10歳のわたしたちへ

佐宮 綾

拝啓


 10歳だった、田中ファンクラブのメンバーへ


 タイムカプセルを埋めたときのことを覚えてますか? チナツが発案して、他のメンバーもいいねって言って。わたしたち4人、一生仲良しだって思ってたから、20歳になったら開けようね、約束だよ、って、宝物とか、皆に宛てた手紙とか、入れたよね。

 今日、やっと、掘り出してきましたよ。皆が書いた10歳の手紙もなかなか笑えたけど、チナツ、なんで宝物にシール帳を選んだの? 15年達って、シール帳は開くこともできなかったよ。本当に時代を感じて笑ってしまいました。

 これを書いてるわたしは、実は20歳じゃありません。25歳です。開けるのが遅くなってごめんね、昔のわたしたち。

 実はずっとタイムカプセルを開けるのが怖かったんだ。わたしたち、バラバラになってしまったから。でもこの前、同窓会でタエとルカに久しぶりに会って、そういえば、って田中ファンクラブのタイムカプセルの話になって、開けることにしたんだよ。手紙を開けてみたら、みんな揃って『未来が楽しみだね!』って書いてあったから、わたしたちは過去の自分たちに手紙を書いてるんだよ。律儀でしょ(笑)


 チナツが死んでから、7回目の夏が来ました。元号も変わって、新しい時代が訪れて、平成は少しずつ過去のものになってきています。チナツ、やっとわたしたちは約束を果たせました。20歳の時に開けるはずだったのに、遅くなってほんとうにごめんね。……でもどうして、タイムカプセルを提案したチナツがいないんですか? どうして25歳になったわたしたちが今会えるのは、10歳のチナツなんですか? なんて責めても仕方ないねごめんね、責めるべきは、あなたを轢いた、トラックの運転手なのにね。


 この手紙を、田中チナツに捧げます。


 令和元年7月20日 田中ファンクラブ会員のひとりより


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10歳のわたしたちへ 佐宮 綾 @ryo_samiya

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