カタリとバーグさんの不法侵入&鬼添削講座~トリ先輩も燃えたよ編~

八島清聡

第1話 適当に歩いてたら迷い込んだけど、守りたい……この命(創作)




 4月になろうという春うららスプリング日和。

 外は桜がいっぱい。

 でも俺は花見なんかに浮かれなかった。どうせ花粉症だし。桜見たら死ぬし。

 今日も家で小説を書いていた。


 今書いているのは大好きな魔法少女もの。

「魔法少女キューティ☆ベジタブル」をカクヨムに連載している。

 俺の最高傑作だ。


 今さっき、今日アップする329話が完成した。




 ***


 風がブワァした。俺は荒ぶる荒野にスタンディングオベーションしていた。

 一陣のウインドブレーカーが頬にジョインする。勇気を決める。

 魔法少女の王の中の王、「ハリケーンの旋風」ことアリエルのシャウトが虚空に飛び散る。


「待たせたねみんな。私がきたればもう大丈夫」

「その声はもしやハリセン?」


 コーヒー豆の精霊マキマキシム・ド・パリと南国の天使ブリリアント・モロヘイヤ・ナッツの顔に喜びが裂ける。(著者注:ここでいうナッツは第二平衡世界の金色のアーモンド女公爵のことではない。読者に混乱を招いてすまない)


「ありがとうモリエール。マスター、帰還を感謝」

「そんなことないよ。うれしくてハピネス」

「待ってた。ゆめゆめ待ってた。エタノール・ディスティニー。選ばれし勇者、あなたへの忠誠は永遠です」


 ブシャアア!

 激しい黄色い砂がぶつかってくる。違う、これはポイズンの妖艶なる花の息吹だった。

「貴様らああ、俺様を倒せると思ってんのか」

 5人に立ちふさがるのは四天王の最後の一人、スギカ・フーン・コスギだった。

 いにしえのフン族の末裔である。アリエールたちにとって遠縁のラスボスにあたる。

「おんどれらにワシはけして倒せぬ……けして。ウッ、グハアッ」

 コスギはついに血を吐いた。結核と白血病の末期で、バイオテロの花粉症が打ち追いを責めた。


 そこでカモミールは不敵に笑ったのです(邪笑) 

 イメージ⇒( ´,_ゝ`)クックック・・・( ´∀`)フハハハハ・・・


「悪の盟友コスギ、あんたの負けよ。私の必殺技の前は、あんたはスーパーの12ロール258円の格安ティッシュペーパー。いさぎよく負けは認めなさい」

「シャラップ! そんなわけにもいかぬ。私には生き別れの妹がいる。収容所で拷問を受けるブラザーを助けるまでは死ねない。ここは見逃してくれ」

「嘘、マジで」

「カモメール、やめて。これじゃ私たちがデビルオブサタンだよ」

「これ以上罪を犯すと『叛逆転の360度の回転法則』で怪物になっちゃう」

 みなは肝臓のあまり泣き崩れた。マリエルは今にもガチキレ。悪の陶酔が炸裂した。

 いうなればクライシスボンバー。


 決裂滅裂な魔法少女たち。

 キャプテンであるエレノアールに決断の時が迫り狂っていたのです。


 以下次号を待て!


 ***



 くぅ~~~っ! めっちゃシビレる展開!

 いよいよ次回が最終回。気合も入るが、同時にさみしくもあるなぁ。


 カクヨムに最新話をアップする。PVを見ると、前回の328話はゼロだった。

 あれ、誰にも読まれてない……。なんでだろ。

 第一話はけっこう読んでもらえたのに。めちゃくちゃ面白いのになあ。


 ちょっと落ち込んでしまったその時だった。

 窓がガラッと開いて……


「はーい、どうも。俺はカタリ・ノヴェル。適当に歩いてたら迷いこんじゃった」

「カクヨムユーザーのお助けAIのリンドバーグです。気軽にバーグさんて呼んでくださいね」


 突然、家に不審者が入ってきた。どう考えても不法侵入だけど、子供のように見える。

 不思議な赤毛の少年と金髪の女の子。


「えっ、どちら様?」

「やだなあ。俺たちを忘れるなんて。カクヨムでお馴染じゃないか」

 少年の方、カタリが言う。バーグさんはにこにこしている。

「いやいや、顔も名前も今初めて知ったわ」

 バーグさんが溜息をつく。

「あ~やっぱり。どうやら私たちは知名度、認知度がイマイチの模様。これは改善の余地ありかと。ねぇ先輩?」

 バーグさんが横を向いて話しかける。

 よく見ると、バーグさんの肩には……鳥? ……え、鳥?

 人面フクロウみたいな、謎の丸っこい生き物が乗っていた。生き物はウンウン頷いている。


「えっと、その肩に乗ってるのは何?」

「トリです」

「それは見ればわかる。そうじゃなくて種別とか名前とか」

「トリさんです」

 バーグさんは笑顔ではきはき答える。

「フクロウ……にも見えるけど飛べるの?」

「トリは、トリさんです」

「トリて。もっとさあ、なんかあるでしょ」

「トリ先輩はトリ以上でもトリ以下でもないトリ。つまりトリなんです!」

「……あ、ハイ」

 俺はなんとなく察した。どうやら触れちゃいけないヤツらしい。


「で、カクヨムのサポセンだっけ。何しに来たの」

「あなたの創作のお手伝いです。あなたの作品を読み、感想とか今後の執筆につながるアドバイスができればと」

「さっき『適当に歩いてたら迷いこんだ』って」

「え、そうだっけ?」

 カタリはキョトンとしている。おい、言ったのはお前だぞ。


「感想なら欲しいけど。さっきアップした連載の最新話とか」

「承知しました。早速解析しますね」

 バーグさんは、持っていたタブレットを素早く操作した。

 カタリも覗きこむ。

「これが最新話か。ねぇ、お兄さん。ごはん奢ってくれたら俺も読んであげてもいいよ」

「カタリじゃなくてタカリじゃねーか」

 突っ込むと、カタリはエヘヘと笑った。いや、笑うな。読め。


「それでは、リードタイム・スタート!」

 バーグさんの合図で、二人は俺の小説を読み始めた。

 ドキドキ……ドキドキ。めっちゃ緊張する。


 しばらくしてバーグさんは読み終えた。なんかげんなりした顔をしている。

「ひどいですねこれ」

「え、どこが?」

「話全体の意味が全くわかりません。まず主人公の名前が不明ですし。アリエルなのかアリエールなのかモリエールなのか。最後まで謎」

「うっ……」

「『勇気を決める』とは『覚悟を決める』の間違い? エタノール・ディスティニーはエターナル? 誰が話しているのかわかりませんし、登場人物の書き分けがまるでできていません。『選ばれし勇者、あなたへの忠誠は永遠です』はグーグル翻訳? コスギの一人称や口調がころころ変わるし四天王なのにラスボス? 設定が矛盾しています」

「ううっ……」

「『花粉症が打ち追いを責めた』は追い打ちをかけた、ですか? 適当に書かないで辞書くらい引きましょうよ。『ですます調』や『~だ、である調』が混ざっています。文体も統一しましょう。『肝臓のあまり』これは感動ですかね。誤字脱字変換ミスも直しましょう」

「うううっ……」

 痛いところを突かれまくった。そう言われるとまずい気がしてくる。

 汗だらだら。どうしよう、頭痛が痛くなってきた。


 横からカタリも言う。

「『読めば、わかるさ!』と思ったけど、全然わかんないやコレ。活字は不慣れだけど【著者注】とか【イメージ】もいらないんじゃないかな。設定や雰囲気を伝えたい気持ちはわかるけど。あと『叛逆転の360度の回転法則』ってどういうこと? 360度回ったら元通りで逆転じゃないよね」

「うはァ!」

 俺は死んだ。いや、瀕死のダメージを負った。


「で、でも俺の小説なんだから、自由に書いてもいいだろ。第一話はけっこうPVもついたし」

 必死だった。今まで一生懸命書いた328話を否定されるのは嫌だった。

 だが、そこでトリ先輩が突然真っ赤になった。ていうか燃えた。トリ大炎上。


「このボケナスが。それは読者が人気の『魔法少女タグ』に釣られただけ。そして貴様の超ド級天然危険物のクソ駄文に『あ、ヤベ。そっ閉じしよ』とブラバしただけのこと。読者の期待を裏切っておいて自由に書きたい? 思いあがるな小僧。『てをはに』すら満足に使えないなら小学校からやり直してこい」

「しゃ、しゃべったア! トリ先輩しゃべったァ!」

 俺はビックリして腰を抜かしそうになった。しかも、渋い中年を思わせるイケボイスだった。何者なんだトリ先輩。もしや人気声優なのか。


 肩でトリ先輩が燃えているのに、バーグさんは熱がる風もない。

「あ、すみません。トリ先輩は救いがたい駄文やダメ小説を読むと怒りのあまり燃えてしまうんです。私はAIですからなんともありませんが、人間だったら丸焼けです」

「こわっ、トリ先輩こわっ!」

「そりゃカクヨムのマスコットにして生き字引、ラノベの鬼、文芸の修羅……いわゆるラスボスですから。怖いし厳しいですよ」

 ラスボスだったのかトリ先輩……。トリなのに侮れない。


 トリ先輩は俺を睨みながら、尚も激おこした。

「読まれない小説は書いていないのと同じこと。貴様の小説はまだ生まれてさえいない。マイルールを貫きたいのなら、まずは文章の基本やルールをきっちり習得せよ。それから初めて自己流を摸索するのだ馬鹿者!」

「そんな。生まれてさえいないなんて」

 トリ先輩に怒られて、俺は落ちこんだ。シオシオの菜っ葉になってしまった。


 だが、そこで救いの足が来た。

 ……あれ、救いの手だった? とにかく救いの手足はカタリだった。

「でも、俺は話はけっこうイケてると思うな。魔法少女たちが力を合わせて世界を救う。王道じゃん。アニメになったら観てみたいよ」

「そうですよ。まずは文章の体裁を整えて読みやすく。それから読者に伝わるようにもっとわかりやすく書くんです。キャラクターを整理して、ストーリーをもっと単純明快にすれば絶対面白くなります。読者やファンもつきます」

 バーグさんもフォローしてくれる。

「そうだ、頑張れ若人よ。328話も続けられたのだ。文章に多少の難があっても貴様の努力と創作愛は本物。あとは精進して読者の心を掴むのみ」

 ……トリ先輩まで!


 そして、言うだけ言って押しかけサポセンたちは去っていった。

 ……またもや窓から。ここ2階なんだけどな。


 でも彼らのアドバイスは無駄ではなかったような。

 文章を直して読みやすく、話はわかりやすくか。


 俺は今までの連載も直し、改めて「魔法少女キューティ☆ベジタブル」の完結に向けて頑張ることにした。

 ちなみにトリ先輩が燃えたせいで、窓のカーテンは焦げていた。

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