短編28話 数ある新年遊び始め
帝王Tsuyamasama
短編28話
あけましておめでとうございます! 今年もよろしくお願いします!
ということで、俺・父さん・母さん・姉ちゃんの四人は近所の神社に初詣へ行くことにした。毎年の恒例行事だ。
寒いけど結構人歩いてるなぁ。みんな神社行ったり帰ってきてたりする人たちなんだろうなー。あ、着物着てる人もいるぞ。
神社にやってくると人がたくさんいた。普段は静かなとこなんだけど、こういうときのにぎわいはかなりのものだ。
神社に着くなり俺は単独行動を開始。いつも頼まれてるおつかいがあるのだ。
「よぉ
「ん? おぉ
「これ地味に寒いんだよなー。カイロ貼りまくり! あー忘れてた、あけましておめっと!」
「あけましておめでとうございます」
こいつは
毎年ここへ初詣来るのが恒例行事なら、毎年この姿の広落を見るのも恒例行事って言えるかもしれない。
今年も白いの着てるけど、
そんな広落は、この俺
「今年も来てるぜ、
広落が向いた方向を俺も見ると、それは御守りとかを売ってる場所だった。
「うし、声かけてくるぜ」
「じゃな!」
俺は人をよけながら早速そこへ向かった。
俺が建物に近づいてくると、遠目から見ても
ちなみに格好はー……こほん。
「寺林くん」
「やあ! 勢能っ」
……巫女さんだ。
そう。勢能の巫女さん姿を見るのも毎年の恒例行事なのだ。
「あけましておめでとう、寺林くん」
「あけましておめでとうございます」
広落とは違う白と赤の着物を着てる勢能が頭を下げてくれた。俺もあけましておめでとうございます。
勢能は別に広落と親戚とかではなく、父さん同士が仲いいからついでに手伝いに来てるとかそんなんらしい。
毎年とはいえ、同級生の巫女さん姿は珍しいことだ。勢能以外に知らないぞ。
「今年も頑張ってるんだな」
「お昼になるからもうすぐおしまいだよ」
「そうだよな」
出てくるとき十一時だったもんな。
勢能は同級生の中でもなかなかのおとなしい系女子なのに、こうして頑張り屋さんなのは俺も見習わないといけないかもしれないな。うんうん。
「じゃあ今年もこれください」
「はい」
ちっちゃい陶器の干支の置物で、これ毎年入手してる。いつしか俺がこれおつかいしてリビングに並べていく役目になってしまっていた。
「ありがとう」
勢能が白い袋に入れて手渡してくれた。のでお支払いをした。
この時、勢能と手が触れ合うのも……恒例行事かな。
でも実は恒例行事はまだあって。
「今日も……遊ぶか?」
勢能はちょこっと笑った。
「うん」
これもいつしか恒例に。最初は小学生だったから軽いノリだったんだが、そこから毎年勢能と遊ぶようになった。
本当は年に一回じゃなくもっと遊びたいんだけど、なんか誘えなくて。じょ、女子誘うのとか、普段してないしっ。勢能からも普段誘ってくることはないから、年一回くらいがいいのかもしんないし。
「じゃ、公園でっ」
「うん」
この神社の近くに公園があって、毎年そこが待ち合わせ場所になってる。
俺は甘酒コーナーに行き家族と合流して、やっぱりこれも大事な大事な恒例行事であるおもちをもらった。一人ふたつもらえるのでもらわない手はない! その場で食べる人は小さな発泡スチロール容器の上に乗せて醤油とかかけて食べていいし、持って帰る人はビニール袋をもらえる。醤油は魚の形をした小さな醤油差しが木箱にわんさか入ってる。
ここで俺は発泡スチロールに乗せてもらうんだが、醤油は持つだけ、かつすぐ食べずに持っていく。後で公園で食べるから。
俺はしばらく家族と一緒にいたが、遠目で勢能を見てて御守り売ってるところから離れるのを確認すると、家族に友達と遊んでくることを告げて公園へ向かった。
ベンチ冷たっ。まぁ仕方ない。
さすが神社の近くの公園。今日はめちゃくちゃ人がいる。おもち食べてる人もそこそこいるなぁ。
俺が公園の入口をずっと眺めていると、薄い黄色のコートを着た勢能を発見。こっちに歩いてきてる。コートの中が巫女さんだったらどうしようかと思うが、そんなケースはまだ一度もないや。
勢能はそのままゆっくりと俺の右隣に座って、こっちを見てきた。
「おっし一緒に食べようぜ」
俺はもちを勢能の前に出した。
「ありがとう」
勢能がもらってる分は家に持って帰る分らしいから、こうして俺のもちを分けるのもいつものこと。
俺がもちふたつにちょこっと醤油をかけると、俺たちはもちを手にしてもっきゅもっきゅし始めた。
「うめへなっ」
勢能もうなずいている。
公園のゴミ箱に発泡スチロールぽいぽいして、二人で手を洗冷ってぇぇぇ!! お湯出る公園とかないんかな。
勢能がハンカチで手を拭くと、また元のベンチに戻ってきたんだがー……
「じゃじゃん! ほら勢能」
「いいの? ありがとう」
俺はカイロを忍ばせていたのだ! さらに未使用のも忍ばせてるんだぜ。
勢能は俺が渡したカイロを両手で包んで手を温めている。ばっちりほっこりした表情。
「……わけっこ……」
「ん? うわっ」
突然勢能が俺の右手を取って、指を間に入れるつなぎ方してきた!
「せせせのぉ?!」
その手の間にカイロを差し込んで、そして勢能のコートの左ポケットに入れられた! コートのポケットは大きめなので、俺たち二人の手がすっぽり入った。
勢能さらにほっこり表情。
(こ、これは……恒例行事じゃないよな!?)
さっきのもち食べて手冷てっ! までは恒例行事だったはずだ! なのになんで今年はこんなことなってんだ!?
勢能の細い指先。ちっちゃい手。ちょっと触れてるだけなのになんか緊張する。
俺は緊張してしまってこれといった話題を思いつけなかったが、それだけ黙ったままのんびりベンチで勢能と並んで座っていた。目の前はめっちゃ遊んでるやつらいっぱいいるけど、こっち見てるやつはいない……かなぁ……?
どれくらいのんびりしてただろうか。てか勢能も勢能でなんもしゃべんないな。まぁでも勢能はおとなしい系だからいつもの勢能と言えばそうなんだけども。
(さすがになんか話題話題……)
「な、なぁ勢能」
勢能はこっちを向いてくれた。
「年賀状、さんきゅ! 今年も力作だったな!」
「うん。寺林くんのもおもしろかったよ」
「よかったぜ!」
勢能は絵が上手で、アニメやマンガみたいな女の子を描いて毎年年賀状を送ってきてくれる。俺年賀状自体そう多くないからか、勢能からもらう年賀状だけクオリティが一段抜けてる。
ああ俺が書いたやつ? 今年は間違い探しにしといた。うん。
それからは少しずつしゃべることが出てきた。学校での出来事がほとんどだったが……そりゃあ昔は姉ちゃんと手つないだことあったろうけど、今俺は心の中でそわそわしまくってる。勢能は表情を見る限りでは普通にしてるなぁ。へっちゃらなんだろうか。
「せ、勢能としゃべってると楽しいよなー!」
とここでひとつ挟んでみる。
「私も……寺林くんとおしゃべりするの、楽しい」
「そっかそっか!」
なんか今さっきすっげーどきっとしたんだけど!?
「勢能はさ、男子としゃべってるとどきっとしたりしねぇ!?」
と口から言葉が出た瞬間に俺何言ってんだと思ったけどもう遅かった。ので、勢能を見ることにする。
勢能の溜めが続いているっ。
……勢能がゆっくりうなずいたー!
「あーいやなんつーかさ! お、俺と仲良くしてくれてさんきゅーな!」
ついポケットの中の手に力が入ってしまった。
「……こちらこそ、ありがとう」
ゆっくり二回、握る力を込められたのがわかった。
その反応に俺はまたどきっとしてしまったが、たぶん顔は……大丈夫っ。表情出てないはずっ。
「来年も仲良くしてくれよな!」
俺はさらにラッシュラッシュ! あれ、なんでそんなに勢能笑ってんだ?
「今年、始まったばかりだよ?」
「うぐ! い、いやそれはそれで別だ! 来年もこうしてここで会ってくれよな!? て意味だぞほんとほんと!!」
なんかめちゃ勢能に笑われちゃってるぅー! その震えっぷりが手にも伝わってくる。
「もちろん今年も仲良くしてくれよな!」
勢能は笑いながらうなずいてくれている。
笑いが収まってきた勢能がまたこっちを向いてきて、
「……仲良くしたいから……会うの、今日だけじゃなくても……いいよ?」
「ん? ああ……ん?」
勢能は明るめの表情をしていた。けどちょっと視線を落とした。
「あけましておめでとうの日じゃないときも……寺林くんと、遊びたい……よっ」
また手に力が込められたのがわかった。
「……え!? つまりそれ、明日もあさっても勢能と遊んでいいってことか!?」
「あ、明日も? えと、あの……」
勢能は驚いているようだったが、うなずいてくれた。
「じゃ明日朝九時! 勢能ん家で遊ぼうぜ! 俺ずっと勢能と遊びたくて遊びたくてしょうがなかったんだ!」
つい勢いで勢能にずいっと寄ってしまったが、勢能はうんうんうなずいている。
「おっしゃーーー! やっとか! やっとかよー。いやー勢能は年一くらいがいいのかなとか思ってずっと誘えなくってさー」
一月一日ってお店とか休みまくりだから、勢能の家で遊ぶことしかしたことなかった。
「私もずっと、寺林くんと遊びたかったけど……その……」
ああ勢能が顔下に向けちゃってる。カイロ潰すなよ?
「……ありがとう、寺林くん。もっと寺林くんと仲良くなりたい。これからはいっぱい誘ってね」
「うぉっし!!」
俺たちの手はめっちゃ温かくなっていた。
「じゃ明日はそれとしてー、今日これから何する?」
「暖かいところでおしゃべりしたいな」
「……じゃ、今から勢能の家?」
勢能はちょっと間を置いてから、笑ってうなずいてくれた。
短編28話 数ある新年遊び始め 帝王Tsuyamasama @TeiohAoyamacho
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