第60話 ともに築こう。幸せな未来を……
「今日は命日だからな。結婚式の前日だけど、どうしても報告しておきたくて」
女手一つでガイを守り育ててきたマリーの存在は、ガイの中ではとても大きなものだった。ティザーニアに行ってからは今まで以上にザルク村と疎遠になっているから、報告したいこともたくさんある。
「そうだね」
墓石の前に立つと、リルがそっと幸運の花の花冠をかける。ガイはその隣で王家の紋章が入ったペンダントを懐から取り出し、手に持った。そして、
「母さん。俺は国王になったよ」
亡くなった母親に静かに報告をしていく。ようやく悲願がかなった。みんなが繋いでくれたその望みを今度はガイが次の世代へと繋いでいかなければならない。
「それとさ、結婚することになったんだ。名前はリル・アーノルド。俺たちの命の恩人の娘だ」
20年前に感じたあの力強い手の感触がふと蘇る。まさかあの時助けてくれた男女の娘と結婚することになるとは、マリーも夢にも思っていないだろう。きっと天国でびっくりしているはずだ。
「リル・アーノルドといいます。私は本当に幸せ者です。こんな心優しいお方と結婚できて」
ガイの隣では、リルが率直に笑顔で自分の気持ちをマリーに伝えていた。1年前の無表情で、口数の少なかった姿を思うと、今のリルはまるで別人のようだった。
「リル……」
思わずうっとりと見とれてしまう。何度見ても美しい。そんなリルを明日にはボルモンド島の人々に自分の妻だと紹介できるのだ。きっとみんなに愛される王妃になるだろう。ガイは誇らしい気持ちでいっぱいだった。
「これからは、私がガイの妻として、王妃として、ティザーナ王国を支えていきます。だから、どうか見守っていてください」
まだやることがたくさんあって途方に暮れることもあるが、リルがいてくれるなら大丈夫だ。力強いその言葉を聞いて、ガイは確信した。この人と一緒ならどんなことでも乗り越えられる……と。
「ありがとう」
どちらからともなく、そっと口づけをし、誓い合う。
ともに築いていこう。幸せな未来を。
月夜の花~殺す者と殺される者の1週間~ 槻海ルナ @8ppy3rai
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