第2話 純情少年の記憶の欠片。

俺はごくごく普通の家庭で生まれた。


母さんは紫瑞しずいという名前で

父さんは香留かどめと言った。


二人とも不思議な前なので生まれる子供も

同じようにキラキラネームは嫌だ、と言っていたようだ。


そして俺は2人の名前の1部を取ってこの

静夏、という名前にしたそうだ。

母さんの「しず」と父さんの「か」で。


何度も何度も母親にはこの話をされた。

まるで歌でも歌うように。


2人はとっても仲が良かった、らしい。

俺は幼少期の記憶があまりない。

でもその理由さえ考えたこともなかったんだ。


ある日俺が7歳の頃、

父さんが死んだ。

原因は事故死で、普通に父さんが会社に向かっているとヨボヨボの爺さんが運転していたトラックに引かれたそうだ。

しかもその爺さんはひき逃げしようとしていた。


なんでこの記憶だけ繊細に残っているかと言うと、俺はその現場にいたのだ。


父さんが母さんの作った弁当を

家に忘れていて母が「静夏、お父さんにそれ届けるのお願いできる?多分まだ近くの交差点にいるから」とお願いされた。


俺はそのまま家を飛び出し、交差点の横断歩道の前で立っているで父さんを見つけた。

そのまま俺は父さんのところへ走って行った。

「お父さん!!これ、お弁当!

家にわすれ…………てるよ……?」



その瞬間、自動車信号は赤になった。

その瞬間、補導者信号は赤にそまった。


父さんが引かれた。


ただそれだけのことが俺の前で広がっている。


父さんの血が溢れ出し、体は崩れた崖のようにガラッと倒れた。


「…は?」


「あぁ…そっか………

……父さんが死んだんだ……。

はははははは……はははははははははははははははははははははははははははははははははは」


自分の声が自分のものに聞こえない。

あの時の感情と自分の声は今でもたまに思い出す。


その後俺の異変に気がついた近くの住民は

警察と救急に連絡してくれた。犯人の爺さんは捕まった。

駆けつけてきた母さんは俺を抱きしめた。


「静夏…ごめんね……」


と。




♡━━━━━━━━━━━━━━━♡



そのあとの生活は予想できないほど真っ暗だった。

俺の家はほとんどの収入が父さんで、

母さんは少し、スーパーのパートでをやっていた。

母さんのパートだけで生きていけるかわからない。それくらいの危機を迎えていた。


「だめ…私が頑張らなきゃ……

香留かどめさん…貴方に会いたいわ…」


その日から母さんはいつも泣いていた。

俺はそんなかあさんを見ながら平然と暮らす自分がとても嫌だった。


母さんは決心して、

街に飛び出した。

」そうしてお金を稼ごうと決めたのだ。


俺の生活はここから狂ったんだと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

純情少年と蝶の夏。 雨戸飴 。アメトアメ @azukiazusa78

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ