春休み。毎年入学式には咲くはずの、高校の桜が咲かない。染井沙穂は生物部員として、咲かない桜の謎を調査することに。その頃、沙穂は、不思議な夢を見続けていた。4月10日までに、桜は咲くのか。古事記の、垂仁天皇の后・沙本毘売と兄の沙本毘古のエピソードは一応、知ってはいましたが。天皇、姫、兄の行動の裏にはこんな心情があったのかも、と丁寧に紡がれる物語に引き込まれます。最期の狭穂姫の叫びは圧巻でした。最後の光景が、美しい。古の歌人のようには無理と思いつつ、歌を詠みたくなります。
狭穂姫の物語をベースに、奈良の高校を舞台にした青春小説です。毎年入学式に咲くソメイヨシノが、なぜか今年は咲かない。そんなソメイヨシノを咲かせるために奮闘する染井沙穂は、なぜか、狭穂姫の夢を見る。読後感がよく、とても美しい小説です。作者の狭穂姫愛が伝わってきました。
古事記屈指の傑作悲劇挿話を題材にした本作、『桜涙病』なる奇病につきまとわれた人々が古代日本と直接にか間接にか心を交わす。 万葉調の力強さと古今調の繊細さを兼ね備えた良作。