その後・・・それから・・・

揣 仁希(低浮上)

いままでとこれからと



「よいしょっと」

僕はいつもと同じ長椅子に腰を下ろして一息入れる。


この高台にある家からはかつて僕らの街が一望できる。

いまやこの街は国内でも類を見ない発展を遂げ国内のみならず世界中からも注目されている。


森だった場所は開拓されて街になりそれがどんどん大きくなって。

以前なら鉄道の駅まで馬車で行っていたのが今では街の中に鉄道が走っている。


四苦八苦して建てたちいさな学校は役目を果たし終え記念館として観光スポットになっている。


あの頃を知っている僕らからすると本当に信じられないくらいの変わり様だ。

水道や電気、電話線すらもなかったのに。


「ホント不思議なものだなぁ、人生って」


僕は長椅子にもたれて窓の外を眺める。

どこまでも青く澄んだ空はあの頃と何一つ変わることなく目の前にある。


ふいに廊下をバタバタと走る音が近づいてくる。

勢いよくドアが開かれて入ってきたのは小さな女の子。


「おじいちゃ〜ん!ただいま〜」

「ああ、おかえり。どうだったかな?初めての日本は?」

「うん!すっごくおっきなおうちがいっぱいあってね……」


日本で見たこと聞いたことを僕に教えてくれる。


「それでね、おかあさんにごほんをたくさんかってもらったの!」

「そうかそうか、よかったなぁ」

僕は頭を撫でてあげながら土産話を聞かせてもらう。


「うん!あのね、わたしおおきくなったらごほんをかくの!」

「うんうん」

「えっとねあのね、にほんはいんたーねっと?でおはなしがかけるの!いろいろねおはなしをよんだの!」

どうやら彼女はネットに興味を持った様子だ。

この街にもネット環境は整ってはいるが先進国ほどではない。

僕が日本にいた頃くらいの水準だから今の日本がどうなっているのかは分からないが、随分と差があるのだろう。


「それでねあのね!えっと……」

「ははは、少しは落ち着いて話しなさい。おじいちゃんが聞いてあげるから」

「うん!えっと、でね、かくよむ?ってところでおはなしをよんだの!」

「ほう、カクヨムかぁ」

「おじいちゃん!しってるの?」

「ああ、おじいちゃんが日本にいた頃からあったおはなしを皆んなに見てもらう場所だな」

「そうなんだ!えっと…"しにせ"っていうんだよ!」

「おお、難しい言葉を知ってるなぁ。ママに教えてもらったのかい?」


この街ではたぶん僕の影響があって日本に対する憧れてみたいなものが根強い。

学校の授業でも英語と並んで日本語があるくらいだ。


「それでね、ちさもね!おはなしをかいたの!」

「おお、それはいいね。どんなお話を書いたのかな?」

「うんとね、よくわからなかったからえーあいのかたりちゃんとばーぐちゃんにおしえてもらっておじいちゃんとおばあちゃんのおはなしをかいたの!」


「ははは、それはありがとうよ」

可愛い孫娘の頭を撫でて僕は相好を崩す。


「ほらほら、チサ。おじいちゃんが疲れちゃうでしょ」

ドアからそう言って顔を覗かせたのは僕の娘のチハルだ。


「お父さん。ただいま帰りました。起きていて大丈夫なの?」

「ああ、今日はなんだか調子が良くてね。空を見ていたんだ」

「あまり無理しないでね、お医者様からも言われてるんだから」

「ははは、わかったわかった。じゃあチサまた後でね」

「うん!おじいちゃん!ばいばい!」


2人はそう言って荷物の片付けのために階下に降りていった。


日本か…結局あれから一回も帰らなかったなぁ。

僕はテーブルに置かれた写真立てを手にとって遠い祖国を想う。


チカも一度も帰してあげれなかったし。

写真立ての中で、若い頃の僕とチカが幸せそうに微笑んでいる。


写真立てをテーブルに戻して僕は長椅子にもたれて目を閉じる。


………



「おい!ハルキ何やってんだよ!ほら、こっちだって!」

「ハルキくん、お疲れさま」

「ああ、2人ともこんなにいたのか」


広い草原でチカとトモヒロが僕を待っていてくれた。


「全くお前は昔から俺がいないとダメなんだからなぁ」

「ハルキくんはトモヒロくんが居なくてもちゃんと頑張ってましたよ〜だ」

「ははは、そっかそっか。そうだったな」

「トモヒロのおかげなところも沢山あるけどね」


僕ら3人は草原の中で昔のように笑いあう。


「おっし、じゃあ俺は先に行ってるからな。お前らは2人でな」

そう言い残してトモヒロは草原に消えていった。


「ねぇチカちゃん」

「なあに?ハルキくん」

「チカちゃんは幸せだったかな?」

「もちろんよ、ずっとずっと大好きな人と一緒にいれたんだもの。幸せに決まってるでしょ」

「そっか、うん。よかった」

「ハルキくんは?」

「もちろん僕もだよ。ただ…」

「ただ…?」

僕はチカちゃんを見て笑いかける。


「先に逝かれちゃったのは堪えたけどね」

「それは…しょうがないでしょ!」

「まぁそれもこれもまたこうして逢えたからよしとするよ」


僕らは手を繋いで草原を歩く。


「ねぇハルキくん」

「なに?」


チカちゃんは僕から少し離れてこっちを振り向く。


「久しぶりに逢ったんだよ?何か言う事ない?」

「ああ、そうだったね」


僕は悪戯っ子みたいに笑う彼女に返事をする。





「ただいま。チカちゃん」


「おかえり。ハルキくん」






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その後・・・それから・・・ 揣 仁希(低浮上) @hakariniki

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