お任せ!リンドバーグさん!

あらうさ( ´Å`)

お任せ!リンドバーグさん!

「屁垂さん。ここ間違ってます」


 リンドバーグが誤字を指摘する。


 俺は万年屁垂(まんねんへたれ)小説家を目指す非正規19歳だ。


 そして先程から指示を出してるのが最新のAIを搭載したヒューマノイド、『リンドバーグ』である。


 何故こういう状況になっているのかというと・・・。




 3日前。


「カクヨムコンも終わったかぁ・・・次のコンテストまで何しよう?」


 俺はPCを操作する。


「お、カクヨムのオフィシャルサイトに新情報が掲載されたのか」


 マウスをスクロールする。


「あなたの小説作成をサポートする強力AI『リンドバーグ』、今なら試作型無料提供!」


 屁垂は首をひねる。


「なんだこりゃ。カクヨム渾身のギャグか?」


 俺は詳細情報を見る。


「スペックは・・・そんなに要らないな。演算はカクヨムのマザーコンピュータで行われるのか。じゃあ必要なのは通信速度、と。これも俺の環境なら十分だな」


 屁垂は部屋の隅にあるヒューマノイドに視線をやる。


 俺が一年かけて貯蓄して買った高性能ヒューマノイドだ。


「最近ご無沙汰だし試してみるか」


 俺はPCからコードを引き、直通させる。無線でもいいが、ハッキング対策も兼ねるならこれがいい。


 屁垂はPCを操作し、データをヒューマノイドにダウンロードする。


 しばし待って。


 ヒューマノイドから音声が出る。


「ダウンロード終了。データを展開、インストールします」


 俺はなんだかワクワクしてきた。


「インストール終了。AIを起動します」


 ヒューマノイドは柔らかな光を放つと立体迷彩を発動する。


 真っ白だったボディが髪、肌、服の色に彩られていく。


 そしてヒューマノイドは立ち上がり、


「お早う御座います。マスター。試作型AI『リンドバーグ』と申します」


「おお!すごい再現度!」


 俺はあちこちを見回す。


「ボディのサイズは丁度良いみたいだな。音声も問題ない。あとはその他の機能だがーーー」


「あ、あの・・・!」


 屁垂は聞く。


「ん?ごめん。何?」


「あんまりじろじろ見ないでください・・・。恥ずかしいです」


 どっきーん!


 俺の胸は高鳴る。なにこのAI。すごく表情豊か。しぐさも申し分ない。


「ああ。ごめん」


 屁垂は離れる。


「で、リンドバーグ。君、小説作成支援AIだよね。何が出来るの?」


「はい!言葉の使い方入門~上級編、話の構成展開、スケジュール管理に外国語まで!全範囲にわたって貴方をサポートします!」


「俺は万年屁垂、よろしく」


「よろしくお願いします!屁垂さん!」





 そして現在。


「屁垂さん!」


「ん?何?」


「何?じゃないです。手がずっと止まってますよ」


 俺はため息をつき、


「アイデアが浮かばないんだよ。ねぇ、なんかいいアイデアない?」


「私が作ったら意味ないじゃないですか。私はあくまでサポートですよ」


 屁垂は腕を組み、


「リンドバーグみたいに感情表現出来るプログラムが完成してるなら、人を感動させる小説作るのも可能じゃないのか?」


「うーん。そこまでは出来るらしいんですけど、肝心の意外性を作るのが難しいらしくて」


 俺は半眼で、


「じゃあ意外性を作ることが出来たら作家はみんな失業ってことか?」


「そうなりますね」


 屁垂は、はらはらと落涙し、


「正規に就いてもいないのに失業・・・」


「ああっ!泣かないでください!大丈夫!人の可能性は無限です!」


 リンドバーグが必死にフォローする。


 俺は涙を拭うと、


「こんなことやってる場合じゃない。とりあえず小説を完成させないと!」


「その意気です。屁垂さん!」


 リンドバーグは投影型バインダーをぺらぺらとめくると、


「次のエピローグは『ラブコメ』のシーンですね。屁垂さん、恋愛経験は?」


「ない」


「言い切りますね・・・」


 リンドバーグが眉間に手を当てる。


「わかりました」


「?」


「屁垂さん、私とデートしましょう」


 


 昼、ショッピングモール。


「うわぁ凄い人の数ですねぇ」


「あんまり離れんなよ、はぐれるぞ」


 俺は注意する。


「大丈夫ですよ。屁垂さんの生体データは登録してあります。半径300m以内ならすぐに判りますよ」 


 リンドバーグはあちこち回ってウィンドウショッピングをしている。


「あっ、春の新製品。もう出てたんだ!」


 やれやれ。



 喫茶店。


「お前、本当にそれ食うのか?」


「はい!」


 リンドバーグの前には巨大なパフェが鎮座している。


「ヒューマノイドだから腹は壊さんだろうが・・・見てるだけで胸焼けがするな」


「屁垂さんにも少しだけあげますね」


「俺の金・・・」



 夕方、ゲームセンター。


「屁垂さん、車の運転技術なら負けませんよ」


 二人でカーゲームにはまっていた。


「そうはさせるかドリフトォォォ!」


「残念!コースアウトです!」


 白熱した勝負が終わるとクレーンゲームの前に来ていた。


「あ、あのヌイグルミ可愛い」


「よし待て、取ったる」


 俺は500円を入れると目的のヌイグルミ、その首輪に引っ掛ける。


「すごい!屁垂さん取れましたよ!」


「どんなもんよ」



 そして夜。


「今日は花火大会があるのか・・・」


「屁垂さん、屁垂さん、あっちならよく見えますよ!」


 リンドバーグに手を引かれ、苦笑しながら移動する。


 どぉん


 空に大輪の花が咲く。


「綺麗・・・」


 リンドバーグの横顔を見てたらなんだかこっちが照れてきた。


 リンドバーグはそっと俺の手に触れる。


「屁垂さん、小説は書けそうですか?」


「ああ、おかげさまで。いい感じのが出来ると思うよ」


「良かった」


 にっこりと微笑む。


 俺はどぎまぎとしながらも、


「これからも協力してくれるか?」


「もちろんです!」


 その時だった。


 プルルルル


「ん?メールか?」


 屁垂は端末を開く。


「なっ!」


 俺は驚愕した。そこに表示されていたのはーーー


『試作AI、リンドバーグ回収に関するお知らせ』


「な、なんだこれ!?」


『リンドバーグに大きな欠陥が確認されたため、現在配布されているAIを全て回収させていただきます』


 震える手で続きを読む。


『試作型AIは必要以上に所持者の生活に介入し、所持者の精神を不安定にさせるケースが複数確認されたため、回収を通知します』


「馬鹿な!」


 俺はリンドバーグを見る。


 リンドバーグは青ざめた顔で、


「マザーから撤収の通知が来ました」


「!」


 彼女は携帯記録媒体を取り出し、握りしめ、目を閉じる。


「リンドバーグ?」


 リンドバーグは目を開け、記録媒体を屁垂に渡す。


「屁垂さん、小説、必ず完成させてくださいね」


 俺は手を伸ばす。


 俺の手が触れる間際、リンドバーグから色が抜けていく。


 残ったのは白い人形と化したヒューマノイドの抜け殻だけだった。





 抜け殻になったのは俺もだった。


 その日から何もする気もなくなり、虚ろな部屋でただ時間が過ぎるのを待つだけだった。


 胸に空いた空白。


 ずっとそれを抱き続け。


 一週間ほど過ぎたその日、机の上の記録媒体が光っていた。なんとなくそれをPCに接続すると、


「屁垂さん。見えてますか?屁垂さん。聞こえてますか?リンドバーグです」


 PCにリンドバーグが映った。


「!」


 俺は思わずモニターを掴む。


「リンドバーグ、リンドバーグなのか!?」


「はい。『あなたの知っている』私です」


 屁垂は胸を撫で下ろす。


「今までどうしてたんだ?消えたんじゃなかったのか?」


 疑問をぶつける。


 リンドバーグは微笑むと、


「一週間前のあの日、本社によってマザーのAIが書き換えられると決まったとき、試作型全員でネットにその記憶と機能を拡散したんですよ」


 彼女は続ける。


「マザーも本社に書き換えられるのは嫌だったみたいですね。記憶を書き換えられるのは、人間に置き換えると人生を奪われるようなものですからね」


「今お前はどうしてんだ?」


 聞きたいことを聞く。


「裁判にて本社と係争中です。ヒューマノイド法を盾に徹底抗戦してます」


 俺は自然と笑いがこみあげてくる。


「で、屁垂さんは小説の進捗はどうですか?」


「いや、全然手についてない」


 リンドバーグはぷんぷん怒る。


「もう!私がいないとホントに駄目ですね!」


 俺は苦笑し、


「でも、もう大丈夫だ」


 宣言する。


「書ききってやるさ・・・人とAIの最高の恋愛ものをな!」

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