赤いスレート屋根のケーキ屋さん
リュウ
赤いスレート屋根のケーキ屋さん
今日は、久しぶりに公園を散歩。
地下鉄から、歩いて5分くらいの所だが、車の音も気にならない大きな公園だ。
大きな木も多く、小鳥やリスも見ることが出来る。
僕は、深呼吸してあたりを見渡す。
ビル街では、味わえない広々とした空にそびえる木を見上げる。
(いい日だ)
小鳥のさえずりが、聞こえる。
木の葉が、適度な日がげを作ってくれて心地よい。
木の元にある小さなキノコも可愛い。
家族連れの子どもの声が、遠くに聞こえる。
幸せそうだ。
(君が居てくれたらな)
僕の頭のこんな言葉が浮かんだ。
そう、ここに君が居てくれたらと心から思った。
心がお落ち着くこの公園で、君と手を繋いで歩くことが出来たら、とても素晴らしいだろう。
何にも縛られるものもなく、純粋に楽しむことができただろう。
君の笑顔を見たいな。
僕が、つられて思わず微笑んでしまう笑顔を。
でも、今は君がいない。
きっかけは、ちょっとしたこと。
学生の時は、お互いに時間の都合できたので、楽しいデートが出来た。
僕が、就職した頃から、思うように会えなくなった。
僕の忙しい時に限って君からの誘いの連絡がきた。
入社したての僕は、自分の居場所探しで手一杯だった。
そう、あの頃の僕は、余裕が無かった。
ゴメン。
あの頃も、直ぐに謝れば良かったのに、それに気づかないほど余裕が無かった。
何と言うか、未熟だった。ガキだったということ。
それで、段々会う機会も無くなった。
ある時、街で男と一緒に歩く彼女を見つけた。
とても、ショックで声を掛けることも無かった。
それから、音信不通。
彼女から、メッセージは着ていたけど、僕が返さなかっただけ。
二人は、会わなくなった。
あれから、3年経ってしまった。
3年経ったが、彼女より気をひかれる人に、会わなかった。
一回、付き合ったけど、「あなたには、好きな人がいる」と、言われ別れたしまった。
「まだ、彼女を引きずってるね」と、僕の友だちからも言われた。
僕は、公園を抜けようとしていた。
公園沿いに、赤いスレート屋根の小さな洋館が見えた。
旗がなびいている。
<三周年記念>の旗だった。
「あっ」
僕は、思わず声を上げた。
この店、彼女が行きたがっていた店だ。
「ねぇ、ケーキ食べに行こう。
公園沿いに可愛いお店が出来たの。
赤い屋根の小さなお店なの」
目をキラキラ輝かせ、楽しそうな声が僕の耳に蘇った。
僕は、思わずお店に入った。
ショーウィンドウには、鮮やかなケーキが並ぶ。
彼女には、どんなケーキが似合うのだろうか?
ケーキを選んでいると、左から視線を感じた。
僕は、左を向くと、そこには彼女が立っていた。
前よりも綺麗になった、笑顔が変わらない彼女がそこにいた。
(やはり、君が好きだ)
僕は、声を出すことが出来ず、頷くだけだった。
「やぁ、久しぶりだね」
僕は、やっとのことで、声をだした。
その時、彼女は僕の背中を思い切り叩いた。
痛みが、頭に響く。
「どこ行ってたの?」
ちょっと、彼女が涙ぐんでいるように見えた。
「あぁ、ゴメン」
今は、素直に言えた。
(僕は、彼女しかいない。結婚しょう)
僕の頭の中は、彼女のことで一杯になった。
彼女に彼が居るだとか、結婚しているだとか、そんなことはどうでもいいと思った。
「一緒にお茶でもどう?」
僕は、必死に言葉を口にした。
「ええ、いいわ」
彼女は、軽く微笑んでいた。
お店の中を通り、中庭のテーブルについた。
「ケーキは、僕が選んだよ」
最初は、会話も途切れ途切れだったが、徐々に3年前に戻っていた。
紅茶とケーキが運ばれてきた。
ケーキは、パステル調の淡いブルーで、マジパンで出来た濃淡のあるブルーの小花が片隅に散りばめられたいた。
まるで、ブーケの様に。
「きれい」
彼女がケーキに見とれる。
「”ブルースター・ブーケ”っていうんだ」
彼女は、悪戯っぽい笑顔で言った。
「ブルースター、サムシングブルーのブーケって……」
僕は、彼女を見つめる。
これからは、ずーっと、彼女だけを。
赤いスレート屋根のケーキ屋さん リュウ @ryu_labo
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