ラーメン屋の大将は3周年へのこだわりが強い

ハイロック

第1話「フグよりカメ」

「よう、サブ俺らがつくったラーメン屋も来週で3年目になるな、感慨深いぜぇ、

ちくしょー」

「そうですね、常連さんも増えましたし、足洗ってこの商売始めたかいってのがあるってもんですね兄貴」


「おう、だからよ。お客さんのために3周年感謝祭っていうのをやろうと思うんだよ。ラーメン全部半額っていうのはどうだ、サブ!」


「だ、大丈夫なんですかそんなことして、あっしの給料減りませんか? 3周年なんだし3割引き位で…‥」


「バカヤロー俺がそんなしみったれた真似するかよ!どーんと気前よくだ、きっちり全商品半額だ! だからよぉ、お前も少しくらい給料下がったって、江戸っ子なら文句はねぇな」


「(結局下がるのか…‥‥)へい、合点でやす。あれ、でも……」


「なんでぇ、どうしたいサブ?」


「いや兄貴、うちらのラーメン屋って来週で2年が経つんですよね。3年目なのはわかりますけど、3周年では無くないっすか? 3年が経過してはじめて3周年だと思うんすけど……」


「うん、あぁ? 普通3年目の初めに3周年記念とかってやらねぇか? ほらよぅ、3回忌とかって、2年が経った時点でやるよな」


「いや、ほら、それは最初が一回忌だからですよ。ちょっとググりますね、ほらやっぱり、3周年と3年目はべつっすよぉ、だから今回は2周年記念ですね。気づいてよかったっすね兄貴」


「……おめぇは中卒で学がねぇ癖に、そういうところだけは頭が回りやがるなあ。でもなあサブ、2周年はダメだ。3周年じゃなきゃいけねぇ」


「へぇ、そりゃあ、またどうしてで?」


「2っていうのは縁起がわりぃ、それに比べて3っていうのは最高の数字だからなあ」


「えっ、そうですかね? あっしはそんな気がしませんけど」


「バーロー、おめぇな、おめぇだってパチンコ打つだろ。2っていうのは良くねぇや通状図柄じゃねぇか、3は確変図柄だぞ3で当たりつづけりゃ、俺は仕事なんかしねぇや。俺は2なんて数字は見るのも嫌になるんでぇ、やっぱフグよりカメよ!」


「そのフグとカメの話は分からないっすけど、ギャンブルにおいて奇数のほうがいいのはわかりましたよ、でもそれだけじゃあ……」


「それから2っていうのは割り切れる数じゃねぇか、3は割り切れねぇよ、割り切れるっていうのは良くねぇや。ご祝儀だって、割り切れない数を包むだろう」



「あぁ、そうっすねぇ」


「それに、最近のわけぇやつは、売春を「ワリキリ」なんて言ったりするらしいじゃねぇか、そういう男と女は割り切ったりしちゃあいけねえよ。いいか、昔の吉原なんていうのはな、金を出せば女出せるってもんじゃねぇんだよ。お金をだして情も注いで、その結果やっとお気に入りの子の気分が乗れば抱かせてもらえるっていう、そういうもんだったんだよ。それをなんでぇ『わりきり』っていうのは、情緒がねぇ時代になったもんだなあ、サブ。だからよぉ2はダメだ!」


「あの……後半はだいぶ関係ない話が気がするんすけど……。まさか吉原のソープの話持ってくるとは思わなかったっす」


「ソープじゃねぇ、遊郭だ、一緒にするない!」


「そ、そうですか。(変なところで博識だなあ)」


「あと、3っていうのは安定する数字だって知ってるか」


「いや、知らねぇっす」


「カメラだってなんだって、ものを立たせるのは、3脚なんだよ。2脚っていうのは聞いたことねぇだろう! 4脚もダメなんだ、3脚じゃなきゃいけねぇ」


「なんで4脚はダメなんすかね?」


「……っ、とにかく3脚だ!」


「へぃ……(あっ、理由は知らねぇんだ)」


「な!だから、大体2より3のほうがいいんだよ、だから3周年で決まりだ」


「――でも兄貴、単純に順位だったら、3位より2位、2位より1位のほうがいいですよね」


「そこが、サブのわけぇところよ。1位はともかくな、2位よりは3位のほうがいいんだよ」


「そりゃまたどうしてで?」


「おめぇ、2位っていえば最後負けて終わりじゃねぇか。ところが3位っていうのよ、3位決定戦で勝って手に入れるもんよ。勝って終わりっていうのは、お前、優勝者か、3位しかないんだぜ。こりゃあ、もう3位の方がいいってなもんよ」


「ほう、なるほどさすが兄貴。そりゃあ気づきませんでした」


「だからおめぇ、オリンピックの表彰台っていうのはな、3位のやつの方が笑顔だったりするんだよ。銀メダルの受け取り拒否は聞いたことあっても銅メダルの拒否とか聞いたことねぇだろ。それから、男女関係もそうだぜ、3番目の女、男っていうのもなんだか気楽でいいじゃねぇか」


「そ、そうですか、あっしは絶対1番がいいすけど」


「バカお前、複数の女と付き合おうと思ったら、自分が3番目位が一番気楽でいいんだよ。女が1番と2番の男で揺れてる時の、空白だけをちょこんと埋める感じでよぉ、めんどくさいのは上位の男に任せて俺はおいしいところだけいただくのよ」


「(……くずだなぁ)それなら、4番目、5番目でもいいですよね」


「ばかやろぅ、4人も5人も相手がいるようなアバズレ女相手にできっかよぉ!」


「……あぁ、そうですね(3人いる時点で十分……)」


「ということで来週からは3周年キャンペーンだ、分かったなサブ!」


「へぃ……」


――1年後




「サブ、もうすぐ、この店も初めて3年だなぁ」


「あ、あ、はいそうっすねぇ」


「今年もやるぜ、お客様感謝祭!」


「去年は好評でしたもんね、4周年記念ですか?4周年だけに4割引きとかどうですか?」


「ばか、サブ何を言ってやがる、3周年記念に決まってんだろ!」


「……兄貴、それは去年やったじゃないですか」


「バカヤロー、おめぇが去年、3年が経過したら3周年って言ったんじゃねぇか!だから今年も3周年よ!」









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ラーメン屋の大将は3周年へのこだわりが強い ハイロック @hirock47

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ