おちこぼれ魔法使いの僕が魔法を使えるようになったワケ 

にゃべ♪

捕まったトリ

 魔法の使えない魔法学校の生徒の僕は、ある日、図書室で禁書を発見する。それを開放した事で現れた謎のフクロウ、トリによって僕は魔法を使えるようになったのだった。その後、トリは勝手に僕の使い魔になり、結構仲良く生活している。

 魔法が使えるようになった後はクラスメイトとも打ち解け、部活にも入った。

 

 その事件は、有り触れたある日の朝に突然訪れた。


 早朝、まだ誰もが朝の準備に忙しくしている頃、家のドアを叩く音が響いてきた。まるで下痢の人がトイレの個室のドアを連打するようなそんな勢いだ。どうやら騒がしい訪問客が来たらしい。


 両親は朝の準備に手が離せなかったので、僕が対応する事になる。厄介事はごめんだなと思いながら恐る恐るドアを開けると、そこにいたのはきっちりとした身なりでガタイのいい男性。

 彼は、僕の顔を見るなりいきなり話しかけてきた。


「朝早くに申し訳ない。私は魔法管理委員の者だ。君だね、悪魔に捕らわれているのは?」

「はい~?」

「まず、君には禁書を持ち帰った疑惑がある。覚えはあるよね?」


 あ、ヤバい。禁書の事を知られている。禁書は個人の所持を禁じられている危険書物。バレたら最低5年の収監は免れない。一体どこで情報がバレてしまったんだろう。

 このまま捕まりなくなかった僕は何とか誤魔化そうと白を切る。


「い、一体何の話ですか? 禁書だなんて……」

「なるほど。では確認のために調べさせて頂こう」

「やめてくださいやめてください!」


 男性はいきなり家の中に入り込もうとする。禁書そのものはないから別に調べてもらってもいいんだけど、この人がトリの事を知っていたらやっぱりヤバい。

 玄関先で押し問答をしていると、運悪くそこに騒ぎを聞きつけたフクロウがやってくる。


「何やってるホ……」

「証拠発見、確保ー!」

「ちょま、えっ?」


 男性の号令に、部下らしき人が3人ほど後ろから現れて見事な手際でトリを確保した。トリを閉じ込めたカゴには魔法の封印がなされ、脱出は不可能となる。この突然の状況に僕は驚いて一言も喋れなかった。

 全ての作業が終わり、男性は僕の両肩に手を置く。


「おめでとう、悪魔は無事隔離された!」

「悪魔って何ですか?」

「禁書に封じられていたアレは世界を破滅させる悪魔なんだ。大方君は操られていたんだろう。だから罪には問われない。悪魔はこちらで処分しておくから気にしなくていい」

「ちょ、ちょっと待ってください!」


 男性の話が信じられず、僕は思わず抗議する。そりゃトリは謎の多い生き物だけど、今まで何度も助けてくれた。悪魔だなんて信じられる訳がない。

 なので、カゴの中のトリにも確認を取った。


「トリ、違うよな。お前は悪魔なんかじゃないよな」

「当たり前だホ! 早く出せホー」


 トリも突然狭いカゴに閉じ込められて最高に機嫌を悪くしている。早くそこから出してあげなくちゃと、僕は長身の男性の顔を見上げる。


「ほら、トリもこう言ってますし」

「悪魔の言う事を信じるな!」


 男性は急に態度を変えて僕に雷を落とすと、そのままトリを回収していった。一連の出来事が有無を言わせないほどの手際の良さだったため、しばらく事態を理解するのに時間がかかってしまう。

 しかし、どれだけ考えてもトリが連れ去られる理由に納得がいかない。なので僕は密かにトリ救出を決意するのだった。


 まずはあの突然家にやってきた魔法管理委員会と言うのが怪しいと当たりをつけ、図書室で調べ始める。調べていく内にそんな組織は存在しないと言う事を突き止めた。

 次に家にやってきた男性の服についていた紋章を調べる。あの紋章は確かこの街有数の貴族に関係したものだったような……?


「何してんの?」


 調べ物をしてる僕の前にクラスメイトのユウカがやってくる。特に秘密にする事もなかったので、禁書以外の情報を彼女に打ち明けた。


「何それ酷い! 分かった。手伝わせて!」

「えっ」

「部長も巻き込もうよ! あの人、こう言うの好きだから」


 僕の話を聞いてひとり盛り上げるユウカは、僕達の所属する創作魔法部のベリル部長もこの話に関わらせようと鼻息を荒くする。僕としては協力してくれる人が1人でも多い方が嬉しいため、その動きを手放しで喜んだ。

 部長は趣味で魔獣を召喚するほどの魔法レベルの高い人だから、協力してくれたら大変有難い。


「へぇ、面白そうじゃないか。勿論協力するぞ!」


 僕達の話を聞いた部長はノリノリで協力を申し出る。こうして僕達のトリ奪還作戦は始まった。



 その頃、街の有数貴族のひとつ、ヌーン家の一室に回収されたトリが運び込まれていた。


「ついにお前を手に入れたぞ。さあ、この私、ポポルの願いを叶えるのだ!」

「やなこったホ」

「何故だ! お前は望みを叶える奇跡の聖鳥だろう?」

「俺様の主はソウヤだホ。他のヤツの話なんか聞かないホ」


 どうやらトリを連れ去った奴らはこの男の差金だったらしい。ポポルはトリのご機嫌を取ろうとあの手この手を使う。

 そこを逆手に取ったフクロウは高級スイーツを存分に要求して、いい感じで手玉に取ったりしていた。


 その頃、僕らはトリを連れ去った奴らの正体に迫っていた。紋章についてもう一度図書室で調べていると、その正体が判明する。


「やっぱり! あの紋章はヌーン家の物だ」

「ヌーン家って怪しい噂もいっぱいあるよね」

「では、早速ヌーン家に向かわねばだな!」


 こうして僕らはトリを取り返すために貴族の屋敷へと向かう。ヌーン家は街で一二を争う名家なだけはあって、大きな屋敷と敷地を有していた。有名な場所だけに、ここに来るまでは簡単だった。

 屋敷の入口の門は当然ながら堅く閉じられている。さて、これをどう攻略するかだけど――。


「私が引きつけるからその間に取り戻すんだ!」

「お、お願いします!」


 そう、陽動作戦だ。門の前で部長が魔獣を召喚してひと暴れさせている内に、その混乱に乗じて屋敷に忍び込む。

 僕とユウカはその混乱にうまく紛れ込めるように、物陰に隠れて息を整えた。


「……いでよ! 魔獣リスター!」


 部長の宣言と共に、全長10メートルはあろうかと言う巨大な混沌の塊のような何かが召喚される。一応、魔獣……なのかな?

 球状の塊の表面に無数の腕が生えていて、とにかく気持ち悪いんですが……。


「え、えっと……」


 僕がその魔獣の造形に圧倒されていると、警備の兵士達が続々と集まってきた。門も開き、今ならこの混乱に紛れて潜り込めそうだ。


「早く! 私の事は気にしなくていい!」

「は、はい、行ってきます!」


 こうして僕達は敷地内に潜り込む。門を抜ければ、意外とあっさり屋敷に侵入する事も出来た。振り返ると魔獣リスターが大暴れしている。

 部長、今度はちゃんとコントロール出来ていればいいけど。


「じゃあ私やる事があるから。ここからは別行動ね」


 屋敷に入った途端にユウカはそう言ってどこかに走り去ってしまった。仕方なく僕はトリを探して屋敷内を駆け回る。その先で気配を感じ、それに従って走っていった。

 そうして、行き着いた先の立派なドアを僕は力任せに開ける。


「トリを返せ!」

「誰だ君は」

「そのフクロウは僕の使い魔だ!」

「なるほど、元の所有者か。ふん、返す訳がなかろう。とっとと帰り給え」


 屋敷の主であるポポルは突然現れた部外者の僕に対しても全く動じない。その貴族らしい偉そうな上から目線にちょっとイラッとする。


「よく来たホ! さすがはソウヤホ」

「えっ?」


 気がつくと、トリが僕の肩に止まっていた。さっきまで封印されたカゴの中にいたはずなのに。


「あんなのいつでも抜け出せるに決まってるホ」

「どう言う事だよ!」

「ソウヤがこの事態にどう動くか見てみたかったんだホ」


 この誘拐劇もトリにとってはただの戯れに過ぎなかったらしい。その余裕さに僕は安心するやら呆れるやら。

 目的も達成したし、後はこの貴族を何とかするばかりだと杖を構えたところで、ポポルの顔が怒りの形相に変わる。


「おおお、お前ら!この屋敷から生きて帰れると思うなよ! 来い! 悪魔ボボーン!」


 ポポルの宣言と共に床に魔方陣が描かれ、ボボーンと呼ばれた悪魔が召喚される。その悪魔は全長2メートルくらいの全身真っ黒な犬っぽい姿で、背中にコウモリの羽を生やしていた。


「雑魚ホ」


 トリはそう言うと大きく息を吸い込んでいる。また一撃で倒そうとしているのだろう。ここまでいいところがひとつもなかった僕はこの動きを止める。


「ここは僕にやらせてよ」

「やれそうかホ?」

「まーかせて!」


 僕は杖を構えると、悪魔に向かって逆召喚の呪文を唱えた。この魔法が成功すれば、召喚された魔物をそのまま元の世界に戻せる。上手くタイミングが合い、ボボーンはいいところを一切見せる間もなく、逆召喚で生じた魔法陣の中に沈み込んでいった。


「そ、そんな……。私の魔法が……」

「それじゃあ、後は任せるホ」

「うわああー!」


 ポポルが愕然としている間にトリが都合よく記憶を改竄かいざんする。その後、屋敷を出ると、そこでユウカと合流した。焦っていたので彼女が何をしていたのかは聞けなかった。

 屋敷を出るとまだ魔獣は暴れていて、それもトリが見事に片付ける。こうして僕らのトリ奪還作戦は見事に成功したのだった。



 その後、屋敷に突入した警察官によってポポルの今までにやらかしてきた悪事が暴かれ、何故か僕らが表彰される流れになる。

 これ、ユウカが手引きしたらしい。自分の手柄を2人の手柄にしたのだとか。


「悪徳貴族の悪事を明らかに出来たのは君達のおかげだ。ありがとう」

「あっはい……」


 表彰が終わって署長の部屋を出ると、待っていた先生からお褒めの言葉を頂く。


「おめでとう。2人共お手柄だったね」


 僕らは照れながらその言葉を受け取り、不思議な気持ちで警察署を後にする。色々やっちゃたけど、まぁ上手く収まったからそれでいっか。



 次回、最終回『トリの真の目的』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054889045411/episodes/1177354054889045871

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おちこぼれ魔法使いの僕が魔法を使えるようになったワケ  にゃべ♪ @nyabech2016

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