カタリィ・ノヴェルのもう一つの能力

三文の得イズ早起き

カタリィ・ノヴェルのもう一つの能力

 カタリとバーグは埼玉県にある小さな家に二人で住んでいる。

木造平屋の一軒家だ。


 とある晴れた日曜の午前、二人はダイニングテーブルを囲んでいた。

 

 二人の眼の前には食パンが一枚。

カタリは「見てろよ」と言って食パンの中央に穴を開け、その穴に左手の人差し指を通した。

「これで空が飛べるんだ」

カタリはバーグにそう言った。

「どういう事?」バーグは不思議そうにそう尋ねる。

「こういう事さ」

カタリは左手の人差し指に刺さった食パンを右手で回し始めた。

グルングルングルン

すごい勢いで回り始める食パン。

シュルルルル・・・・回る度にそんな音がし始めた。

「・・・・・」カタリは無言で回し続ける。

「どういうこと?」バーグはもう一度尋ねる。

「こういう事さ」ともう一度言うと窓を見ろと顎で示す。

 バーグが窓の外を見ると見慣れた光景が変化していた。外の景色が動いている?

家全体が空を飛んでいるのだ。

「飛んでる・・・食パンで飛んでる!」

カタリはさらに食パンを回した。

シュルルルル・・・・

家は更に上へ、上へ、と向かっていく。バーグは開けっ放しの窓の側へ走り寄って外を見た。

「うわーー!東京タワーが見える!すごいすごいカタリすごいよ!」

「それは東京タワーじゃないよ」

見もせずにカタリは言った。

さらに食パンを回す。どんどんと上へ上がる。あれ?成層圏?これヤバイんじゃないの?という所まで上がった所でバーグは叫んだ。

「ちょっとストップ!これ以上上がったら宇宙出ちゃうよ!」

「上がりすぎた?」

カタリは右手で食パンを回すのを止めた。

「ゆっくりやらないと逆さまになって落ちるからな。気をつけないと」

カタリは食パンの回転が止まらないレベルまで回転数を落とすように、食パンを数秒おきに回した。

「すごいすごい!カタリすごいね。こんな能力あったなんて!」

バーグは叫ぶ。

「まあな。俺もできるとは思わなかったよ。なんとなくやってみたらできた。俺の能力知ってるだろ?詠目よめのこと」

「知ってるよ。人の心に封印されている物語を見通して小説にして、人に届けるってやつでしょ?」

「ああ。そう。それ」

「その能力と、この家が飛ぶのがどう関係あるの?」

「特にない」

じゃあなんでそんな話したんだよ、とバーグは思ったが口には出さなかった。

「ちょっとちょっと!高度が下がってきたのは良いんだけど、下が海なんだけど!」

バーグは叫んだ。

 カタリは「マジ!?」と驚きに溢れた声で言ったので(こいつ何も制御できてないしぶっつけ本番でやってる)と思えてバーグは怖くなった。

「風で流されたんじゃないの?どうしよう?」

「うーん、とりあえずもう一回高度を上げよう」と言ってカタリは再び食パンを回す速度を上げた。

「あ!!」

「どうしたの?」

「・・・・・・・食パンちぎれた」

「え!」

カタリの左手で回っていた食パンがちぎれて床に落ちている。回しすぎたのだ。

食パンを拾い上げてもう一度回して見ようと試みたがポロリと落ちる。

「ちょちょちょっと!どんどん落ちてるよ!」

「食パンにもう一個穴開けてみる」と言ってカタリは左手の人差し指をブスリと食パンに突き刺した。

「お、いけそう」

もう一度食パンを回し始めるカタリ。ビュンビュンビュン・・・・

「あ」

「どうしたの!?」

「またパンちぎれた」

もうダメだ。バーグががっくりと窓の外を見ると、なぜか落下の速度がマイルドだ。

「あれ・・・・?落ちない。というか陸の方に移動してる?」

「ほんとだ。なんでだろ」とカタリは言いながら窓の側へ向かった。なぜか食パンを齧っている。

「おい!そのパンは食うな!」バーグの声を無視するようにカタリは窓から身を乗り出し上方を見た。

「あ」

「え?」

バーグも窓から半身を出して上方を見る。

大きなフクロウが両足で家の屋根を掴み、ワッサワッサと飛んでいる。

「トリだ」

カタリは言った。

バーグはフクロウに向かって「ありがとう!」と叫んだ。

フクロウは何やら言った。

「なんて言ったの?」バーグはカタリに尋ねる。

「フクロウ語だよ。なんて言ったかはわからない。フクロウ語だから」カタリはバーグに言う。


フクロウは家を元の場所まで正確に運び終えるとそのまま飛び去った。


・・・かに思ったが玄関から普通に入ってきた。右手の羽でドアを開け、そして閉めた。

「ニャーーーオ!」

フクロウはそう言った。猫のような鳴き声だ。

「トリさん、今回はどうもありがとう。危なかったよ」とカタリはフクロウに礼を言い、握手を求めた。フクロウは右の羽を差し出した。

「ニャーーオ。ホホホホホ」フクロウは答えた。

バーグの方を見て一度「ニャーオ」と言った後でもう一度カタリに「ニャーオ。ホホッホー」と言うと、右の羽を一度上げ(じゃあまたね、と言ってるように見えた)、開けっ放しの窓から飛び立っていった。

「フクロウさんなんて言ったの?」バーグはカタリに尋ねた。

「わからないけど」カタリは食パンを齧りながら答えた。

「わからないけど、お前たちには使命がある、みたいな事じゃないのかな?」

「ふーん」と答えてバーグは食パンを少し分けてもらった。

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カタリィ・ノヴェルのもう一つの能力 三文の得イズ早起き @miezarute

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