪いやがって、許せねぇ」

 あの卒業コンサートの帰り道、オレは道端に転がっていた石を蹴りながら、トボトボと駅を目指して歩いていた。大きな黒リュックを背負っているオレは、溜息を吐く。文アイちゃんと某有名俳優との熱愛報道がアイドル界隈を騒がせて一か月、オレの推しメンであるアイちゃんは、急にグループから卒業したのだ。これからどうやって生きていけばいいのだろうか。そんなことを考えていたら、背後から、クラクションの音が聞こえてきた。猛スピードで走り抜けていくトラックのライトに照らされたときには、もう遅い。そのままトラックに跳ねられたオレは、そのまま死んだはずだった。


「なんだ……これ?」

 白い棒状の剣を道場で手にした瞬間、オレの頭に何かが流れ込んできた。

「おいおい、初めてその剣を持った感想がそれか? 変わってるな」

 目の前にいる白髭の男が豪快に笑う。

「サイリウムか?」

 そんなオレの言葉を、目の前の男は目を丸くして聞いていた。

「サイリウムってなんだ? コイツは太田芸流の小刀だ。面白いこというなぁ。まあ、いいや。稽古の時間は限られているんだ。早速模擬試合だな。私を倒してもらおうか」

 白髭の男は、オレと同じ剣を手にする。

「そっちから仕掛けて構わん」

 そう言われ、呼吸を整え、距離を詰めた。足を肩幅の倍くらいまで広げ、手にしているサイリウムっぽい形の剣を右から左に向かい、斬るように出す。体が覚えていた動きを見て、白髭は驚いたような顔を見せる。

「その技、なんで知ってるんだ!」

驚きを隠せない老人を真横に斬ったあと、伸ばされたオレの両手は前に向かって回転しながら、左から右へと戻った。直後、白髭の男は尻餅をつき、両手を叩いた。

「最近の子供はスゴイな。さっきのは太田芸流上級者の技だった。まさか、こんな子供に一撃で倒されるなんて、そろそろ私も師範代卒業かな?」

「卒業……うっ……」

 急に頭が痛み出した。知らないはずの動きが頭に流れ込んでくる。その時、オレはやっと理解できた。異世界転生したんだと。正直、異世界に転生しても無双できるような才能があるとは思っていなかったけど、オタ芸っぽい剣術があるここなら、何の取り柄もないオレでも無双できる。


 そんなことを考えていると、門の方から「頼もう!」という声が聞こえてきた。声質からして女の子。誰かに似ているような気もするが、たぶん道場破りだろう。初めてあの剣を握ったオレには関係ない話だ。そんな余裕は、襖を開け現れた道場破りの顔を見て、消えてしまう。

「アイちゃん」

 耳を尖らせた紫色のロングヘア少女を見て、オレは思わずそう呼んでしまった。髪の色や耳以外はオレが推していたアイちゃんにそっくりなんだ。道場破りらしい女の子は、初対面のオレに名前を呼ばれて、首を傾げてみせた。この少女、アイリス・フィフティーンとの出会いが、オレの異世界転生チート生活を盛り上げる存在になるとは、この時のオレは思っていなかったんだ。

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