たしかに紛れもなく3年が経っていた

御子柴 流歌

しかし数字は時として実態を伴わない

「なあ、レオン。知ってたか?」


 大剣を担いだ大男――名前をブレイズという――が問うてきた。


「なにを?」


「今日で3周年なんだそうだ」

「なにが?」


「……鈍いわね、まったく」


 ブレイズのため息を継ぐように、魔法使い然とした女――こっちはイスナ――が、心底呆れたような顔で宣う。


「私たちがチームを組んでから、ってことよ」

「……あれ? そんなになるんだっけ?」


 全くそんな感じはしなかった。

 正直言えば、年単位で時間が経過している感覚すら薄い。


「……やっぱり抜けてるね、コイツは。少しは周りに気を配るってことを覚えてほしいんだけど。見た目的に大雑把なのはどっちかと言えばブレイズの方なのに」


「おいおい、イスナ。それはちょっと失礼じゃないか。ブレイズに」


 中性的な声がイスナを諌めた。

 ……あれ? 俺は?


「いやー、だって、そうじゃない? こういう無骨な男は大雑把って相場が」


「……そう言われるとあまり否定はできないが」


「……カンナよぉ。せめてもう少し粘り強く否定してくれないかな」


 カンナはイスナとは異なる攻撃的な魔法の使い手。

 ――どっちかと言えば、おてんば口調のイスナの方が攻撃的な魔法使いに思えるが、イスナは回復系だ。残念なことに。



「アンタ、今失礼なこと考えてない? 主に私に対して」

「ないない」


 心を読むな、心を。

 そうやってすぐキレ気味になるところが、残念なんだ。



 ある時。たしか、このパーティーが構成されて間も無くの頃だったはずだ。


 なんて事のない口喧嘩をしてしまったのだが、その中でちょっと図星を突かれて悔しかったから、という理由で極限まで削られた状態に陥るまで回復してくれないとか言う態度を取るお前もどうなんだ、という話なのだ。


 それ以来、何か大きめの戦闘がありそうな予感がしたらイスナのご機嫌を伺うという事故防衛策を採るようにしている。

 情けないとは思わない。

 なによりも、いのちがだいじだ。



「しかしなー……、本当に3周年なのか?」


 話題を変えるというか、イスナの矛先を変えると言う目的の下、今しがた思っていたことを口にしてみる。


「アンタも変なところ疑うのね。ほら、これ見てごらんなさいよ」


 鼻っ柱にぶつける勢いでイスナが俺の目の前に何かを突き出してきた。


 ――っていうか、軽く当たった。

 微妙に痛え。


「日記?」


「それの1ページ目」



 言われるがまま、そのページを開く。


 パーティーのメンバーとその状態、戦闘の内容が記載されている。

 時刻の情報もあり、なるほど確かに今から3年前の今日の日付になっている。


 とても、――事細かに。


 時刻データに至っては、秒単位まで記載されている。



「ん。まぁ、納得はしてる。たしかに、今日は節目の日だな」


「だから言ってるでしょ?」


「一応は、な?」


「何よ。まだ文句あるっての?」


 ……やっぱりお前は攻撃特化の魔術師の方が向いてたんじゃねーのか? という言葉を飲み込みながら、


「最後のページだよ」


「え? ……ああ、そういうこと」


「……うん。レオン。お前の言いたいことはわかるぞ」


「俺も分かる」


 カンナ、ブレイズに加えて、まさかのイスナも、今から言おうとしていることが読めているらしい。


「最後のページが書かれた日付、2年以上前なんだよ」


「……そうね」


「具体的には787日前だな」

 カンナ、よく覚えてんな。


「で。そこまでの『時間』が60時間ちょっとなわけだ」


「…………そうね」


「具体的には62時間24分7秒だな」

 カンナ、お前の頭はどうなってるんだ?


 ――とにかく。


「……要するに、だ」


 俺が言いたいのはひとつ。




「――放置された時間の方が多分を占めているのに、3周年も何もねえだろう、と」



「納得した」

「だな」

「うん」



 ご納得いただけたようで何よりだ。




 プレイ開始からは紛れもなく3周年だ。それは本当に間違いない。


 だがしかし。


 せめて、1年くらいは継続して、できればクリアデータにしてもらいたかったわけで。




 最終決戦の地へと続く最後の街の宿屋で、俺たちは揺らめく灯を恨めしく見つめていた。


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たしかに紛れもなく3年が経っていた 御子柴 流歌 @ruka_mikoshiba

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