三つ子の精霊、百まで

さかした

第1話

「言葉にはそれぞれ魂が宿っていてね。」

「たましい?」

「そうだ。その魂を言葉で呼んでいるんだ。

 だから人は発するその言葉で、知らず知らずのうちに

 自分の運勢を形成しているのだよ。

 特にこういうおめでたい日はね…。」

「ってそんなこと、3歳の女の子に言っても分かるわけないでしょ、

 第一何その迷信?聞いたこともないんだけど!

 それより3歳の誕生日おめでとう、さっちゃん!

 こんな変なおじさんなんか、放っておこうね!」

と笑顔で小さな女の子に愛想をふりまくのは、幸の母であった。

「おいおい、それはないだろ!」と母に手でしっしっと追い払われる男が、

どうやらその父のようである。

「三つ子の魂百まで、なら聞いたことがあるけどね。」

その様子を見て苦笑する女性がもう一人。

「ねえパパのお姉さん、何とかしてくださいよ!今の科学の時代に何?

 こんな変なことばかり吹き込んでさ、

 変な性格に育っていかなければいいんだけど!」

と相も変わらずプンプンと腹を立てている。

それをかわすかのように素早くライターを取り出すと、

父はケーキの上の3本のろうそくにさっと火を灯していった。

「そんなことよりケーキだ、ケーキ。」

「ケーキ、ケーキ!」

それには笑顔で女の子も合わせていた。今すぐにもケーキを食べたい、

そう囃し立てるかのようだ。

「ああもう!」

うやむやに逃げられてしまった母だったが、

ほら笑ってという義姉さんの言葉にしたがい、

一緒にハッピーバースデイの歌を歌い出す。

ハッピーバースデイトゥーユー!

フッ。

拍手とともに、煙の中から一人の小さな上位精霊が出現してお辞儀をした。

「いやおめでたいね、3歳の誕生日。

 改めてお誕生日、おめでとうございます!」

どうやらこの家族には誰も見えていないし聞こえていないらしい。

「私もあなたに何か一生続くプレゼントをしたいのだけれど、

 一体何がお望みかしらね?」

そう悩ましげに腕を組んでいると、少女がテレビに釘付け

になっているのが目に入った。

題名には何やらプ○キュアと表示されている。

「へえ、さっちゃんもこのアニメ観ているんだ。」

「うん!私ね、フランスパティシエの人と、スイーツが大好き!」

そう少女が喜んで話すのを聞いた上位精霊は、

「何々、フランスパティシエの人がが好き、スイーツが好き…それならば、

 あなたにはフランスの上等なスイーツに不思議と巡り合うことが多くなる、

 そんな精霊を加護に付けましょう。それでは末永く良き人生を!」

あたふたと、人生で最も大事な加護は、ものの数分で人知れず片づけられる。

けれども妖精も日々、目まぐるしく忙しい。

何せ地球上のありとあらゆる3歳の人を見つけては、

遅れぬように急ぎ駆けつけて祝福をするのであるから。

日本だけでも1日におよそ3000人、それが世界では一説には20万人

といわれる。単純計算で1秒に約2.3人のペースだ。

その間に対象人物に関する全情報を一瞬のうちに把握し、

最も望んでいる願いを叶えるべく精霊の加護を

付加しなければならないのであるから大変だ。

その場でたまたま発せられた言葉や、

やっている行為で判断されてもやむを得ない。

そういう事情で付加されるのであるから、

当然その人の願いに関する精度は格段に落ちる。

その点はるか昔、神話の時代は良かった。

人口も今のそれよりもはるかに少なく、

往時は3歳になった時点で、一人ひとりをじっくりと

観察するだけの余裕があった。

それにその人にはたった一人ではなく、

多くの守護霊はじめ精霊や加護を付加することも可能だったのだ。

特に捨て子などはかわいそうであるし、本人も多くを望んでいたから

たくさん加護をつけてやって、後にそれが功を奏して英雄になった者などもいる。

とはいえ私は上位精霊。私自身がぶちくさ文句を言ってはならない。

上位精霊は、ケーキを食べながら嬉々として談笑する温かな家庭を最後まで見守ることなく、次の場所へと急ぐべく、一瞬で跡形もなく、ワープして消え去った。

今日もまた1秒、1秒を大事に、世界中をめぐって祝福を続けていこう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

三つ子の精霊、百まで さかした @monokaki36

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ