国の旗

永人れいこ

二人ぎりの会議

「ミッションはどうだった?」

「問題なかった」

 事務所の中に2人は座っていた。俺と俺のボスだ。

「今日は特別な日だよね」

 俺のボスは眺めていた書類を俺たちに挟んでいる机の上に放り投げ、立った。彼はもう50年代になったけど、仕事のために今にもよく運動してほとんどの30歳の男性より強い。どう考えてもこの仕事に50歳にたどり着く奴は普通じゃない。

「そう?」

 俺は立たない。書類をチラッと見た。内容は終わったばかりのミッションだ。狙った敵の情報、関係の方の情報、動機、この敵をこの世から消すように俺の動き、そして、これからどうするつもりだ。全部はたった10枚ページのファイルに入っている。

「まさか、今日は何日かわからない?」

「さー」

 彼は窓側にある棚からウィスキーと二つのグラスを取った。普通の会社なら仕事中にはお酒を飲んだらだめなんだけど、俺たちの仕事は普通じゃない。そして、成功のミッションの後にこういうようにお祝いするのは俺の前にもボスの習慣だ。

「今日は記念日だよ」

「記念日だって?」

「そうだ。今日のちょうど3年前だ」

 俺は甦った。今、言われると気づいた。確かに、俺の初めてミッションはちょうど3年前だった。右の手の上に左の指を走った。この3年間で何度も覚えられないほど多数のミッションで自分の手はもう傷跡だらけになった。本当の手の肌は感じなくなってきた。

「そうだ。3周年だね」

「国のためにミッションよくできたついでにお前の3周年の記念日として、これを飲もう。後は1週間を休ませて。お前は少し休憩を取って」

 彼は机に戻ってグラスを置いた。何も言う前にウィスキーを入れた。

 けれど、俺はこれでまだ満足じゃない。

「この3年間で一度でも本当の名前を使ってないよね。むしろ、もう俺の本当の名前はいつか忘れてしまった気がする」

 俺はボスが差し出しているグラスを手に取った。

「そうだね。俺も、多分お前と同じくこの仕事を3年間やったらもう本当の自分は誰かわからなくなったと思う」

 ボスは机の奥に席に座り込んで苦笑した。俺は何も返事しない。ただ俺のボスを見つめた。彼は自分のグラスから一口を飲んだ。

「でも、それでいいよ。俺らはもう一人じゃないよ。俺らはこの国だ。そしてこの国のために全部を捨てた。自分自身も」

 彼は窓の奥に振っている旗を見ながら何度も練習したようなセリフを俺に言った。

 俺も自分のグラスから一口を飲んだ。辛い。けれど、この辛さはこの会話とぴったりと似合うと思った。

 事務所に座った2人の俺たちの間に、長い静かさが流れた。

「俺は覚えているよ」

 俺は先に話しかけた。

「子供の頃だ。親たちがもう亡くなって近所のおじさんのところに住んでしまった。この話、もう知ってる?」

 俺の質問に彼はゆっくりと頭を左右に振って、痛いか腰についた銃を机の上、ウィスキーの隣に置いた。

 俺が残りのウィスキーを飲み干して空いているグラスを机の上に置いた。指示なくてもボスは理解したように俺のグラスにまたウィスキーを入れた。

「あの時は俺は結構難しい子だった。他の子どもとよくケンカしたり、近所の店からものを盗んだり、退学も何回もさらた。今は思ったら俺はあのおじさんなら俺を殺すかも知れない」

 小さく笑って机からグラスを取ってもう一口を飲んだ。

 ボスは何も言わない。ずっと自分のグラスは手に持っているまま、俺の話を聞いて窓の外を眺めた。

「毎日、あのおじさんがどっかから俺はあの日、何をしたと聞いて待っていた。そして、俺は帰ると彼が俺をやっつけた。優しくしてなかった。本気にやっていた」

 俺は思い出すともう一つの笑いが顔に浮かんだ。

「俺、覚えている。ある日、俺の顔が殴られすぎて両方の目がはれて何も見えなくなってしまった」

 俺はボスの銃を見つめた。俺と同じモデルだ。けれど、彼は俺と違ってこの事務所に持つ権利がある。

 俺の目が動いて、彼の目線を通して外のに振っている旗を眺めた。綺麗だ。けれど、あの旗の裏に何万人の血で汚れている。

 この事務所、この仕事はその旗に出来るだけ人数の血を少なくなるようにする。戦争を止まるように陰に1人を殺す仕事だ。アサシンだ。スパイだ。エージェントだ。何を呼んでも同じだ。

「ともかく、ある日俺がおじさんに聞いた、「どうして、そんなに殴るか」って。彼の返事が何かわかる?」

 ボスの頭はまた左右に振った。

「「誰かお前を見たから」って。俺はびっくりした。彼の怒っている理由はそもそも俺が悪いことしたじゃなく、やっている俺が誰に見つけられた」

「多分、俺と同じようにお前に潜在能力を気づいた」

 ボスは自分のグラスを飲み干して机に置いた。彼の目は外から放して俺の方に戻った。

「そうかもねぇ。けれど、あの時からやっとわかった。自分のためでも国のためでもお金のためでもかならず見つかったら終わりだ」

「そうだよね。この仕事こそそういうものが大事だ。だから、お前はこの短い間、ずっとこの国の最高のキラーだと思った」

 俺がボスに笑った。彼も俺に笑いを返した。

 静かだ。

「この3年間、いろいろありがとうございました」

 俺が自分のグラスをボスの隣に置いた。席から立って手を伸ばした。ボスも自分の席から立って俺の手を自分のに取って握手した。

「こちらこそ」

 最後の笑いを送った。そして、次の一瞬で眉をひそめた。彼の手を掴んでいるままボスを机の上に引っ張った。紙とかファイルとか事務所の地面に散らかした。俺の空いている手を伸ばして机の上に置いていた銃を掴んで彼の背中に押し込んだ。これで、もう終わりだ。

 ビルの中に3つの銃弾の銃声が響いた。

「ごめん、ボス。前のミッションで見た。狙っていた相手の給与の記録にお前の名前があった」

 俺は彼の銃を彼の背中の上に置いた。事務所から出た。

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国の旗 永人れいこ @nagahitokun

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