私がアイドルになるまでの少し不思議な物語
にゃべ♪
ライブハウスのゲストライブ!
鎮守の森に住むフクロウ、トリの力を借りてアイドルになる夢を叶えた私、春野千春。私は今、5人組のアイドル「クリスタル☆エレメンツ」のリーダーをさせてもらっている。リーダーの責任は重大だよ。
トリとはその後も困る度に力を貸してもらっている。地道にアイドル活動をしていたおかげで徐々に仕事の数も増えてきていた。
今日も今日とてレッスンが終わって帰り支度をしていると、マネージャーが笑顔で連絡事項を伝えにやってきた。
「みんな聞いて! ライブの話が決まったよ。今度3周年になるライブハウスの記念ライブのゲスト!」
そのライブは1ヶ月後。新しいライブの話が決まったと言う事で、私達は喜びの声を次々に上げる。そのライブハウスの雰囲気がいい事もあって、みんなのやる気も最高に高まっていた。
レッスンも気合を入れるし、自主トレも頑張るし、自己PRとしてSNSの宣伝にも力を入れる。1ヶ月の間に出来る事を全てやって、最高の状態に持っていこうと体調管理にも気を使っていた。
目標があると言う事で、日々充実した時間を過ごせている実感もあった。
「ライブ見に行くよ」
「ライブ見に行くね」
私がアイドルをしている事を知っているクラスメイトも応援してくれている。まだ知名度はそんなに高くないから、クラスでもそこまで騒ぎになってはいないけれど、だからこそ応援してくれている事がすごく嬉しい。みんなの応援に応えなきゃだね。
ライブを2週間前に控えたある日、その異変は突然やってきた。体調管理とかしっかり守ってきていたはずなのに、突然声がうまく出せなくなってしまったのだ。そのせいでダンスもいまいち気合が入らない。
このままだとメンバーの足を引っ張ってしまうと思った私は、すぐに鎮守の森に向かう。医学的アプローチとかそう言うのをすっ飛ばしたのは、鎮守の森のフクロウにお願いするのが一番早く問題が解決するからだ。
「助けてトリえもーん」
「だから、その呼び方は止めるホ!」
呼んだらすぐに現れる。やっぱり頼りになるね。私はすぐに現在の自分の状態を説明して助けを求めた。トリはフンフンとうなずくと、また体のどこかからアイテムを取り出す。
「ほら、声が出ないならこの飴でも舐めるといいホ」
フクロウから丸い水色の飴をひとつ手渡され、私はすぐにそれを口の中に放り込んだ。味はのど飴みたいな感じですーっとするような気がする。
ただ、いつものような即効性は特に感じられなかった。
「美味しいけど、効果あるのこれ?」
「明日には効果が出ているはずホ」
今までの実績もあるし、ここはひとつ、トリの話を信じる事にして私は帰宅する。この日は喉の調子は戻らなかったものの、明日の朝になれば調子は戻っていると信じて、私は布団に潜り込んだのだった。
「ゴホッ、ゴホッ」
期待に胸を膨らませて目覚めた私を襲ったのは、昨日より更に声が掠れていたと言う事実。おかしい。トリから貰ったアイテムが効かないなんて。今までこんな事は一度もなかった。
一体どう言う事なのだろうと思いながら、私はマスクをして学校に登校する。学校ではマスク姿の私を見てみんな心配してくれた。早く治さなくちゃ。
放課後、アイテムが効かない理由を聞くためにまた鎮守の森に向かっていると、私の行く手を阻むように1人の少女が現れた。
「何をしても無駄よ」
「ゴホッ、誰?」
「わ、私を知らない? ドラゴン☆パレスのリーダー、水玉ひとみよっ!」
「あー、確かゴホッ、デビューが同じ日で、勝手にゴホッ、ライバル宣言をしてたんだっけ?」
私はぽんと手を叩く。レッスンやアイドル活動に夢中で同世代アイドルの事についてはまだあんまり詳しくなかったのだ。
確か、『ドラゴン☆パレス』と言うのは『クリスタル☆エレメンツ』と同じ日にデビューした5人組アイドルで、雰囲気が似ていた事もあって、何かと比較されているアイドルグループ。私達は意識していないのだけれど、何故か相手側からは強いライバル意識を持たれていた。
そのリーダーのひとみは私の前でふんぞり返るとドヤ顔をする。
「まぁいいわ。今頃貴女達メンバー全員調子悪くなってるから。これでライブ出演は中止ね! それとも酷いパフォーマンスを見せちゃう? 私としてはそっちの方がいいかも」
「な、何をゴホッ、言ってるの?」
「別に信じなくてもいいけど。ま、これでクリエレは終わりよ」
言いたいことを一方的に言い終わると、彼女は自転車に乗って帰っていった。私は頭の中がはてなマークで一杯になる。
まず、何故私の居場所が分かったのか。次に、ひとみの第一声の何をしても無駄と言う言葉、それはつまり私とトリとの関係を知っているって事? 最後に、全員調子が悪くなると言う予言めいた言葉。
様々な謎が絡まってこんがらがって、そんな気持ちを抱えたまま私は森へと向かった。
「トリえもーん、ゴホッ、」
「また来たのかホ。今度は何ホ」
トリは相変わらず眠そうな顔をして私の前に現れる。私はすぐに飴が効かなかったクレームと、さっきの出来事を矢継ぎ早にまくしたてた。
「俺様のアイテムが効かないなんておかしいホ」
「でもゴホッ、現実なんだよ!」
私は咳き込みながら、自分の不調を強く訴える。その様子を見て、フクロウも私が演技をしていない事が分かり、しばらくの間考え込んだ。
「これは……奴の仕業かもしれないホ」
「奴?」
マジ顔になったトリの雰囲気が気になって私はその言葉を追求する。
「俺様のライバルのナロンってやつホ」
「そいつがゴホッ、ドラゴン☆パレスのゴホッ、背後に?」
考えてみれば、願いを叶えるフクロウがいるなら同じような存在が他にいてもおかしくはない。私の前にひとみが現れたのは、そのナロンってのが色々と力を貸したと言う事なのだろう。そう考えると色々と辻褄が合ってきた。
私が頭の中を整理している間に、トリはゴソゴソとまた特別アイテムをどこかから取り出していた。
「とにかく、千春は練習頑張るホ。それとこれをメンバーみんなに」
そう言って渡されたのはシンプルなデザインのシルバーの指輪が5つ。これを装着すれば、見えない攻撃から守られるらしい。私の不調を含め、この時期のメンバーの不調はこの指輪で全て防げるとの事。
半信半疑ながらも、原因が分かってからのアイテムだったので、これならきっと効果があるだろうと私はそれを受け取る。
次の日、自分の分の指輪を装着して事務所に向かうと、確かにひとみの言った通り私以外のメンバーも全員調子を崩していた。
私みたいに声の出ないのもいれば、急に頭痛に襲われ始めていたり、体がうまく動かせなくなっていたり――。病院で診てもらっても全員異常なしと診断されたのだとか。
客観的に見ると、まるでみんな呪いにかかったみたいだった。
そこで私はお守りだよって言って指輪を渡す。精神的にかなり参っていたメンバーは、私の言葉を素直に受け取って全員がその場で指輪を装着。そうする事で症状の悪化は防がれたのだった。
こうして少しずつ調子を取り戻していき、やがてレッスンにも力が入るようになる。私もまた以前のような歌声を出せるようになっていった。
こうしてライブ当日までに私達は完全復活。無事にライブハウス3周年記念ライブのゲストの仕事をこなしたのだった。
この時、ライブ会場に敵情視察に来ていたひとみは、元気いっぱいでパフォーマンスをする私達を見て軽く絶望する。
「う、嘘でしょ……」
その頃、鎮守の森では珍客がフクロウの前にやってきていた。それはまるまると太った蛇。いや、きっと蛇のような何かなのだろう。
蛇が顔を出したところで、上空からフクロウがバサバサと羽音を響かせながら降りてくる。
「ナロン、久しぶりホ」
「やはりお前が裏で動いていたニョロな」
「千春は俺様が育てるホ。邪魔は許さんホ!」
「俺様だってひとみを大物にしてやるって約束したニョロ!」
トリとナロンはお互いの信念をかけて威嚇し合う。ただ、この場所はトリのホームなため、ナロンは森では勝ち目がないとすごすごと引き下がった。
「今回は勝ちを譲ってやるニョロ……」
「おととい来やがれだホ!」
ライブは大成功に終わり、クリスタル☆エレメンツのファンはまた地道に増える事となった。この成功の裏でトリが暗躍した事は誰も知らない。
私達は次のライブに向けて練習を続ける。最高のパフォーマンスをファンのみんなに見せるために。
次回『初めての主演映画』
https://kakuyomu.jp/works/1177354054889018132/episodes/1177354054889018227
私がアイドルになるまでの少し不思議な物語 にゃべ♪ @nyabech2016
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