第3話 学校でも俺を落ち着かせてくれない。
「今日からここに通えるんだな……!」
東京都立
創立70周年を迎える二火ヶ丘は、都内でも有数の進学校として知られている。
高校にしてはキャンパスが広く、校門から校舎までの道には木々が並んでいる。春になると桜並木になり、地域でも一種の名物となっているようだ。
やはり70年経っているということもあり、古い校舎もあれば、新築の新しい校舎もある。何年か前にグッドデザイン賞を受賞したこともあるらしい。
校庭も、野球部やサッカー部が活動できるように広く、体育館はバスケットボール部やバレー部が同時に使っても問題ない広さを誇っている。
弥彦が望んだ高校生ライフがこの高校には詰まっていた。
二火ヶ丘高校の門前で、しみじみと学校というものの空気を噛み締めている弥彦。
そんな弥彦を他所に、続々と校門を通っていく新入生たち。
弥彦一人だけなかなか校門を抜けようとせず、周りから変な目で見られていた。
「何やってんのあの人?」「なんかちょっと怖いわ……」「近寄らんとこ」
青春への第一歩を大事にした結果、色物として見られ始めている始末だ。
「よし……ここを抜けたら、いよいよ俺は二火ヶ丘生だ……!」
これから始まる普通の生活。
家を飛び出してまで掴んだ学生生活。
人によっては、学校に通うなんて面倒な物だと一蹴するかもしれないが、弥彦にとっては喉から手が出るほど欲した生活だったのだ。
故に、この拙い瞬間でさえ、弥彦にとってはとても大事な瞬間なのだ。
ようやくその一歩を踏み出そうとした瞬間ーー
「何やってるんですか、早く入りなさいな」
「ぐえっ!」
ゲシっと背後から蹴られ、青春の第一歩はあっさりと終わってしまった。
誰に蹴られたんだと振り返ると、そこには先ほどまで殺し合いに発展しかけた
ふん、とあからさまに不機嫌な態度で、腕を組んでいる。
「す、鈴代! おまっ、俺の大事な瞬間をよくも邪魔してくれたな!」
「……見てるこっちが恥ずかしかったので、むしろ感謝して欲しいくらいです」
「蹴る必要はないだろうが……」
尻についた土埃を払う。
「鈴代は俺よりも先に向かったはずじゃなかったか?」
「あー気づかなかったのですか? 遠隔からあなたを仕留めるチャンスをうかがってたんですよ」
「あの変な気配お前だったのか!?」
先ほど弥彦が鈴代と別れた後、意気揚々と登校していた弥彦だったが、ちょくちょく視線を感じたり、遠方から狙われているような気配がしたのでずっと気を張っていたのだ。
「ワンチャン殺れるかなって思ってましたが、いざあなたが校門の前に着くなり立ち尽くすものでしたから……共感生羞恥で蹴り倒したくなりました」
「理不尽だ……」
そんな二人のやりとりを新入生たちは同じく共感生羞恥を感じながら眺めていた。
***
新入生のクラス配属表が下駄箱を抜けた先に展示されていた。
たくさんの生徒が集まっており、みんな緊張と期待に溢れた面持ちで確認していた。
「あなたとは違うクラスのようですね。ではまた後ほど」
「お、おう……」
『あいつの言う後ほどって、絶対殺し合おうってことだよな……』と思いつつ、自分のクラスである教室に向かう。
廊下を歩いていると、早くも仲良くなったのか、あるいは中学から同じ学校であったのかと思われる生徒達が和気藹々と駄弁っている。
弥彦はそんな彼らに羨望の眼差しを向けつつ『友達百人作るぞ』と改めて心の中で念じる。
教室の前に立ち、例の如く改めて息を整える。
ドアを開いた先にはこれからクラスメイトになる生徒達ーー青春時代を共にする仲間たちが待っている。
そう思いながら開いた扉ときに感じたのはーーーーーーーーーーーーー…………
圧倒的なまでの、防衛本能であった。
「……っ!」
教室に漂う匂い。
それは黒板の匂いでも、真新しいおろしたての制服の匂いでもなく、紛れもない人ならざるものの匂いであった。
弥彦は長いことエクソシストとして活動をしていたが、これまで生きてきた中でここまで恐怖心を抱いてきたことはなかった。
「なん……だ、どこに……」
すると、一番後ろの席に座る、一人の少女が目に留まった。
特徴的な髪の色をしている。白だ。
彼女の印象としてすぐに思いつくのは純白。
白い肌に、白い髪。誰もが美少女と認めるであろうと思うほどの美貌を持っている。
しかし、誰も彼女に振り向くことはない。
いや、注目を浴びないように仕向けられているのだと弥彦は感じ取った。
「ま、間違いない……」
ーーーー彼女は、霊魔の王、吸血鬼だ。
元祈祷師《エクソシスト》の俺の横には、吸血鬼の黛さんがいる。 ノロップ/銀のカメレオン @tokinotabito
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