コーヒーフィルター

@tomto

第1話

午前零時をとうに過ぎた真夜中のキッチンの中で僕は、デロンギの真っ赤なコーヒーマシンがシューという音を立てながら、漆黒のコーヒーをゆっくりと抽出する様子を眺めていた。


傍らのガスレンジの上では、蓋をしたフライパンの中で卵3つと大ぶりで厚みもあるベーコン2枚がパチパチと小気味良い音を立て、ガスレンジの向かいに置かれたオーブントースターの中では、分厚く切られた食パンが2枚、良い香りを漂わせ始めていた。


ここ最近、昼過ぎまで目覚めることが殆どなかった僕は、気が付くと「いかにも」な朝食を渇望し始めていた。


サイズは小さいが、無垢材で作られたセンスの良いダイニングテーブルの上には、ヴィネガードレッシングが添えられたロメインレタスとベビーリーフのグリーンサラダと、綺麗に一房ずつ剥かれたルビー色のグレープフルーツが既に用意され、僕が食卓につくのを待っている。昨年の誕生日に自分のためのプレゼントとして買った、プジョーの塩挽きと胡椒挽きも気持ち良さそうに並んでいる。


コーヒーメーカーのガラス製のジャグの中に、素晴らしい香りのコーヒーが溜まりはじめるのを眺めながら僕は、2週間ほど前に新宿西口の地下街で、自分の父親ほどの年齢の男から突然かけられた言葉を思い返していた。


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