STEP+α 人でなしの化け物だったモノ
α
一人の僕に戻った後、しばらく放心状態とでも言うのだろうか、その場にへたり込んでしまっていた。
『聞こえてるかアート、いま通話は出来るか?』
「姐御……はい、問題ありません。コード003は完了、同時に方舟に潜伏していた黄金の環の諜報員を確保しました」
『……そうか。三角が追っていたトリガーだが、深手を負わせることには成功した。しかし、撤退用の空間移動礼装の使用を許してしまった。どうやら、トリガー専用の
そうだ、まだ終わってないんだ。
今回は凌いだだけ。もうっとくに否応無く争いの火蓋が切って落とされているんだ。
「止めてやる、絶対に、そうしないと……」
菅野の好意を踏み躙った、意味がない。
『とにかく、今日明日はゆっくり休め』
「はは、珍しいですね、姐御が直々に休めだなんて。明日は雪か槍が降りますね」
『馬鹿言え、一番の功労者を労う甲斐性くらい私にもある。明日は今日役立たずだった連中に、お前の分までみっちり働いてもらうさ。私が言えることはそれだけだ。人並みの幸せってヤツを手に入れてしまった私には、お前の苦しみを理解してやれるはずがない』
「下手な同情をされるより、そのくらい割り切ってもらえる方がありがたいです。それに、アナタたちの、今を生きる人達の幸せがあること、それこそが僕にとっての報いです」
『長話が過ぎると、体に障るだろう。じゃあな明後日、また会おう』
「はい、では、また」
姐御に気を使わせてしまった。
傲岸不遜なあの人にも、そんなことが出来たのか。
「帰るか」
RXは燃料切れで動かないみたいだ。徒歩で帰宅するしかない。
少し疲れた。貴重な姐御のご厚意に甘えて、帰ったらゆっくり眠ろう。
眠れば、この胸のざわつきも、詰まるような呼吸も、少しはマシになるだろうから。
「迎えに来たよ、未希」
一本道を抜け、学校の正門前辺りで、月明かりと街灯に照らされながら、桜が待っていた。
「花蓮ちゃん、怒ってたよ。また通信切って勝手に行方不明になって。日向も心配してた。とーぜん、私も」
夜だというのに、なぜか、桜のふくれっ面がハッキリとよく見える。
「みんな、待ってるよ」
重たい足どりの僕の手を取り、彼女は軽快なステップで引き寄せる。
「よく見たら未希、服ボロボロじゃん! ちょくちょく怪我もしてるし、足引きずってるし、ほら、おぶったげる」
「いいよ、歩けるから」
しゃがんで背を勧める桜だか、僕は笑顔で遠慮する。しかし、どうやったのか、僕の身体は桜の背中に掴まらせられていた。
「遠慮しなくていいの、未希は重くないから負担じゃないし」
「面目ない」
出会ったときは僕よりもずっと小さかったのに、もう僕の背を追い越してるのか。
桜の背中が実際より大きく感じる。
「帰ったら、ご飯の支度しないと」
「疲れてるんでしょ。こういう時こそ、ストックのインスタントの使いドコロだよ」
「桜が食べたいだけでしょ。はあ、まあいいや、お言葉に甘えさせてもらいます。上に乗せる具材くらいはちゃんと作るよ」
日曜日のために用意してた具材が必要なくなったし、丁度良いかもしれない。
「未希?」
俯いたことで額が桜の頭に当たる。
また、目頭が熱くなってきた。
おぶさってもらっていたのは丁度良かったかもしれない、情けない姿を見せなくて済むから。
「ここで、耳寄りな情報があります」
堪えていると、似合わない演技掛かった口調で桜は話し始めた。
「今日はあの事件があったから、学校側からもしものために翌朝まで外出禁止令が出ています。ツッパってる
不良生徒はいないわけではないけど、ツッパリは見たことないな。
「なので、独り言を呟いても、聞いてるのはお月様と私だけ、というわけなのです。なんつって、へへ」
桜は首を僅かにこちらに向ける。
「だから、我慢しなくていいんだよ。私は黙って聞いてるから」
それまでのふざけた調子ではなく、優しい声音だった。
なんで、桜はこんなに僕に優しくするんだ。
嫌だ、駄目だ、ここで流されたら、それは甘えになってしまう。
「いいよ、大丈夫、このくらいなんともないからさ」
「大丈夫、そんなのは一人で抱え込まなくちゃいけないものじゃないんだから」
彼女の笑顔に、凍らせたはずの心が解けていく。
ああ、ダメだな……こんなに簡単に我慢が出来なくなってしまうなんて。
「あ、ああ……あああああああぁぁぁぁ!」
堰を切ったように、涙と声が体の外に出ていってしまう。
「どうして……どうして……どうして! 誰も僕に教えてくれないんだ! 話してくれたなら、別の道があったはずなんだ! 失わなくて済んだばすなんだ! それなのにどうして……! 何が夢の描き手だ! 不死鳥だ! そんな大層な呼び方されてるくせに、なんで、こんなに無様なんだよ! なんで、友の願い一つ叶えてやれない! 仕事だから? 役割だから? そんなモノのせいにして、なんで、許せなかった!」
色んなモノに対する思いが、ごちゃまぜで、パレットの上に薄汚い色を作り出す。
「何度失敗した⁉ これで、何回目だよ! ゲームじゃないんだ、取り返しなんかつくわけないだろ!」
いっそ気を違えてしまえれば、楽になれるのに、それすらも、許されない。
「くそっ! 絶対に叶えてやる、絶対にだ! 始まりなんか知らない。けど、その過程は全て憶えてる! だからこそ、引き返すことなんて赦されないんだから!」
二千年、その間に積み上がった骸はこれで、何体目だ?
その内、いくつに自ら手をかけた?
もう、とっくの昔に引き返すことは出来なくなっている。
世界の全てなんかよりも、かけがえのない大切だったモノたちに報いるために。
――僕が世界を、救ってやる。
正しい世界平和の作り方 文月イツキ @0513toma
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