純情少年と蝶の夏。
雨戸飴 。アメトアメ
第1話 純情少年と夜のはじまり
いちょうしずか。
イチョウシズカ。
ityou sizuka。
自分の名前は沢山あった。
でも間違えなく今の俺の名前は
李蝶静夏なのだ。
でも俺はこの名前が大嫌いだ。
「なつ…くん…?」
確かにそう呼ばれた。
俺は今だけは
李蝶 夏だ。
ベットで俺を押し倒したままで
オッサンが俺に呼びかけていたようだった。
「あはは…ごめんね……。」
俺は無理やり笑顔を作って
そのまま汚いシーツをかけて寝ようとした。
オッサンはちょっと残念そうな顔をしたが、
俺から顔を離して、
1度ベッドから降りて、洗面台へ向かった。
それが気になった俺はオッサンに向かって
問いかけた。
「何してんの」
「シャワー浴びるだけさ。」
「お金はちゃんと渡してよね。」
「分かったよ…。」
オッサンの太った背中を冷たい目で
見てから俺はベッドから離れて
机の椅子に座って頬杖をついた。
「つまんない…。」
俺はいつも通りに
夜にフラフラと出かけて夜の街を歩いた。
そしていつも通りに
そこら辺にいる金を持っていそうな
1人で悲しそうなオッサンに声をかけた。
そしていつも通りに
年齢を偽ってそいつとホテルに入った。
そしていつも通りに
俺はそのオッサンと遊んだ。
偽名を使って。
痩せて寂しそうだけどの金は持っていそうだったからだ。
今日はいつもの快感が味わえなかった。
俺はベッドにいるとき、
金を持っているときだけ
「生きている」、そう感じるんだ。
♡━━━━━━━━━━━━━━━♡
翌日。
目が覚めたらそこにおっさんは
いなかった。
俺は裸のまま机に置いてあった
袋を確認した。
10万円、が入っていた。
嬉しいのか悲しいのか怒っているのかもわからない。
俺はさっさとホテルを出るために
荷物をまとめて部屋を出ようとしたそのとき、
玄関前に掲げてあった少しヒビが入った
鏡に乱れた髪の俺が写った。
優越感にまみれた汚い顔をしていた。
薄紫色でボサボサになっていた長い髪。
今はその長く
横で少し取って大きなクリップでとめている。
白く濁ったようなタレ目。
学ランはブカブカでシャツはしわが目立っている。
ズボンから覗いた足首は折れそうなほど細かった。
そして首元には
赤い傷があった。
「あいつ…噛みやがったな…」
汚い歯型が着いた首元に持ち歩いている包帯をまいてもう一度鏡を見た。
そこにはさっきと変わらない
李蝶静夏という少年がいた。
俺じゃない。こんなの。
逃げるようにホテルを出て
急いで俺が通う
俺は金を生きるために欲しているわけじゃない。
愛と快楽が欲しいだけ。
それだけなんだよ。
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