ボクのおつかい。

鍵山 カキコ

はじめての挑戦ですっ。

「ホラホラ志温しおん〜♪ 前から欲しがってた電車のおもちゃよ〜」

「やったぁ! じゃあこれで、あそぼっあそぼっ」

 今日がお誕生日の志温君。早速お母さんからプレゼントを貰っているみたいです。

 遊びたくてお母さんをガッチリ掴んで離さない志温君ですが、何やらお母さんそれに困っているみたいです。

「う〜ん。あのね志温、遊びたいのは山々なんだけど……お母さんね、お誕生日会の準備で忙しいんだ。志温お友達たっくさん呼んだでしょ? だからその分、お料理も沢山要るんだよね〜」

 なるほど。

 今年に入って、近所の子供達との交流が多くなった志温君。ですから色んなお友達を誘いたくなったんですね。

 でも、それが原因でお母さんが遊んでくれないみたいです。さあ、どうする志温君?

「えー! ……じゃあボクお手伝いする! ママが早くあそべるようにする!」

「あら志温、本当!? お母さん、すっごく助かっちゃう♪ じゃあ、これ持ってね」

 お母さんはニッコリ笑顔で、後ろに置いてあったリュックを志温君に手渡しました。

 受け取った志温君がその中を見てみると、そこには財布や買い物メモなどのアイテムが。お母さんは、志温君をおつかいに行かせるつもりのようですね。

 それにしても、この準備の良さ……もしやお母さん、初めからこうなる事、予測していましたね?

「志温には、お買い物を頼むね。買う物は、

・牛乳

・バター

・卵

の三つでお願い。頼りにしてるよ、頑張ってねっ」

 お母さんがウインクをすると、志温君は嫌がる様子などなく「うん!」と答えました。

 そして志温君はズンズンと自信に満ち溢れた様子で歩き、玄関に向かいます。

 やる気満々。素晴らしいですね。

「いってきまーすっ」

 志温君が玄関の扉を開き、家を後にしました。

 彼の姿が見えなくなるまで手を振り見送っていたお母さんは、やがて指をパチンと鳴らします。すると、数名の子供がお母さんの前に現れました。

「志温が今出発したわ。皆、変装は完璧よ。どうかバレずに──撮影しきってね!」

『はいっ』

 お母さんが呼んだのは、今日のお誕生日会に出席予定の近所の子達でした。

 折角の誕生日だからという事で、お母さんは志温君になにか試練を与え、それを通して成長してほしいと考えていました。結局導き出した答えは【おつかい】。そして、彼女の二つ目の目的は──息子が自分の与えた試練を受けている様子を、眺めること。

 お母さんはかなりの親バカで、志温君のどんな姿でも「かわいい」と言っちゃいます。

 そんなかわいい志温君が悩んだりするところを彼女が見たがらない訳がありません。

 しかし自分は会の用意が詰め込んでいて忙しく、息子のおつかい姿を見る事ができません。そこで、お母さんは近所のお友達に志温君の撮影を依頼しました。

 幸いにも、志温君は皆に愛されていました。そのため、子供達は依頼に即答してくれたのです。

「さて……準備、するか」


     ✧ ✧ ✧


 家からスーパーまでは、すぐそこです。

 志温君、その道のりが体に染みついているみたい。迷いなく進んでいきます。


「うんうん。志温全然迷ってない。さっすが♪」

「シッ。変装しているといっても、勘付かれちゃうかもしれないだろ」

「え〜。だって志温がかわいくてぇ」

「んな事分かっとるわ」

 子供達の方はカメラ片手に、微笑ましい会話を繰り広げています。

「あら。そうこうしている間に、もう志温ちゃんお店入っちゃったよ」

「あ、ヤベ。早く入ろう」

『うん』

 店に入ってからは、皆より一層警戒しだします。

「皆、絶対にバレるなよ……」

「そんな風に言われたら、自信無くしちゃうよ」

「お前絶対バレないから大丈夫だよ! 心配し過ぎ、お前は」

 心配し過ぎだと言われた彼は、わざわざカツラをつけた上に帽子まで被り、服も普段なら絶対に着ないようなデザインのものを着用しています。

「うぅ。心配性なもので……」

「まあ、別に悪いことじゃないよ。それより、志温志温……あ、居た」


 カメラを持つ男子がようやく、志温君の姿を捉えたみたいです。

 皆に見られているだなんて考えもしていない志温君。もうすでに、牛乳は手の中に納められていました。


「キョロキョロしてる。もしかして、他の二つの物の場所が分からないのかな?」

「いや。バターの棚に居るから、どれか分からないだけでしょ」


 志温君は周りを見回すのをやめ、意を決したように低い位置のバターを手に取ります。

 そして、今度は卵の棚へ。またしても、迷いなく進みます。


「志温凄くない? めっちゃまっすぐ進んでる」

「そりゃ、アイツのお母さんが言ってる通り、天才だからだろ」


 卵を取りたい志温君。しかし、もう手にはのりません。

 困った志温君はカゴを見つけました。一番上までは届かないので、近くを歩く大人の手を借ります。

 そして、卵を含め持っていた全てのものをカゴに入れました。


「志温ヤバ……。かわいいだけじゃなく、カッコいいなんて!」


 笑顔でレジに向かう志温君。勿論、お会計だって難なくこなします。

 ──そしてあっという間に、お家に到着です!

「まあ志温。いつもお母さんが買ってる物、覚えてたんだ。すごいねぇ」

 帰宅しすかさず、お母さんからたっぷり褒められます。

 よーく袋の中を見てみると、お母さんの言う通り。いつも彼女が購入している牛乳,バター,卵と、全く同じものが入っていました。

 さすがは、志温君ですね。

「じゃあもうお誕生日会、始めようか。志温の3歳の誕生日──即ち、志温誕生から3周年! 盛大にお祝いしないと、ね♪」

 お母さんはクラッカーを構え、ノリノリです。志温君も、とんがり帽子を被ってテンションが高くなっている様子ですね。

『志温、おめでとう!!』

 部屋では、皆が待機していました。先程の様子を見て感動したのか、涙を流す子の姿も。

「みんな、ありがとっ」

 志温君はかわいらしい笑みを浮かべました。

「さあ皆! どんどん食べなさいっ。お料理、沢山あるからね〜」

『はーい!』


     ◎ ◎ ◎


 志温君はお誕生日会を、これでもかという程楽しみました。

「皆、最後にクッキーをどうぞ! 志温が買ってきてくれた物を使って作ったから、褒めてあげてね、志温のこと」

 お母さんがそう言ってクッキーを出すと、事の全貌を知っている皆は志温君を称えました。

「ほんと凄いよ志温。俺3歳の時親の手伝いなんてしてなかったもん」

「志温くん偉い。お母さん想いで」

「志温は将来凄い人になると思うよっ」

「最高の3歳だよっ、志温♡ 弟に欲しい!」

 皆に勢いよく褒められて、志温君ははにかみます。

「えへへ。みんなありがと。だいすき♪」

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ボクのおつかい。 鍵山 カキコ @kagiyamakakiko

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