もしかしたらあったかもしれない未来。
おれは楼主を追い出し無事その座を頂くことに成功した。カナは
(って、死ぬまでこのままかよ……!)
十年経った今、あきは立派な大人の女性だ。見た目は。性格は幼いころから変わらず生意気だが、そんなところも嫌いじゃない。
(かんっぜんに家族としか思われてねぇ……)
いや、そう仕向けたのは自分だ。当初はそれで満足だった。ただあきが成長するにつれ、自分の気持ちが変わったのだ。家族愛から恋情へ。
当のあきは、あまり恋愛に興味がないようだった。それだけが救いだった。しかし、
「拾いました」
「元の場所へ返して来なさい!」
あきの隣に並んだ男を見て
「なんだか職を探しているようなのでうちを紹介したのですが。二乃助さん、男の人手が足りないって仰っていたじゃありませんか」
「言ったけども!」
「この人がご主人になるの?」
男というより少年といった方がしっくりくるか。そいつは十八のあきと同じか年下に見えた。
「そうですよ。貴方からも頼んでみなさい」
「うん。ねぇおじさん」
「おじさん!!」
二乃助は雷に打たれた。確かに自分の歳はおじさんと言えるだろう。だがあき曰く、年齢不詳の顔面詐欺は健在だ。あれ、結構ひでーこと言われてんなおれ。とにかく、おれをおじさん呼びした奴はこいつが初めてだった。あまりの衝撃に固まっているとあきが吹き出す様子が目に入った。
「くっ、あははは! おじさん! とうとう言われちゃいましたね!」
「とうとうってなんだ!」
「
「おい、そいつの名前、赤兎っつーのか?」
「ええ、いい名前でしょう。私が付けました」
「待て待て待て待て。んな得体の知れねー奴を拾ってくんな」
「俺ただの元忍びだよー。最近お
「色々訊きてぇことが増えたが、まず呼び捨てはやめろ」
「なんでだろ。あんたのこと見た時から気に喰わなくてさー」
「お、れ、の、せ、り、ふ、だ!」
叫んでからゼーゼーと息を整えると、これだからおじさんはと言われた。殺意が湧いた。
「おかしいですね? 赤兎は人懐っこい子の筈なのですが」
「あきさんのことは好きだよ俺!」
「ふふっ、ありがとうございます」
「
「
「な……!」
「やったー!」
「や、」
(やめろおおおおおおおお!)
叫びながら飛び起きる。正確には意識が浮上したというべきか。
(どうなさったの兄様?)
空は明るく、自分たちにとっては眠る時間帯だ。起こしてわりぃと一言置いて続ける。
(ものすげぇ嫌な夢見ちまった)
(……とても器用ね)
カナが何とも言えない顔をしていた。それはそうだろう。おれだって死んでからも夢を見るとは思わなかったのだから。しかも悪夢だ。
(あいつが余計なこと言いやがるから……!)
赤兎というガキから喧嘩を売られてからどうも落ち着かない。今もあきの傍にあいつがいると思うと
(勝手に名前も呼びやがって!)
(誰が誰の!?)
いかん。夢と現実が
(くっそ、夜しか動けねぇのどうにかならねーのか)
(また無茶を言う人ね。そう言えば兄様、
(男同士でしか語れねぇこともあんだよ)
(女々しくて困るって言っていたわよ。あ、)
(よーし、今夜はまず
(ごめんなさい壮碁さん。口が滑ってしまいましたわ)
その夜、住職のすすり泣く声がしたそうな。
きみに幸あらんことを。 貴美 @kimi-kimi
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