応援してくれる君のために頑張ります(涙

空音ココロ

ある小説家の一篇

「あぁ! もうだめだ! 僕には才能がないんだ!」


 パソコン画面を目の前にしてデタラメなタイピングで画面を汚す。

 今まで書かれていた文はそのままに無作為に選ばれた漢字や平仮名、英字が加えられて無意味な文にならないただの文字へと変わった。


「どうしてダメなんだ、どうして面白くない、どうして感動できない、どうして分かってもらえないんだ!」


 頭を抱えてどれだけの時間を過ごしても目の前の惨状は変わらない。


 こんな時はそう、僕の救世主! リンドバーグさんに励ましてもらうしかない。


「助けて、リンドバークさーん!」

「はいは~い、今日はどうしたのかな? 平成尾張くん」


 説明しよう! リンドバーグさんは小説家を書くみんなを支援してくれるお手伝いAIさんなのだ。いつもキュートな笑顔で応援してくれる、敏腕で素敵さも備わった小説を書く人の強い味方。

 心の中のもやもやをAIアイの力で導いてくれるWeb小説界のヒロインと言ってもいいと思います。


 え? トリは? トリですか? トリって何? リンドバーグさんの近くにそんなのいましたっけ?

 全く見えませんけど。トリだったらどっかでマメでも食べてるんじゃないですか?

 え? ハトじゃないって? ホーホーもポッポも変わらないでしょ。


 評価されないトリは置いておいて。

 あぁ、僕の心を潤してくれるオアシス。スカートの丈は短いのにパンツは見えない。絶対領域のコントロール、さすがラノベを統べるAIさんなだけはある。

 彼女がいれば僕の小説はもっと豊かになるはずなのに!

 そう思う僕は今日もリンドバーグさんに聞いてみるのです。


「僕の小説に出てくれませんか?」


 まぁ、聞いたところでさ、不純なこと考えて出演依頼なんかしたとしても断られるのは仕方ないよね。今日もまた

「え? 私ですか? 私が出たところで尾張さんの小説面白くはならないですよ、そもそも権利関係でダメですから」

 サクッと音もなく心を刺しながら権利関係でダメという理由を言って真面目モード全開で断られてしまうに違いない。

 はぁ~なんてため息がでてもう諦めようと思う。

 と、もう諦めると見せかけて、絶対諦めないマンです、僕は。いつか願いは叶う!


「え? 出演依頼ですか? OKです。というより今回は私がお題ですよ。可愛く書いてくださいね。それと校閲厳しいですからね!」


 なーんと! 本日はなんと特別に出演を許可してくれるらしいのだ。運営様に感謝です。ありがとう、運営様。あなた様の融資(図書カード)は決して忘れません。


「しょ、小説に出たら何してくれる?」

「それは尾張さんが作者さんなんだから決めて下さいね」

「じゃ、じゃあ僕とデートでもいいの?」

「デ、デ、デデデートですか!?」

「え、ええぇと、迷惑だったらごめんなさい」

「あ、い、いえ。め、迷惑なんてことないですよ。す、素敵な小説のた、た、ためだったら。デ、デデ、デートだって大丈夫です」


 や、や、やったぁぁぁぁーーーーーー!!!

 許可でました。

 心の中でガッツポーズ。もう手を高くつきあげてぐるっと一回転できるくらいの勢いで。ジャンプした後に地に足が戻ってきても、シュッ、シュシュッ、シュッ! となぜかシャドウボクシングをしてみたりして喜びを表現してみる。


「え、えと、尾張さん。それは小説を書くのに必要なんですか?」

「あ、これですか? えと、必要です。こうすると指が良く動くようになるのです」

「手を握っているのに!? すごいですね。知りませんでした。他の作者さんにも教えてあげていいですか?」

「ダ、ダメです。企業秘密です。他の作者さんには秘密です。これはデ、デートをする小説を書くために仕方なくしているだけなのですから」

「そうだったんですね! 勉強になります。筋肉無いのにあるフリをしてイキった中二病だと思ったのですが、企業秘密の技だったなんて。AI書庫に記録しておきますね」

「し、しなくていいですーー!!」


 リンドバーグさんは油断するとサクッと刺してくるので油断してはいけない。

 そして僕が刺されているのはみんなが刺されないように身代わりになっているのだ。決して刺されたくて刺されているわけではない。かわいい孫は目に入れてもいたくない理論で、好きな人に刺されても嬉しいだけ理論が僕の中では成立している。

 なんてことはないぞ、心配しないでいい。きみは自分の心配をしたまえ。


……では、まず名前を、バ、バ、バ、バーグさん好きです

「はい」

「バ、バ、バーグさん好きです

「はい」

バーーグさーん!好きだーーー!

「はい?」


 こ、これは決して発声練習ではない。

 リンドバーグさんとデートに行く練習をしているだけだ。

 決して、名前呼びをして浮かれているわけではないです。決して愛の告白をしようとしているわけでは無いです。はい。

 すべては小説のため! 


「どうしました? 尾張さん」

「いえ、これは小説を書くために必要な呪文です」

「じゅ、呪文ですか!?」

「はい、この呪文を唱えるとタイピングスピードが加速します」

「す、凄いですね! バーグって言うんですか?」

「はい、たまたまリンドバーグさんの愛称と被っていますけどバーグさんのことではありませんので、気にしないで下さい」

「わかりました。てっきり私呼ばれてるかと思って返事しちゃいました。危うく尾張さんが恋人ごっこのつもりをされていて、ハンバーグって言おうとしただけだよ、とか適当な誤魔化し方をするのかと勘違いするところでした」


 ばーれーてーるー!

 い、いや、バレてない。呪文だから。

 バーグさんを食べたいけど、ハンバーグではないから、っとあー! これは禁則事項! こんなことが悟られたら大変! 食べたいのはハンバーグですよー。


 ちなみに大事な事だからもう一度言うけど呪文だから。

 呪文だし、何回唱えても大丈夫。

 実際にリンドバーグさんのことを書いていたらタイプスピードアップしてるから! 嘘は言ってないぞ。

 さてデートするにも何をしよう?


「バーグさんは行きたいところありますか?」

「……」

「リンドバーグさん?」

「え? なんですか?」

「リンドバーグさんは行きたいところありますか?(涙)」

「そうですねぇ……、尾張さんが書いた小説の新人賞に行きたいですね」


 ずこぉぉぉぉーーーー!

 ハ、ハードルが高い。

 い、いや、リンドバーグさんが一緒にいてくれるなら!


「わかりました!」

「本当ですか! うれしいなぁ~、新人賞~新人賞~♪ 芥川賞~♪」


 何言ってるんだーーーーー!!!!


「せ、せめて。そこは稲妻大賞にしませんか?」

「えー! せっかくなら行ったことのない賞に行きたかったなぁ……」


 稲妻大賞行ったことあるんだ……!?

 まぢかー。

 ってか、その顔ナニー! 可愛い、超かわいい。人差し指を口もとの横に立てる仕草って何? ちょっと斜めな横顔って何? 目を瞬きする瞬間って何? 

 うっ! 何も言われてないけど、心に刺さる。バーグさんが刺さるーー!


「バ、バ、……。リンドバーグさんのためなら頑張ります」

「ほんと! 嬉しいなぁ、いつもそれぐらい頑張ってくれたらいいのにね♪」


 はい、右ストレート来ましたー。

 これをかわす奴は三途の川まで避けてくればいいです。

 この可愛さを全身で受け止める愛の深さ、僕より君とうまくやれる人は他にいるはずがない。そう、僕こそがこの笑顔を向けられる人なんだ。


 その時、画面にポップアップが現れた。


「やぁ! 僕はカタリィ・ノヴェル。君の物語を聞かせてよ」

「語り述べる?」

「違うよ! オヤジギャグじゃないよ! どうせなら小説のノベルって言ってよね」


 突然現れたオレンジ色のパーマ髪の青年。白い帽子がちょっとオシャレ。

 って感心してる場合じゃなかった。まさかこの子ライバルか!?


「ここに物語がありそうな気配がしたんだけど……」

「ありますよ、芥川賞をとる作品がこちらに!」


 リンドバーグさん! 何てこと言ってくれるんですかー!


「えっ!? それはすごいや。ちょっと見せてよ」

「いや、まだ書き始めたばっかりだから」

「君の中にはもう物語はあるんでしょ」


 そういうとカタリ青年は写真を撮るようなポーズをして僕を枠におさめた。

 ん? どういうことなんだろう?


「ふむふむ、これは恋の物語ですね。可愛いAIの女の子に恋をした少年の物語。おや、魔法もある。すごいなぁ、これを読んでいたら至高の一篇に出会えないかな? えっと、呪文はバーグさん、バーグさん……、あれ? これってもしかして愛の――」

「ストーッップ!!!」


 僕は慌ててカタリ青年の視界から逃げた。


「あっ、まだ読み終わって無いのに!」

「物語はこれからですから」

「これから?」

「そう、これからリンドバーグさんに校閲もしてもらわないと」

「あら、もう校閲できるんですね。どんな話になってるか楽しみです」


 リンドバーグさんが今日一の笑顔で言うものだから僕はもう逃げ出したかった。


「まだ……です……」

「え? 尾張くん? 何?」

「ごめんなさい、まだ全然書けてません!」

「喋ってばっかりで全然書いて無かったですからね、出来上がるの楽しみに待ってますね」


 ズブリ。今回のナイフは派手に刺さりました。

 しかしこれで終わらないのがバーグさん。籠の中の鳥のごとく逃げる場所なんてありません。私はあなたのナイフを受け止め続けます(涙)


「尾張くんが早く書けるように応援してるね! 毎日5千字書いたらあっという間だよ! ね! ファイト!」

「は、はい! 頑張ります!」

「平成の終わりまでには出来上がるといいね!」

「早く僕にも見せて欲しいなぁ~」

ホーホーべ、別に出してなんて言って無いんだからね!


 こうして平成尾張くんの小説家ライフは過ぎて削られていきます。

 次の話が出来上がるのはいつになることやら。

 それでも毎日コツコツと尾張くんは終わらずに頑張ることでしょう。

 リンドバーグさん、ビシバシと作者さんの進捗管理してあげて下さいね。


 ちなみにカタリが見た尾張くんの一篇。


「ぼ、僕、平成が終わったらリンドバーグさんに告白するんだ!」


 叶うといいね。 by カタリィ・ノヴェル

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