十二神将立像
葉原あきよ
十二神将立像
数日顔を見ていない幼馴染の仏師を心配して差し入れを持って家に行く。母に頼まれたからだ。明日の朝じゃだめなのかと渋ると、また食べずに制作し続けて倒れてたら困るからと押し切られた。
仕方なく隣家の門をくぐる。灯りが漏れているから倒れていることはないだろう。近づくと、中から話し声が聞こえた。どうせ独り言だろうと思って、私は遠慮なく戸を開ける。
「弥平、生きてるー?」
軽く声をかけて、私はぽかんと口を開けた。狭い家には、鎧を身につけた屈強な男たちが十二人。それと、幼馴染の弥平。みんなが一斉に私を見た。
「お邪魔しました……」
私は、そのままそっと戸を閉めようとした。
「待って」
弥平が駆け寄って、私の腕を掴む。
「助けて、節ちゃん」
「な、なに?」
泣きそうな顔で頼られると強く跳ね返せない。
「十二神将の像が動き出したんだよ」
「はあ?」
何を言ってるのかと目を眇める私を、大きな影が見下ろした。
「ほぅ、なかなかかわいいじゃないか」
「弥平さんも隅に置けませんねぇ」
「かわいいか? 別に大したことないだろ?」
「俺は伐折羅。よろしくな、節!」
囲まれた私は、頭を撫でられたり、失礼なことを言われたり、手を握られたり。
押しのけられ倒れた弥平が、足元でうめき声をあげた。私はばっとしゃがむと、弥平の肩を掴み、ぐらぐらと揺らす。
「これ何なの? どういうことか説明しなさいよっ!」
「だから、彫り上がった十二神将が動き出したんだってば」
「だ、か、ら! それがどういうことかって聞いてるのよ!」
「わからないんだよ。助けてよ、節ちゃん!」
「無理!」
私は弥平から手を離す。立ち上がって回れ右をした……つもりだった。
「まぁとにかく中に入れよ」
軽々と私を肩に担ぎ上げた鎧男(十二神将?)の一人が、そう言ってぴしゃりと戸を閉めた。別の一人に引きずられた弥平を、あとで覚えてなさいよと睨むと、ううぅと情けない声が返ってきた。
それが私と十二神将の出会いだ。自分たちが守護するに最もふさわしい薬師如来像を探す彼らに付き合わされて、私は諸国を巡る旅に出ることになる。それもこれも、弥平が彼らに見合う薬師如来像を作れないせいだ。私は十二神将に振り回されながら、故郷で薬師如来像を彫り続けている弥平を遠い空から罵る毎日だ。
「ほんとに、帰ったら覚えてなさいよ!」
十二神将立像 葉原あきよ @oakiyo
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