めざせ、逆略語王!

snowdrop

マ?

「逆略語クイズ~っ」


 司会進行役がタイトルを叫び、横に並び置かれた机を前に座る四人が、軽く手を叩いた。

 目の前にはそれぞれ早押し機が用意されている。


「本日は、YouTubeでみつけたクイズ動画を参考に考案したクイズを楽しんでみようと思います」


 右端に座る会計が手を挙げる。


「逆略語ってなんぞやもし」

「長い語の一部を省いて短くしたものを略語といいますが、省いた部分の言葉を『逆略語』と呼ぶことにしました。就職活動の略語が『就活』なら『職動』が逆略語という具合です」

「あー、なるほどね」

「そういうことか」


 説明を受けると会計をはじめ、書紀、部長、副部長も納得の声を上げる。


「ルールの説明をします。略語の省略した部分の逆略語を書いた文字を皆さんにお見せいたしますので、元の正式名称の言葉を推測して、略語で答えてください。正解すると一ポイント、間違うとポイントがマイナスになります。一番早く三ポイント獲得した人が初代逆略語王です」


 腕を組みながら副部長は聞いていた。

 部長は早押し機を触り、頷く。


「簡単じゃね?」


 手を組む書紀。

 その隣で会計は顎を触っている。


「それでは、はじめます」


 進行役の声のあと、四人は早押しボタンに指をのせて構えた。


「問題。『ナルド』の略語を答えてください」

 

 スケッチブックに書かれた題目を見た四人は、反射的に早押しボタンを押した。

 鳴り響くピポピポーンの音とともに解答権獲得のランプが点灯したのは、部長だ。


「マック」


 自信の笑みを浮かべる部長。

 しかし、ブブブ―と無常な音が鳴り響いた。

 あっけにとられている部長をよそに会計がボタンを押した。


「マクド」

「正解!」

「いえ~い」


 ピコピコ―ンと正解の音が鳴り響く。

 会計は、握りしめた拳を頭の横で小さく振って喜んでいる。


「待てよ。マクドナルドの略語はマックじゃないっていうのか。関西読みじゃん」

「問題を作成したぼくの判断基準ですのでアウトです。部長はマイナス一ポイント」


 スケッチブックを倒してページをめくりながら、進行役が首を横に振った。


「問題。『ターナツ』の略語を答えてください」


 スケッチブックを見せられたと同時に四人は、ボタンを一斉に押した。

 押し勝ったのは、会計。


「ミスド」

「正解!」


 ピコピコーンと音が響く。


「マクドと来たらミスドかなと、山を張ってました」

「一気に会計がリーチに躍り出ました。このままあっさり優勝してしまうのか」


 スケッチブックをふせてページをめくり、進行役は準備をする。


「問題。『主用』の略語を答えてください」


 今回ボタンを押したのは、書紀。


「食パン」

「正解です」


 ピコピコーンと軽快な音が鳴る。


「よっしゃー。主食用パンですよね。偶然にも朝たべてきましたから」

「それはすごい偶然ですね。書紀に一ポイントが入りました」


 すぐにスケッチブックをふせた進行役は、ページをめくった。


「問題。『CONULATION』の略語を答えてください。


 見せられたスケッチブックを前に四人は、しばし考え込む。

 顎をさわりながら副部長がボタンを押した。


「えっと、グラッツ。GRATSです」

「正解です」

 

 ピコピコーンと正解音が鳴る。


「コングラチュレーションズ、『おめでとう』です。ゲームしてると、たまに言われますね」

「クイズだけでなく、オンラインゲームもよくやってるんですね。これで副部長に一ポイント入りました」


 進行役は急いでつぎの問題の準備をした。


「問題。『世民』の略語を答えてください」

 

 スケッチブックを見せられて早押しボタンを押したのは、副部長だ。


「経済」

「正解です」


 ピコピコーンと正解音が鳴る中、副部長はほくそ笑む。


「漢字が見えたら押そうと思っていたので。中国の古典、『世を經め、民を濟う』で、ベタ問ですね」

「これで副部長もリーチとなりました」


 スケッチブックの準備をする進行役をみながら、四人は身構えて早押しボタンに指をのせる。


「問題。『クラヴィチェンバロ・コル・エ・フォルテ』の略語を答えてください」


 ほかの三人が目を細める中、早押しボタンを押せたのは部長だけ。


「ピアノ」

「正解!」

「知識~っ」


 ピコピコーンと音を鳴った。

 部長は、パンッと一拍、手を叩く。


「ピアノの正式名称の『クラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ』というのはイタリア語で、弱い音から強い音まで出せるチェンバロという意味ですね」

「これで部長は、ポイントがマイナスからゼロに戻りました」


 進行役はスケッチブックを四人に見えないようめくり、準備する。


「問題。『アーリオ・オーリオ』の略語を答えてください」


 四人は一斉に早押しボタンを押した。

 押し勝ったのは、書紀。


「えー、そうそう、ペペロンチーノ」

「正解です」


 ピコピコーンと音がなる中、書紀は息を吐いた。


「今日の俺って、食べ物しか当ててないよなー」


 ぼやく書紀の隣に座る会計が、そんなことないよと声を掛ける。


「ぼくなんて、マクドとミスドだからね」

「あー、そっか。なるほど」

「これで書紀もリーチとなりました」


 進行役がスケッチブックをめくってつぎの問題の用意をしする。


「用意していた問題は、つぎが最後です」


 すかさず部長が手を挙げる。


「最終問題のポイントはいくつですか?」

「一ポイントですけど」

「それじゃあ、俺が逆転できないじゃないか!」


 パンッ、と柏手を打つよう音を立てて手を合わせた部長は、進行役に向かって頭を下げた。


「つぎの問題で決着つくよう、正解したらせめて三ポイントにしてください。かさ増ししないと、俺が逆転できないから」


 頼む~、と部長は必死に頼みこむ。

 他の参加者から「いいんじゃないの」と声が上がる。


「わかりました。最終問題を正解すれば、三ポイントがつくことにします」

「よっしゃー、勝つぞ」


 進行役の言葉を聞いて、部長は目をイキイキさせながら前のめりに早押しボタンを構えた。

 他の産院も早押しボタンに指を乗せる。


「問題。『に入るからつ』の略語を答えてください」


 スケッチブックを見せられた瞬間、四人の指は動かなかった。

 書紀は口を開け、会計は目を細め、部長は首をひねる。

 そんななか、副部長は苦笑いしながらボタンを押した。


「フロリダ?」

「正解です」


 ピコピコーンと音が鳴り響く。


「偶然にも妹が『友達がフロリダした』と話してたとき、教えてもらいました」

「なるほど。この結果から勝者は、五ポイント獲得した副部長です!」


 喜びに湧く副部長の隣で、部長は机に突っ伏していた。

 その時だ。


「ちょっと待った―っ」


 声を上げて割り込んできた次期部長。

 司会進行役からスケッチブックを取り上げると、残りのページをめくりながら書き込んでいく。


「ここからは新部長の私による、JK逆略語クイズをはじめます」


 顔を上げる部長をはじめ、副部長、会計、書紀は些かあっけにとられている。


「ルール説明をします。とはいっても、先程の逆略語クイズのルールとなんら変わりありません。ただし、これまで獲得したポイントをゼロに戻します。正解すると一ポイント、間違うとポイントがマイナスになります。一番に三ポイントを獲得した人こそ逆略語王です」

「こういうハプニングは歓迎だぜ」


 笑顔が戻った部長をはじめ、副部長達は早押しボタンに指をのせて構えた。


「はじめます。問題。『あえず、あ』の略語を答えてください」


 新部長はスケッチブックを立てて四人に見せる。

 目を細めて首をひねる会計の隣で、部長がボタンを押した。


「とりま」

「さすが部長! 正解です。どんどんいきまーす」


 ピコピコーンと正解音が鳴り響くなか、新部長はスケッチブックをめくり、次の問題を出す。


「問題。『りがとうごます』の略語を答えてください」


 はあ~と書紀のため息が聞こえる。

 顎を撫でながら副部長がボタン押した。


「これは……えっと、あざまる水産?」

「正解です。やりますね……副部長」

「妹がつかってるのを聞くので」

「そーですか」


 冷めた目で副部長を見ながらページを捲る新部長は、スケッチブックを見せる。


「問題。『うじきし』の略語を答えてください」


 誰も早押しボタンを押さない。

 首をひねりながら、「どういうときに使うの?」と会計が訊ねる。


「そうですね、『大丈夫そうに見えるかも知れないけれど、実は……』という感じのときに使います」

「あー」


 新部長のヒントを聞いて、副部長が小さく声を上げた。

 その瞬間、早押しボタンを押したのは部長だ。


「えっと、だから……えっと、しょんどい、だ」

「大正解です!」


 新部長は喜びすぎて、ピコピコピコピコーンと正解音を何度も鳴らしてしまう。


「副部長が答えわかったから、答えられる前に押すしかなかった。まさに『正直しんどい』だったけど、なんとか思いつけてよかったです」

「部長、リーチです。さあ、つぎがラストになるのか。部長頑張って!」


 興奮しながらページを捲った新部長は、急いでスケッチブックを四人に見せた。


「問題。『望の床』の略語を答えてください」


 なんじゃそれ~、と書紀のボヤキが聞こえる。

 副部長は腕を組み、部長は首をひねる。

 口に手を当てながら呟いて、早押しボタンを押したのは会計だった。


「絶起」

「正解です」


 ピコピコーンと音を鳴らすも、新部長は深くため息をつく。


「希望か絶望のどちらかしか浮かばなくて。絶望の起床、つまり遅刻ってことか」

「はい、そうです。部長に当てて……いえ、気を取り直して次に行きます」


 舌打ちしそうになりながらスケッチブックをめくって問題を見せる。


「問題。『れでいい』の略語を答えてください」


 なかなか押せない中、ボタンを最初に押したのは部長だ。


「おしゃかわ」

「正解でーす!」


 新部長頬を赤らめて、ピコピコピコピコーンと正解音を軽快に鳴らした。


「おめでとうございます。部長が初代逆略語王です!」

「やったぜ」


 両手を高く上げて喜ぶ部長に駆け寄った新部長は、おもわず両手を突き出す。

 部長は迷わず、ぱちんと彼女の掌と合わせた。

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