第Ⅲ章 4話

「... レン!」


「...どうした」

陸軍強化施設の訓練場で汗を流しながら、刀を振り続けているレンは、三回目の呼び掛けでその手を止めた。

皇国の軍服に身をつつみ、刀という剣をてにもつ彼は、朝夕の素振りを忘れない。誰もいない訓練場を望むらしい。手渡したタオルで滝のような汗をふいているにもかかわらず、顔を一切歪めることはないのだ。

脇にある椅子に向かい合わせに座り、内容を話す。真剣に話を聞いていたが、盗聴機という言葉で顔を上げた。


「なに、盗聴機だと?」

眉を潜め、じ、と此方を睨む。

そうだよ。この反応が欲しかったんだよ。騒ぎ立てず、微笑まず、可笑しく笑わず、冷静かつ不穏な顔。三組の部隊の中でもっとも無口で、冷静さを保つレンをも驚かしてしまう内容だ。先程までの反応はおかしいといえる。彼にきいて良かった。

「レンは、盗聴機の場所が分かるんだよね」

「あぁ、しかし」

しばしの沈黙の後、彼は口を開けた。



「今は、聴こえない」

「今?」

「まれにだがな、僅かだが機械音が聞こえたことがあった。そうか、あれは盗聴機というのか... 」

一層眉間のシワが濃くなっている。そう落ち込むことでないことはわかっているのだが、命を落としかねた身でもあるので、情けの声をかけることができない。

「最後に聞こえたのは?」

「たしか... x月x日、我々″金蓮花部隊″が戦線の命令を下された日だ。お前とロイが食堂付近で話してた所をすれ違った時だったか」

「っ... やられた。」

その日はSVY部隊と仮面部隊で会議をした日だ。

その日に聞こえたということは...。


「っく、はは」

突然、目の前の男は笑いだした。

「 何が可笑しい。レン」

「だって、こんなに追い詰められたボルネシアの顔かんか、見たことない... はは、」


「舐められたものだね。正体は掴めているさ」

まぁそうだろうな、といわんばかりの顔を見せるレンを睨む。... 覚えてろ。


「じゃあ、俺は用事があるから、また。」

咳払いをし、立ち上がる彼に目配せをし、私は深呼吸をする。




「もう、ヘマはしない... 」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

神にでも祈ってろ はなはやた @Sumire0708

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ