鳥の舞

kumapom

鳥の舞

 もうすぐ新しい年がやってくる。


「そういう訳で、是非お二人にぜひお願いしたいと」

 やって来たのは村の神殿の司祭だった。新年のお祭りの奉納の舞を私たちにやってくれと言う。


「そうですね、是非やらせていただきたいと思います」

 母はそう言った。

「リリ、ルル、いい?」

 母が聞く。姉のルルは頷いている。私も同じように頷いた。


 この山間の村では毎年、祭の舞台で踊りを踊る風習がある。何でも昔話の鳥の話を題材にしているらしい。みんな毎年楽しみにしている。

 踊り手は村の女の子の中から二人選ばれる。今年、ついに私たちに番が回ってきた。


「お姉ちゃん、頑張ろうね」

「……そうだね」

 この間、お姉ちゃんのコップを壊してしまってから、あまり口をきいてくれない。なんとなくそっけない。もっと話したいのだけれど。


 お母さんはその日、ご馳走を作ってくれた。


 そして、村祭まであと少しの日にちになり、稽古が始まった。


 稽古の先生の家に行き、踊りを教わる。昔、先生も踊っていたのだそうだ。

「手を上げてー、回って、はい、そこで座る!」

 手取り足取り教えてくれる。私もお姉ちゃんも見よう見まねで同じように踊る。

「いいよいいよー」

 先生は軽く褒めてくれる。


 この踊りは二人で息を合わせる部分がいっぱいある。

 手を合わせたり、すれ違ったり、ジャンプしたり、片足で立ったり。それが難しい。


「もっと息を合わせないと。分かる?」

 先生が言う。二人とも頷く。


 でも、なかなか息が合わない。難しい。そして時々間違ってしまう。

 その度にお姉ちゃんが睨んでくる。

「リリ!……もう!」

「ごめんなさい!」

 先生が間に入ってくる。

「二人とも、仲良くしないと。出来ないよ?」

「ごめんなさい!」

 二人で謝る。


 そして何日も稽古が続き、ついに村祭りの日がやって来た。日がどんどん暮れていく。


 舞台裏で衣装を着る。お化粧をしてもらい、羽飾りのついた帽子を被り、ゆったりとした白い衣装を羽織る。動いてみると衣装がふわりと動く。鳥のようだ。


 そのうち外がざわざわしてきた。


 舞台裏から外を見ると、沢山の人が周りを取り囲んでいた。知っている人も何人かいた。村の外からも来ているらしく、もう満席になっていた。


 舞台裏で待つ。太鼓の音と共に出ることになっている。音を待つ。


 ドーンと太鼓が鳴った。二人でささっと舞台に上がる。

 木の床がツルツルで滑る。ちょっと体制が崩れそうになったけど、お姉ちゃんが手を引いて立て直してくれた。


 太鼓と鈴の音に合わせて踊り始める。鈴の音も加わる。


 二人で右に左に動く。ゆっくり。そして早く。

 鳥のように。風のように。


 衣装を着てお化粧をしているお姉ちゃんは綺麗だ。いつのもお姉ちゃんとはまるで違う。


 手を取り合って左右に大きくすれ違う部分がやってきた。ここは手と足の力の入れ方が難しい。


 左右から近づく。手を取り握り合う。

 そのまま、互い違いに引っ張り合う。


 と、お姉ちゃんの片足が滑った。

 私は慌ててお姉ちゃんの両手を掴み、一回転して誤魔化した。

 そして何とか持ち直す。

 舞台裏の先生がハラハラしている。

 

 タタタタっと太鼓の音が段々早くなってくる。

 足でステップをし、床をドンドンと踏み鳴らす。

 太鼓の音と床を踏む音が混ざっていく。


 その後は二人とも好調だった。凄く綺麗に踊れた。


 鈴の音がシャンシャンと響き渡った。回る踊りの合図だ。

 二人で手を取り合い、回り始める。

 太鼓のリズムが盛り上がってくる。鈴の音も早くなってくる。

 それに合わせて二人でグルグルと回り続ける。


 回り続けていると、風景がどんどん流れていった。世界が溶けるようだった。

 目の前のお姉ちゃんだけがくっきりと風景から浮かび上がっている。


 音がスッと途切れた。最後だ。

 二人で床にスッと座り、手を大きく広げた。衣装がバーッと広がる。

 鈴の音がシャーンと大きく鳴り響いた。


 拍手が起こった。

 そして花火が上がり、お祭りが始まった。

 皆、口々におめでとうと言っている。


 踊りが終わって舞台裏に引っ込むと先生が迎えてくれた。

「おめでとう、良く出来てたね」

「はい!ありがとうございます!」

「はい!」

 二人で答える。


「お姉ちゃん、おめでとう!」

 そう言ってみた。

「……リリ、おめでとう!」

 そう言ってお姉ちゃんは笑ってくれた。


 衣装を脱いで外に出ると、お祭りの明かりがたくさん広がっていた。

 笑い声、お店の呼び込み、美味しいお菓子。

 その夜は遅くまで、二人であちこち回り続けた。

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