ヒーロー誕生!
喜村嬉享
ヒーロー誕生秘話
「赤羽君……。おめでとう。君は選ばれた」
赤羽イツキが目を覚ましたのは真っ暗な部屋の中……。
イツキは車輪の付いた事務用の椅子に縛り付けられ放置されている。そんな姿を頭上からスボットライトのように灯りが照らしていた……。
「え?何?何ですか、コレ……」
拉致られた……とは理解しているが、一体何がどうなったのかは全く覚えていない。
「フッフッフ。喜んで貰えて何よりだ……」
「喜んでねぇよ!」
「もう一度言おう。おめでとう……君は選ばれたのだ」
会話すらロクに成り立たない相手……。オッサンの声はすれども姿は見えず……イツキは闇の中を凝視する。
「え、選ばれた?一体何に……」
「君は世界を救う為のヒーローになる資格を得たのだ!」
「………世界を救う?」
「そうだ!君はその資格がある!」
「俺は普通の高校生っすよ?何を根拠に……」
「私は君が捨て猫を拾って育てていることを知っている」
「そ、そんな理由で……」
「他にもあるぞ?老婆の手を取り信号を渡り、電車では妊婦に席を譲り、段差で困っている車椅子を他者に呼び掛けて救ったことも……」
「………」
赤羽イツキは俗にいう善人……。そういう意味では正義の人とも言えなくは無い。無論、ヒーローと言うには些か微妙だが……。
「世界には君のようなヒーローが必要なのだよ!」
「あの~……拒否権は……?」
「拒否……だと……?」
暗闇にうっすら見える影は動揺したのかフラフラと動いている。その後、派手に何か物が崩れ盛大な音を立てた……。
「ば、馬鹿な……!君はヒーローに……!」
「いや……。まず、あなたが信用出来ません。いきなり拉致してヒーローになれとか、頭おかしいんですか?大体、俺どうやって此処に……」
「そんなことか……ここは君の家の敷地だ。但し地下だが」
「わ、我が家の地下にこんな場所が……」
「そうだ。私の家は隣りだから繋げてみました!」
「お隣さんかよ!」
何とイツキを拉致ったのは隣人だった!
今後のお付き合いは控えよう……そう考えるイツキではあるが、その前に警察に一報すべきだろう。
「お、お隣って……え?どっちの?」
「ヒーローになると誓えば教えてやるが……」
「嫌ですよ。大体ヒーローってどうやってなるんですか……?」
「ん~?改造?」
「改造人間かよ!」
何処の悪の秘密結社だ!と喚くイツキ……しかし、声の主は動じない。
「改造人間は良いぞ?歳は食わないし、重い荷物も軽々だし、学校まで一っ飛びだし、ロケットパンチも打てるし……」
「要らないよ!何で人間やめないといけないんだよ!」
「ヒーローとは悲しみを背負う者だ……違うかい?」
「全っ然違う!改造されるなら尚更嫌だ!」
「ほう……ではサイボーグで留めてあげるから」
「いや、それ同じだから。見た目だけ生身でも機械には変わらないだろ!」
「ふぅ……やれやれ。我が儘だなぁ」
「どっちがだ!俺は断固拒否する!誰か━━っ!助けて━━っ!」
「ほら、ヒーロー!助けを呼ぶ声がするぞ?」
「俺が助けを求めてんだよ!このマッドサイエンティスト!」
「………。最高の誉め言葉をありがとう!」
「くっ……!」
この後も成り立たぬ会話が続き数時間経過───イツキは問答に疲れ項垂れている。
「あ……!」
「何だね?」
「今日は幼馴染みのハルカの誕生日なんだ……一緒に出掛けてプレゼント渡そうと思ってたのに」
「ほう……どんな娘なんだ?」
「その……か、可愛い娘だよ。頭が凄く良くて海外にも呼ばれたり……少し変わってるけど、俺の大事な……って、何言ってんだよ俺は!」
いや……ハルカはお隣……。ということはこのオッサンはハルカの父親の可能性もある。
「ア、アンタ、まさか!ハルカの親父さんじゃないよな?」
「違うが?」
「そ、そうなのか……」
しかし……イツキは思い出した。反対側のお隣さんは確か老夫婦……。
「お前は誰だ!」
「………フッ!どうやら頭の回転は早いようだな!」
「お隣じゃないのか?」
「いや……お隣だ」
「えっ……?」
まず、怪しい輩の言葉を信じている時点でドツボに嵌まっていると気付かない。お人好し赤羽イツキ……ある意味アホである。
「………。頼むよ。今日はハルカの為に……どうせ助からないなら諦める。でも、頼むから今日だけは……」
「駄目だな。言っただろう?君は選ばれたのだと……」
カッ!と部屋が明るくなった為に眼が眩んだイツキ。やがて光量に慣れたイツキが見たのは……幼馴染みのハルカだった……。
「え……?ど、どういう?」
「あなたは選ばれたのよ、イツキ。私のヒーローにね?」
変声機のスイッチを切らないまま喋るハルカはオッサン声でドヤ顔だ。
「………。うぉぉっ!ハルカ、お前っ!」
「諦めなさい、イツキ。私はあなたをヒーローにすると決めたのよ!」
「その前にオッサンの声をヤメロォォォォーッ!」
興奮気味のイツキに渋々変声機を外したハルカ。しかし、悪びれた様子はない。
「ハルカ……一体これはどういう……」
「え?別に趣味ですが?」
「悪趣味かよ!」
「冗談よ。今から言うことを良く聞いてね、イツキ……」
ハルカが語り出したのは世界の危機。
半年前……アメリカのある研究所から一体のネズミが逃げ出した。あるウィルスの実験体だったネズミは、逃亡の果てウィルスによる進化を始める。
急速に進化を果たした実験体『R―15』は、東部標準時間五月二十日午前三時四分……自我に目覚めた。
進化した『R―15』は自らの存在を世界に向けて発信。そして仲間を増やし自らの帝国『レミングス帝国』を建国すると全世界に宣戦布告した……とハルカは語る。
「……………」
「どうしたの、イツキ?」
「いや……何処から突っ込めば良いのか……」
「そんな訳でレミングス王国と戦う為にヒーローが必要なのよ」
「そんな設定だったのか……」
「嘘だと思ってるの?じゃあ、ハイ……」
ハルカは、拘束されたままのイツキにスマホを使いテレビ報道を見せる。そこには人間大のネズミがアメリカの警官を殺す瞬間がモザイク入りで放送されていた。
どのテレビ局を映しても同じ映像……。かなり緊迫した放送だ。
「え……?コレ、マジなの……?」
「そうよ?まだ日本は無事だけどね?私はアメリカから要請を受けてヒーロー計画を依頼されたの。でもヒーローはそれに相応しいものじゃないと……」
「で、俺を改造しようとしたのか?」
「勿論じゃない。ヒーロー第一号はイツキに……ゾクゾクするわ」
ハルカはうっとりとして震えている……。
「………ハルカ。ハルカは俺のことどう思ってるの?」
「え?ヒーローに相応しいと思ってるわよ?」
「そうじゃない!俺は……俺の気持ちはどうなのさ?」
「イツキの気持ち?」
「俺はハルカが好きだ!だからハルカが本当に望むらなヒーローにだってなってやる。でも、それはもう人間じゃなくなる訳……で?ど、どうしたんだ、ハルカ?」
ハルカは耳まで真っ赤で固まっている。
「え?も、もしかして、俺の気持ちには気付いてなかったの……?」
「べ、別にぃ?し、知ってたしぃ?」
変声機を起動したハルカはオッサン声で動揺を誤魔化そうとしている……。
「ハルカ、聞いてる?」
「き、きき聞いてるわよ?」
「取り敢えず声を戻せ……」
変声機を切ったハルカは口笛を吹きながら余所見をしている。
「あ、あのな、ハルカ……。俺はお前が好きなんだ。だからその……早いかもしれないけど、け、結婚とか……」
「血痕!」
「いや、結婚ね?でも機械になったら俺、ハルカと結婚とか無理だろ?子供とかも………」
「イツキのエッチ!」
「ギャヒィ!」
ハルカの張り手を食らったイツキは椅子ごとクルクルと回っている。
「ぐ……!と、とにかく!俺はハルカが好きなんだ!ハルカがどうしても俺を改造するなら……諦めるしかないけど……」
「諦めたらそこで実験失敗よ!」
「……はい?」
「と、ともかく……イツキの気持ちは分かったわ。要は私とエッチ出来なくなるし子孫も残せないから改造は嫌なのね?」
「そ、そう言われると、身も蓋もない……」
「なら、計画は変えるわ。あなたは……その……と、ともかく!計画変更!」
ハルカはイツキの拘束を解いた。
スマホの時刻を確認すれば夜十一時……。まだ間に合う。
イツキは急いでハルカを自分の部屋に連れて行くと、ケーキとプレゼントを手渡した。
「間に合った……。ハルカ、誕生日おめでとう」
「イツキ……」
「これ……貰ってくれる?」
プレゼントはネックレス。バイトで溜めた金で買ったプレゼントだ。
ハルカはまた赤面しつつ首に掛けて貰っていた。
「ありがとう」
「はぁ……。間に合って良かった。……。ねぇ、ハルカ?俺の気持ちを知らなかったらどうなってたの?」
「勿論、改造よ。………。でも、危なかったわ」
「?」
「な、何でもないわよ!」
こうしてヒーロー計画は頓挫……ならぬ、見直しとなった。
そして二年後の──日本。
「ネズミ怪人が来ます!」
「くっ!何て素早いんだ!」
「数が多すぎます!ダメだ!もう……」
突然起こる爆発。そこには──ヒーローが居た。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ。き、君は……?」
「ヒーローです。二年遅れちゃいましたけど……」
「ヒーロー?」
『イツキ!派手にやんなさい!』
「オッケー!ハルカ!」
全身を包むバトルスーツは、赤と白のヒーローカラー。
イツキはヒーローになった。但し、殆ど人のままで。
ハルカはあの後、猛烈な勢いで研究を行ないナノマシンの開発に成功。それをイツキの身体に組み込んだ。
更にバトルスーツを開発。世界初の『真のヒーロー』が此処に誕生した。
「ハルカ!帰ったらデートしてくれるか?」
『もう……待ってるから早くしなさいよね?』
「オッケー!」
おめでとう、ヒーローの誕生───。
ヒーロー誕生! 喜村嬉享 @harutatuki
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